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魔法学園物語~サー・トールの恋愛事情~  作者: ゆめあき千路
 (五)仮初めの城より出でし真実の夢の通い路知る人も無し

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50/60

   汝、真に欲する物を狙い定めよ、されば……

 魔法玩具店カラクリの訪問は、時間がかかる。


 店内はそんなに広くない。10分あれば一周できる。けれど、いろんな魔法玩具を見るのが楽しくて時間を忘れ、つい長居してしまうのだ。


 展示品の半分は、魔法玩具師ニザエモンさんオリジナルの魔法玩具だ。他には、魔法のない普通の玩具やインテリア雑貨、本物の宝石を使ったアクセサリーなどの小物類なども置いてある。


 雑貨や小物も、半分はニザエモンさんの作品だ。その他に、使い道のわからない品物なんかも置いてある。そういうのは、魔法玩具の材料を仕入れに行った先で見つけた、珍しい品物なんかを仕入れてくるそうだ。


「るっぷーいッ! いらっしゃいませ~」


 ピンクのテディベアが両手を振っている。レジのテーブルに座るぬいぐるみ妖精シャーキスはカラクリの名物店番だ。


 カラクリへ入ってすぐに、ローズマリーとエリカは「先にちょっとだけ」と、まっすぐインテリア雑貨のコーナーへ向かった。


 女子が好きなアクセサリーやファンシー小物の新商品があるという。入荷のタイミングはニザエモンさんの都合による。ゆえにカラクリで『新しい何かステキなもの』を買えるかどうかは、見つけた者勝ちだそうだ。


 ローズマリーとエリカの行動パターンはだいたい読み慣れた。

 僕は新しいアクセサリーの品評をアイルズに任せ、先に別の用件を片付けるべく、後ろへ向き直った。


 そこには、今まさに扉を入ってきたばかりの新たな来客が、こちらへ歩いてくるところだった。


「で、なぜ僕らの買い物に、リリィーナ教官が一緒に来ているのですか?」


 僕はストレートに問い(ただ)した。

 僕の横を歩いてすり抜けようとしたリリィーナ教官は、ピタリ、止まった。

 僕の方へ顔を向け、『何で訊くのか?』とでも言いたげに、小首を傾げる。


「もちろん、偶然に決まっているさ。わたしも魔法玩具を買いに来ただけだよ」


 リリィーナ教官の行動は非常に読み辛い。正規の授業中は無害だが、そこから解放されると、いきなり変質する特定(魔法的)危険物と言い切っても過言ではない。こういった不意打ちを喰らう場合は特に要注意だ。


「そうそう、僕らはただの買い物客だぞ」


 リリィーナ教官の後ろから、カイルがひょこっと顔を出した。


「カイル? 気が付かなかったよ」

「ひどいなあ、リリィーナ教官と一緒に入って来たのにさ」


 カイルがカラクリへ来た理由は、僕らと同じだろう。魔法玩具引き換え券の有効期限は、カイルのも今日までだ。

 問題は、カイルがなぜ、ここで、リリィーナ教官の味方をするのか、だ。


 リリィーナ教官が絡んでいるなら、きっと何かある。いや、これから何かが起こされるのか!?

 僕は露骨に胡乱(うろん)げな目を向けた、が、


「おはよう、シャーキス。ニザエモンさんを頼む」


 リリィーナ教官はしらっと無視して、シャーキスへ話しかけた。


「るっぷりい~! 少々お待ちくださいませ~!」


 シャーキスは奥へ飛んでいき、すぐにいつもの作業用エプロン姿のニザエモンさんを伴ってきた。


「やあ、いらっしゃい。欲しいものは決まったかな。やっぱり工房にある魔法のドールハウスかい?」


 僕らは工房へ通された。

 カイルはリリィーナ教官へ着いていった。

 ローズマリーとエリカは、迷いなく進み、とある棚の前に立った。


「わたしたちの欲しいのは……これなの!」


 大海原に浮かぶ海賊船と大艦船のジオラマ模型!

 僕とアイルズは顔を見合わせた。


「ほんとにこれでいいの?」


 女子には大海戦のゲームは面白くないのでは?……と、僕は暗に問いかけた。


「ううん、これがいいの。エリカと話し合って決めたのよ」

「じゃあ、エリカは別のを選ぶかい?」


 アイルズが訊ねると、エリカはすごく良い笑顔で、首を横に振った。


「つまりね、わたしたちの計画は、まず、サー・トールの券を、大海戦のジオラマ模型に引き換えてもらうでしょ? それが1つ。そして、欲しいオプションサービス分を、アイルズくんの引き換え券で注文してもらうの。そうしたら、魔法のドールハウスと、必要なオプションがぜんぶ揃うでしょ?」


 と、エリカ。


 魔法玩具引き換え券は1枚1点限り。他の魔法のドールハウスを選んでも、セットの備品以外は、別購入になる。オプションサービスの魔法プログラムはオーダーメイドだ。代金は高価で、僕らのお小遣いではとても足りない。それを魔法玩具引き換え券でまかなうというわけか。


「だって、きれいな魔法のドールハウスもステキだけど、楽しむのは女子だけって感じでしょ。でも、この大海戦なら、男子も女子も一緒に入って冒険できるわ」


 さすがは僕のローズマリーだ。僕には女子が大海戦でどんな冒険をしたいのかは解らないけれど、よくぞこれを選んでくれたと褒め讃えようとしたら、僕らの後ろの棚の向こうで時ならぬ大声があがった。


「なんだって、これをかい!?」


 ニザエモンさんだ。

 あっちには魔法の王城がある。

 またもや何かが起こったのかと、僕らは慌てて棚を回った。


「ちょっと待ってくれ、なんで君がこれを使うんだ?」


 ニザエモンさんが指差した先の、リリィーナ教官の手にはクリーム色のカードが!? あれはカイルの分の券じゃないか。


「魔法の王城は局が買い受けます」


 リリィーナ教官の言葉に、僕らはびっくりしてリリィーナ教官を見た。


「なッ……!?」


 ニザエモンさんは絶句し、僕らもあんぐり口を開けた。


「だ、ダメだよ、いくらなんでもこれは売れない。まだ未完成品だよ。まだまだ時間が掛かる……」


 慌てふためくニザエモンさん。

 リリィーナ教官は取りあわなかった。魔法玩具引き換え券をヒラヒラさせ、


「未完成の分は、今後、局の管理下で仕上げてもらいます。期間は今日から1か月。もちろん、残りの必要経費は局が全額を負担します」


 ヒクッと、ニザエモンさんの頬が痙攣(けいれん)した。


「まさか、君、最初からそれを狙って……。リリーナ、君がこの前工房へ入ったのは、ちょうど半年前だったね。魔法の王城を初めて見た、あの時から計画していたのか?」

「これは局の要請ですよ、ニザエモンさん。誰も損はしない、正当な取り引きです。それは予備役の貴方もおわかりですね」


 リリィーナ教官の口調は普段と変わりない。ただ、怖いくらいシビアな空気をまとっていた。


「君の目的はそれだったのか。うわあ、やられた……!!!」


 右手で額を押さえ、ニザエモンさんは悲痛な声を漏らした。


 しかし、ニザエモンさんはそれ以上の抗議はしなかった。重い口調でシャーキスに領収証を持ってこさせると、のろのろと書き込んでいた。

 訳がわからない僕らは張り詰めた空気の中で、動くことができなかった。

 だから、取り引きが終わるまで待っていた。




リリィーナ教官が購入した魔法の王城は1ヶ月後の完成と同時に、多次元管理局へ運ばれる予定となった。

 領収証を手にしたリリィーナ教官は、僕らへニッコリ笑いかけた。


「では、一足先に失礼」


領収証を右ポケットに仕舞い、工房の出口の方へ歩いて行く。

 チラリと見えた満足この上ない笑み。


 ニザエモンさんは、ふう、と大きく息を吐き、眼鏡をかけ直した。それから棚の端にあった分厚いファイルを抜き取り、作業台の端に置いた。


「待たせたね。ええと、大海戦のオプションサービスは、これがリストで……」


 いよいよ、大海戦の物語へどんな魔法プログラムを入力するかの相談だ。

 さっきの張り詰めた空気のことなどすっかり忘れ、ローズマリーとエリカがはしゃいでファイルを覗き込んでいる。なぜかカイルも参加していた。


「サー・トール?」


 アイルズに呼ばれたが、僕には大海戦の魔法プログラムよりも、もっと気になることがある。


 ニザエモンさんは、魔法の王城を、僕らには売れないと言ったんだ。そんな『現実のお城よりも高価な』魔法のドールハウスを、どうしてリリィーナ教官には同じ魔法玩具引き換え券で売らざるをえなかったのか?


 この疑問を訊くのは、今しかない。


「ゴメン、ちょっとリリィーナ教官と話してくる」


 僕は急いでリリィーナ教官を追いかけた。




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