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魔法学園物語~サー・トールの恋愛事情~  作者: ゆめあき千路
 (五)仮初めの城より出でし真実の夢の通い路知る人も無し

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   秘されたこと、知りたいこと

『魔法の王城誤作動事件』で始まった、魔法玩具師ニザエモンさんの元弟子と大富豪のご令嬢駆け落ち事件は、両家で話し合いがもたれた。


 結果、和解した。というのを、僕は後日、リリィーナ教官から教えてもらった。


 元弟子は宝石商を辞めた。


 これからは魔法玩具師として自分の工房を持つ。実家の宝石商とは取り引きもする。だが、経済的には独立した関係にするそうだ。


 大富豪令嬢も、実家とは縁を切らないことにした。ただし、年に何度かは絶対に里帰りするという約束をご両親にさせられたそうだ。

 こうして僕らがカラクリで巻き込まれた『魔法の王城誤作動事件』は、大団円で幕を閉じたのである。


 ただし、アイルズ達はこの結末を知らず、この先も知ることはない。


 いつか月光街を訪れた時、もう一つの魔法玩具店を見つける事はあるかも知れないが。その経営者の若い夫婦こそ、僕らが魔法の王城へ入ることになった原因だけれど……。


 2つの事象を結び付けて考える事は、不可能だ。

 それが出来るのは、この世で僕とリリィーナ教官と、ニザエモンさんの3人だけなのだから。




 翌週の土曜日。


 僕らはちょっと急いで、午前10時の開店と同時に魔法玩具店『カラクリ』を訪れた。

 魔法玩具引き換え券には、有効期限があったのだ。


 発見したのは昨日、金曜日の朝だった。

 クリーム色したカードの裏面右下に、直径1ミリほどの水色の小文字で『授与から2週間以内有効』との明記が!?


 それは明日の土曜日まで。


 こんな文字、今まで無かったぞ。という気がするのは、僕らの気のせいだろうか?……いや、これはきっとリリィーナ教官の仕業だ。時間の経過で浮き出る文字か魔法の技かはわからないが、ともかく期限は明日までだ。


 僕とアイルズは無言で頷き合い、明日には必ず魔法玩具と引き換えるべく、カラクリへの訪問を決めた。

 そうだ、魔法玩具引き換え券はもう1枚あった。カイルの分だ。個別に欲しい物があると言い、彼は券をもらった直後から1人で別行動していた。


 僕は、有効期限を発見した事をカイルにも連絡しようとしたが、寮の部屋にはいない。朝食にも出て来ないのでヒルダおばさんに訊けば、木曜日の夜から外泊届が出されているという。


 アイルズも知らなかったのだから、家族とかのプライベートな用事かな。親友なのに水臭いやつだ。


 いないカイルのことはさておき、僕とアイルズは金曜日の放課後、有効期限があることをローズマリーとエリカへ告げた。


 カラクリでゆっくり魔法玩具を選べる機会は、今から夕食までの3時間くらいでカラクリへ行くか、あるいは明日しかない、と。


 ローズマリーとエリカはまだ欲しい物を確定していなかった。


 ただ、魔法のドールハウスには絞り込んでいる、みたいなことを言った。もう少し考える時間が欲しいとも。


「だからね、昨日の放課後、サー・トールにその話を聞いてから、エリカと寝ないで相談したの」


 明けて、土曜日の午前10時。


 僕とアイルズが、カラクリの開店時間に合わせて女子寮へ迎えに行くと、彼女らの目の下には濃い(くま)があった。

 徹夜したんだね。

 ローズマリーは昨夜、隣のエリカの部屋へいき、夜通し喋っていたという。


 僕らは寮生だ。男子・女子寮とも寮則というものがあって、就寝時間は決まっている。


 もっとも、一晩夜更かししたくらいでは怒られない。なぜなら『魔法大学』の付属学院は、義務教育ではないからだ。多次元管理局員という魔法使いになりたい者が、自ら集い来る学び舎である。

 真剣に学びたければ自分で体調管理をしなさい――という確固たる教育方針が、留学生用パンフレットにも、はっきり提示されている。


 ちなみに、この留学生用パンフレットだが、僕は(いま)だに自分の分をもらっていない。カイルから借りて読んだ。


 それにしても、よく舎監の先生にバレて注意されなかったね。

 え? 就寝時間の午後11時がすんだら、2人とも頭から布団を被った。そしてドアの隙間から灯が漏れないよう、布団の中で小さなインテリアスタンドをつけて、小声で話していた、と。


 それは、絶対にバレていると思う。


 僕らの寮では、点呼などの確認は無い。そんなことをしなくても、ヒルダおばさんを始めとする管理者の方々は魔法使いだ。寮内にいる僕らの居場所など、把握しているに決まっている。

 今日が土曜日で休みだから、見逃してもらえたのだろう。きっとこれも、自己責任の範疇なんだ。


「それでね、今朝の5時頃、やっとエリカと意見がまとまったの。結論は、やっぱり魔法の王城みたいに皆で入れて、大勢で遊べるのがいいよねって!」


 ローズマリーはえらくはしゃいでいる。エリカは、そんなローズマリーを笑顔で見守っていた。2人の目がほとんど閉じているように細いのは、眠いからだろう。


 僕とアイルズはアイコンタクトした。


――魔法のドールハウスにそんなのがあったかな?

――いや、心当たりはないな……。


 お城型のドールハウスなら、工房にいくつかあった。魔法の王城ほど大きくないが、貴族の館や高級ホテルをモデルにしたちょっぴり豪華版だ。ショーウインドウに飾ってあるのより一回り大きなシリーズで、入城人数は一度に10人以上。ダンスパーティくらいできる多人数参加型だ。


「ローズマリー、それは、魔法の王城に似ている魔法のドールハウスなのかい?」


 僕は『お城型のドールハウス』という意味で訊ねたのだが、


「そう、魔法の王城みたいなの! あれなら皆で楽しめるわ。ね、エリカ!」

「そうそう、我ながら良いアイデアを思い付いたと思うわ」


 ローズマリーとエリカは笑顔で頷き合った。


 なんだろう、ローズマリーのニュアンスには奇妙な違和感を感じる。

 僕の想像している魔法のドールハウスと、ローズマリーとエリカが欲しがっている『何か』が、微妙に異なっているみたいな……。


 2人は楽しそうに喋っている。


 僕は理解をあきらめた。


 ローズマリーとエリカの会話はカワイイ。

 だけど、たまに意味がよく解らない事がある。

 たいがいは無害な事柄だ。スルーしても問題はない。


 だからきっと、今回も大丈夫だろう……と。







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