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魔法学園物語~サー・トールの恋愛事情~  作者: ゆめあき千路
 (四)作られし夢より落つる皆の顔魔人来たりて蒼となりぬる

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   大時計は魔法の時を刻む

「ローズマリー!」

「サー・トール、助けに来てくれたのね!」


 にっこり笑うローズマリーの足下には、ハーレキンが長々と伸びていた。


 ローズマリーの後ろには、暗い洞窟のような空間が変わらず口を開けている。それが何なのかなんて、詮索(せんさく)している余裕は無い。


「早く、逃げるんだッ!」


 僕はローズマリーの手を掴んで走り出した。


「サー・トール、急げ!」


 アイルズがエリカと手を繋いで一足先を走っていく。


 玉座の間を出て、回廊を左へ曲がった。

 1つ目の扉が舞踏会場の大広間だ。


 バイオリンの音色が聞こえる。


 テンポが早い、8分の6拍子。舞踏曲タランテラ。

 その名は毒蜘蛛タランチュラに由来する。


 昔々、タランチュラに噛まれた人は、毒を抜くために激しく踊った。

 そんな治療方法があったとか。


 毒の苦しさに踊り狂ったように苦しむ様子を表した曲だともいう。


 ローズマリーと僕は、アイルズとエリカの後ろから、大広間へ駆け込んだ。

大広間はまばゆい光で満ちていた。


 舞踏会はたけなわだ。


 色とりどりの衣装をまとった人々が踊っている。

 観客は手拍子を贈り、軽やかなステップが床を踏み鳴らす。


 ここは魔法の幻想世界、カーニバル王国だ。


 魔法の王城は朝から晩まで、にぎやかなお祭り騒ぎ。


 そして今夜は、年に一度の特別な仮面舞踏会(マスカレード)(ナイト)

 今宵一夜、王国の民は、仮面を付けて別人となる。


 それは、道化の王ハーレキンのかける神秘の魔法。魔法の王城は永遠の夢の城だ。招待客(ゲスト)は永遠の一瞬にまどろみ、()めない夢の時間にしばしたゆたう。


「どいて、どいて、通してくださーいッ!」


 踊る人々をかき分けて進んでいくと、僕らの進行方向にいる人々が、ステップを止めた。


 人の群れが引き潮のように左右に分かれていく。僕らはこれ幸いと、そうして開けた道を走った。

 その中には扇を優雅に広げ、口元を隠す者たちがいる。顔を寄せ、ヒソヒソ話をしている。露骨な態度。僕らのマナー違反を(とが)めたいのだろうが、知るもんか。


 どうせ二度とは来ないパーティーだ。

 音楽は鳴り止まない。


 僕らが走り抜けた後には人の波が戻り、ダンスが再開されている。


 好きに踊ればいいさ。

 僕らはすぐにここから脱出する。


 大時計の全身が見えてくる。


 その文字盤の短針と長針が、12時へそろおうとしている。


 ボーン……!


 大時計が12時の刻を打ち始める。


 ボーン……ボーン……。


 僕らの気分は、魔法が解けるのに怯えるシンデレラさながらだ。


 (ろーく)、……(なーな)


 心の中で否応なく時を打つ音をかぞえてしまう。


 (はーち)(きゅーう)……。


 僕らは大時計のある大理石の小舞台へ近づく。


 ようやく小舞台へ登る階段の一段目を踏んだ。


 10(じゅーう)


 僕は息を切らせているローズマリーの肩を抱いて階段を上り、


 11(じゅーいーち)……!


 3段目に足をかけたところで、最後の鐘の音が響きわたった。


 ボーン――――――……。


「キャアッ!!!」


 ローズマリーが足を滑らせた! 

 僕は床に膝を付いて、ローズマリーの手を握り締め……。






 僕の目の前で、ローズマリーがしゃがみ込んでいる。


 その後ろには美しい城のジオラマ模型がある。

 僕らは外から魔法の王城を眺めていた。たくさんの魔法玩具が並べられた棚。ここは魔法玩具師ニザエモンさんの工房。


 僕のすぐ隣には、アイルズとエリカもいた。


「サー・トール、ここは幻想世界じゃないよな?」


 アイルズはエリカとしっかり手を繋いでいた。

 僕は繋いだままのローズマリーの手を掴み直して、立ち上がらせた。


「ああ、僕らは現実に戻ったんだ!」


 ローズマリーとエリカが顔を見合わせた。


「みんな、無事ね!」


 ローズマリーが1人1人の顔を見て微笑む。


「やったわ、良かったわ!」


 エリカが、わっ! とローズマリーに抱きついたので、僕らは4人で肩を抱きあって喜んだ、のだが……。


「何をしているのかな、君たちは?」


 工房の入口に、リリィーナ教官がいた。その背後には、面白そうに僕らを眺めている喫茶エクメーネの店長と、青ざめたニザエモンさんが立っていた。




 魔法の王城を包んでいた薄青い魔法のオーラは、僕らが王城から出ると同時に消えたと、ニザエモンさんに聞かされた。


 工房の入口付近で整列した僕らの前を、リリィーナ教官が刑務所の監守よろしく、靴音を響かせて往き来している。


「さて、サー・トール」


 リリィーナ教官の声は穏やかだ。なのになぜか、静かな微笑みがとても怖い。


「はいッ!」


 どんな顔をすればいいかわからなかった僕は、とにかく元気の良い返事をした。

 でも、やっぱり怒られるかな。……少しは仕方が無いと思っているけどね。


「君たちが魔法玩具店へ買い物に来たのは知っている。でも、どうして4人ともが、誤作動を起こしたという状態の魔法のドールハウスに入っていたのかな?」


 リリィーナ教官の普段とは異なる低いトーンに、僕らはビクッと反応した。


「待ってくれ、リリィーナ、それは私が……」


 ニザエモンさんの言葉を、リリィーナ教官は微笑みを振り向けて遮った。


「もちろんトイズマスター、貴方には局にきていただきます。事情聴取はあとでゆっくりとさせてもらいますよ」


 ニザエモンさんはがっくり顔をうつむけた。






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