地下牢へ放り込め!
僕らの背後に、白黒の縦縞衣装の召し使いがいた。給仕役らしく左手にリネンの布を掛け持ち、恭しくお辞儀をしている。
召し使いが顔を上げた。目元だけを隠す仮面は、一様に黒色だ。舞踏会の客役が衣装の色目に合わせてデザインや色彩の華麗な仮面を付けているのに比べ、王城に仕える者は騎士や兵士など制服のデザインが少々異なっても、シンプルな仮面の形状は共通らしい。
「王様がお呼びです。玉座の間にお越しください」
召し使いは僕らを完全無視だ。彼らが気にするのはローズマリーとエリカだけ。
「おい、彼女は僕のパートナーだ。王に招かれるのは、正式な招待客の僕らの方だろう。君は僕らを呼びに来たのじゃないのか?」
僕はローズマリーの席の前に立ち、召し使いの目からローズマリーを隠した。
そこで召し使いは、やっと僕を認識したらしい。ジロリ、横目をくれてきた。
「王様が呼ばれているのは、こちらのお嬢さま方でございます」
ひどく冷たい声音に、僕は怯んだ。しかし、ショックが強かったおかげで表情を変える暇が無くて周囲には気付かれずにすんだ。
「それはおかしいな。僕らは特別招待客だ。僕らのことを王様はご存知なのか?」
アイルズが冷静に切り返すと、召し使いは目だけを動かし、僕とアイルズを交互に眺めた。再確認でもしているようだ。だが、何のために?
「失礼ですが、あなた方はカーニバル王国の国民ではないようでございますね。招待客用の仮面を付けておられるが、いったいどちらからいらしたお客様なのでしょうか。こちらの美しいお嬢さま方は、じつは、誰も知らない遠い国の王女様方です。これから王様が直々におもてなしされるのですよ」
彼が、パン!、と手を叩いた。
と、僕らの周囲で、ザザッと白黒衣装の群れが動いた。
取り囲まれている! 召し使いの集団だ。いつの間に!?
「おい、その王様はどこにいるんだ? なんで僕らの前に姿を現さない?」
大声で騒ぎ立てても、食事に興じる人々は僕らの方を見ようともしない。新しく注がれたワインでまた乾杯している。
僕とローズマリーの間へ割り込む召使いはどんどん増え、やがて分厚い人の壁となった。
「なんなのよ、あなた達は!? どきなさいよッ」
「やめて、アイルズくんに触らないでよ! 手を放して!」
ローズマリーとエリカは囲まれ、椅子から立つこともできなくなっている。
僕とアイルズの周囲は、白黒衣装の召使いから、極彩色衣装の連中に入れ替わった。宝剣を持った騎士や宝石付きの錫杖を持つ兵士たちだ。召し使い役よりはるかに体格のいい連中がギュウギュウ押してくる。僕とローズマリーの距離を開けようとしてるんだ!
と、その時、人垣の隙間から見えるローズマリーの側へ、青い影がひっそりと立った。青い手袋に包まれた手を伸ばし、優雅な仕草でローズマリーの手を取り、椅子から立ち上がらせた。
3本角のとんがり帽子に、青い宝石と青真珠で飾られた衣装。さっき乾杯の音頭をとっていた貴公子だ。その態度は威風堂々として、他の見た目だけ派手なやつらとは違う。黙っていても目を惹きつけられる『特別な』感じがする。
とんがり帽子の中央飾りは、黄金色の小さな王冠の形。こいつ、ただのエスコート役じゃなかったのか!?
「お嬢さん方はこちらへおいでなさい。でないと、あの2人がどうなっても知りませんよ」
彼はローズマリーに話しかけながら左手で仮面を取った。
その顔を見て、僕は息を呑んだ。
白い額、くっきりと弧を描く眉の下のエメラルドグリーンの瞳は見る者すべてを魅惑する。信じがたいその美貌は、王様ハーレキン人形と瓜二つ!
「その者どもを地下牢へ放り込め!」
王様の勅令だ。逆らう者はいない。
「ははッ!」
兵士の手が僕とアイルズの腕を掴む。
「おい、やめろ、離せ!」
僕らを押さえた兵士の1人が、幅広の青い布を取り出した。
その長い青布でグルグル巻きにされる。
あ、ロープじゃなくて、青いリボンだ。
さすがは魔法玩具師ニザエモンさんの魔法のドールハウス、こういう時の小道具まで玩具らしくメルヘンチックに徹底されている。助かった……のかな?
いや、事態がまずいことには変わりないや。
ローズマリーとエリカは、どこかへ連れて行かれようとしている。王ハーレキンに何かを言われて僕らの方へ振り返った2人の顔は青ざめ、泣き出しそうに歪んでいた。
僕とアイルズはなすすべもなく高く担ぎ上げられ、城の最下層にある地下牢へ運ばれた。




