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魔法学園物語~サー・トールの恋愛事情~  作者: ゆめあき千路
 (四)作られし夢より落つる皆の顔魔人来たりて蒼となりぬる

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   終止符は不思議探偵の手で

 リリィーナ教官は僕の言うことを生真面目な顔で聞いてくれ、深くうなずいてくれた、のだが……。


「君の言い分はわかった。事情聴取と説教は全部まとめて明日にするから安心しなさい。では、これから現場検証へいくから、一緒に来たまえ」


 そうか、やっぱり説教はされるのか。

 だったらどうして僕だけ残して、アイルズ達を帰したんだよ。僕だけが悪いんじゃないぞ。


「どこへ行くのですか?」


 本当に僕の言い分をわかってくれたのか、黒い疑惑にかられながら訊き返すと、


「玉座の間だ。君たちが見たという光景を再現してもらう」


 すぐにはその意味が理解できず、僕は3回呼吸する間、考えた。


 魔法の王城には、製作者の魔法玩具師ニザエモンさんの魔法プログラムを狂わせ、僕らを地下牢へ放り込んだ原因がどこかに隠されている。そのヒントは玉座の間で見た『黒い洞窟の入り口のようなもの』だろう。アレがいったい何なのか……。きっとそれを調べにいくのだろう。


 リリィーナ教官は、作業台に置いてあった2つの仮面の1つを取り上げた。


「君はこの仮面を付けていた。君たちが体験していた魔法プログラムは、仮面に記録されている。入城するにはこのアイテムも必要だが、わたしがこれから行使する魔法の媒体にするのは、サー・トール、君自身の記憶だ」




 長い回廊は静かだ。

 舞踏会を演出していた華麗な衣装の人々はいない。


 リリィーナ教官は、玉座の間の入口から辺りを見渡した。そこにあるのは、真珠と宝石で飾られた立派な玉座のみ。謎の『黒い洞窟の入口のようなもの』は見当たらない。


 リリィーナ教官は玉座の少し手前で止まった。


「サー・トール、ローズマリーを連れ出す直前に立っていた位置を覚えているか。だいたいでいいから、そこに立ってくれ」


 僕は言われた通り、玉座が見えた角度を考えながら移動した。


「これから時間を巻き戻す。君たち4人がここにいた時を思い出してくれ」


 僕は、ローズマリーがハーレキンを投げ飛ばした瞬間を思い出した。王様ハーレキンは床に伸びて……――。


 その床の一点が、金色に光った。光が消えると、あの時のままに床に倒れている王様ハーレキンが出現した。


 僕が目を瞠る間に、王様ハーレキンは倒れた姿勢で空中へ浮かび、投げ飛ばされた軌道を逆順に移動して、足から着地した。左腕が前に伸ばされ、曲げられている。ローズマリーの手を掴んでいた時と同じ角度だ。だが、マネキン人形みたいに動かない。あれほど魅惑的だった緑の目は、今は命の無いただのガラス玉だ。


 と、玉座の後ろに、大人の背丈よりも大きな黒い楕円形が出現した。半透明に透けている、薄黒い曇りガラスみたいだ。

 リリィーナ教官は、スタスタと近づいた。


「大当たりだな。こいつが遠く離れた2つの場所を繋ぐ、魔法の移送空間の入り口だ。なかなか上手に作ってあるから、境海の1つや2つは超えているかもね」


 リリィーナ教官は喋り終える前に、薄黒い楕円形の入口をくぐっていった。


 僕は慌てて追いかけた。姿身の鏡みたいな入口へ踏み込む一瞬だけ緊張したが、中は普通のトンネルだ。暑くもなく寒くもない。壁や天井は継ぎ目が無く、滑らかな光沢があり、薄黒いガラス製の大きな筒の中を思わせた。


 カッカッと固い靴音を響かせ、リリィーナ教官はどんどん歩いていく。


 僕は追いついて、左横へ並んだ。


「魔法玩具師ニザエモンさんの元弟子は、師よりも強い魔法使いなのですか?」


 僕が訊ねたのは純粋な好奇心からだ。魔法の王城に細工し、境海世界を往き来できる魔法のトンネルを作る技術は、僕ら新米魔法使いには遠い夢の魔法術。そんなすごい魔法を使える人が、どうして魔法使いにも魔法玩具師にもならなかったのだろうか、と。


「いや、彼は魔法玩具師で、わたしたちのような魔法使いではない。元弟子が作ったのは、この移送空間を形成するための魔法プログラムだ。その原理は、魔法の王城を媒体にして、より複雑な幻想世界を構築させるのと同じだよ」


 リリィーナ教官によると、元弟子が仕掛けた計画は以下のごとし。


 交際を反対され、令嬢が軟禁されて会えなくなると、元弟子は令嬢を連れ出す決心をした。その手段に思い付いたのが、ニザエモンさんが大富豪から依頼されていた魔法の王城だ。


 元弟子は協力者に頼んで、令嬢にこっそりと約束のアイテムを送った。それは真珠のブローチと薔薇水晶のペンダント。カラクリで売られたのはその試作品だ。


 ブローチを着けた令嬢――約束のアイテムを持った若い女性――が来たら、王様ハーレキンは、令嬢が逃亡する際に妨げとなる人物を地下牢へ放り込む。牢番がノラリクラリと時間稼ぎをしている間に、令嬢は魔法のトンネルから外の世界へ脱出する手筈だった。


「その牢番がやけに人間臭かったのは、令嬢以外の人間をできるだけ引き止めるために、より精密な人物設定がされていたのだろうね」


 それで僕らは、ローズマリーを令嬢と誤認した王様ハーレキンによって地下牢へ放り込まれたのか。ということは王様ハーレキンは善意の第三者。とはいえ、僕らにとっては、はた迷惑な話だ。


 まあ、その後で王様ハーレキンはローズマリーに投げ飛ばされたから、おあいこかな。ハーレキン人形の首にヒビが入った件はリリィーナ教官が触った後のことだから、僕らは一切関知しないつもりだ。


「あまり賢い方法ではないと思います。家に閉じ込められていた令嬢と連絡を取る手段がなければ、令嬢がいつ魔法の王城へ入って脱出できるのか、元弟子にはわかりませんよね?」


 どうやって再会するつもりだったのか、僕には不思議だ。


「いいところに気が付いたね。その通り、令嬢1人では脱出は不可能だ。協力者がいたんだよ。父親以外の家族や友人がね。元弟子は抜かりなく、1つが失敗した場合に備えた別の脱出方法も考えていたんだ」


 リリィーナ教官は愉快そうに、首を傾げる僕へ謎解きをしてくれた。


 魔法の王城がキャンセルされる以前は、令嬢と会えなくなっても、宝石商の仕事で社交場などに行き、イルドレス家の動向を探ることがきた。宝石の納品や元弟子の立ち場でカラクリを訪れ、魔法の王城が納品される期日の情報も入手できた。


 だが、魔法の王城は、未完成でキャンセルされた。カラクリでその話を師であるニザエモンさんに聞かされた元弟子は、すぐに第2の計画に切り替えた。


 令嬢の身代わりを用意したのだ。


 それは、ニザエモンさんの工房からこっそり持ち出した顔の無いコロンバイン人形。その顔を、魔法玩具師の元弟子は令嬢そっくりに作りあげた。そして、薔薇水晶のペンダントには、コロンバイン人形を令嬢の身代わりに変身させる魔法が込められていた。


 身代わり人形は、協力者である友人によって薔薇水晶のペンダントと共に、令嬢の手に渡された。その日のうちに、令嬢は身代わり人形と入れ替わった。かくて恋人達は駅で再会し、汽車に乗って旅立った。


 それから3日後、身代わり人形を動かす魔法の限界がきた。令嬢の顔をした人形は小さく縮んで床に転がった。令嬢の父親は激怒したが、その頃には令嬢と元弟子は、安全な場所へ身を隠した後だった。


 となると、今頃どこかでハッピーエンドになっているであろうカップルを見つけて実家へ報告したら、リリィーナ教官ばかりかこの僕も悪役じゃないか!?


「2人が幸せに暮らしているなら、連れ戻されたら可哀相ですね」


 そこまで僕が考える事じゃないと笑い飛ばされるかとも思ったが、


「もちろん、局が介入して、明日、白く寂しい通りで話合いの場を設ける予定だ。ニザエモンさんも私も関係者として立ち合うから大丈夫だよ」


 なんと! すでに、現実的な解決手段も用意済みとは、さすがリリィーナ教……。いや、待てよ。肝心の令嬢はまだ見つかっていない。話し合いのセッティングが早過ぎるのでは……。


 僕が疑問を訊ねようとしたら、薄黒かったトンネルが、夜明けを迎える空のように明るくなった。

 それから10歩といかないうちに、僕らは日射しの中へ出た。


 前には森。田舎らしい風景だ。周辺には人家無し。下は、土を踏みならした剥き出しの地面。草の生えていない道は、あきらかに人間が往来した跡だ。この白っぽい細い道と森がある風景は、どこかで見たような……どこだっただろう。


「ほう、こんな所に出たか。ちょっとその辺を見てくる。君はここにいたまえ」


 リリィーナ教官は右の方へ歩いていき、木々の向こうへ姿を消した。

 うーん、こんな知らない場所で1人にされたら困るな。不安になっても、1人で勝手に魔法のトンネルで帰るわけにはいかないだろうし……。


 僕が落ち着かずにキョロキョロしていると、


「キャッ!?」と、高い悲鳴!


 いつの間にか左の方に、若い女性がいた。20歳前後だろう、素朴な生成りのワンピース姿の、田舎の可愛いお嬢さんという風情だ。彼女の足下には持ち手付きの籠が落ちていて、そのまわりに野草の束が散らばっている。


「わ、驚かせてすみません!」


 僕は籠を拾い、散らばった野草を拾い集めた。差し出した籠を、おずおずと受け取った彼女は、心なしか顔色が悪い。


「あの……あなたはどなた? どこからいらしたの?」


 僕の立ち位置が気になるらしく、やたらと僕の背後を気にしている。


 そこは魔法のトンネルの入口だ。彼女はここが魔法のトンネルの出口だと知っているんだ。それは、揺らぐ陽炎(かげろう)のように透明な、魔法使いにしか見えない特殊な空間。そして、これがわかるのは『魔法の王城』に関わった者のみだ。


 もし、ニザエモンさんの元弟子が魔法の王城へ仕掛けた魔法がバレて、そこから追っ手が来たと思ったのなら……彼女が、大富豪イルドレス家の令嬢に違いない。


「怪しいものではありません。僕はサー・トールといいます」


 僕は、うまい自己紹介を思いついた。


「白く寂しい通りにある魔法大学付属学院の学生です。ここへは不思議探偵のリリィーナと一緒に来ました。あなたは魔法玩具師のニザエモンさんを御存知ですか?」


 白く寂しい通りと不思議探偵と魔法玩具師。これらの名称を聞いた彼女は、頬の血色がたちまち良くなった。リリィーナ教官とニザエモンさんが味方になってくれると知っている反応だ。

 僕は、ニザエモンさんと親しいカラクリの常連ということと、魔法の王城に関わった事情を簡潔に話した。


 彼女は自分がイルドレス家の令嬢だと認めた。僕がとても若いので局員に見えなくて驚いたと、恥ずかしそうに笑った。局員じゃなくて学生ですけどね……。


 彼女についていくと、木々に隠れた可愛らしい田舎家があった。


 僕がポーチのテーブルでお茶とクッキーをご馳走になっていたら、リリィーナ教官が、元弟子という若い青年と連れ立って帰ってきた。

 元弟子と令嬢は、リリィーナ教官と少し話をして、街のホテルへ移動した。


 この街の名は『月光街』という。


 白く寂しい通りの西の方角にある隣街だ。


 2人が隠れ住んでいた郊外の森の側は、多次元管理局の敷地でもある広大な自然公園の北側になる。僕が魔法のトンネルを出た時、既視感を覚えたのは、学校の裏から行ける森の一部でもあったからだ。




 僕とリリィーナ教官は2人を月光街のホテルへ送り届け、皆でホテルのレストランで夕食を取った。


 リリィーナ教官と僕は、白く寂しい通りまで歩いて戻ることにした。このホテルからだと、魔法のトンネルの出口がある場所と白く寂しい通りの寮までは、同じくらいの距離らしい。リリィーナ教官は、このホテルも街もよく知っているようだ。白く寂しい通りの隣街だから、時々来るのかな……。


「サー・トール」

「はい?」


 僕はここまで来ることには、特に質問しなかった。リリィーナ教官の行動理由は明白だったし、今日は帰寮時間が遅れても怒られないとわかっている。


「これは一応、局員の仕事だった。アイルズ達に訊かれても……」

「はい、ローズマリーにも話しません」


 僕は人のプライベートな問題を触れ回るほどアホじゃないぞ。


「いや、まったく言わないのは無理だから、ある程度は話してかまわない」


 リリィーナ教官は少々拍子抜けした僕へ、たっぷり含みを持たせて微笑んだ。


「君は特待生だ。局での待遇は局員と同じだから、今日のこれも局員の仕事をしたという扱いになる。君の親友へどこまで詳しく話すのかは、君の判断に任せる」






 寮に戻ったら、午後10時を過ぎていた。


 ヒルダおばさんに迎え入れられた後、ローズマリーとエリカは女子寮だから会えなかったが、アイルズとカイルに捕まった。僕の帰りをリビングフロアで待っていたという。


 僕らは他に人のいないリビングフロアで円座になった。消灯は11時だから、まだ時間はある。

 カイルは親友の特権として、アイルズから事情のすべてを聞いていた。


「で、リリィーナ教官に怒られたのか?」


 2人に異口同音に訊かれた僕は――――……魔法の王城の現場検証に『徹底的に』立ち合わされたことだけを説明した。


 魔法のトンネルに関わる件だけは、無かったものとして省略した。


 アイルズからは、玉座の間で見た魔法のトンネルのことは質問されなかった。もしかしたら、魔法学が僕ほど得意ではないアイルズには、見えていなかったのかも知れない。


 アイルズは、僕だけに罰を押し付けてすまないと落ち込んだ。しかしカイルは、この時簡になってもお腹が空いたと言わない僕がどこでどんな夕食を食べてきたのか、疑惑と興味の目を向けてきた。


「へえ、そーなのか。……いつか絶対に本当のことを聞き出してやるからな」


 カイルは鋭いやつだ。だが、リリィーナ教官に口止めされたとでも思ってくれたのか、それ以上の追求はされずにすんだ。


 僕らは話を切り上げ、自室へ戻った。




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