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魔法学園物語~サー・トールの恋愛事情~  作者: ゆめあき千路
 (三)白露に身を飾られし乙女らは恋を貫き珠ぞ散りける

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   ロック鳥の丸焼きに乾杯!

「ローズマリー、すぐにここから出よう!」


 僕が椅子の側に立つと、ローズマリーは目をパチクリさせた。


「えっと、マスクをしているけど、サー・トールよね? よくわからないけど、お願い、これを食べ終わるまで待って!」


 ローズマリーは大きなガラスの器に入ったカラフルなゼリーや果物を、大急ぎで口に詰め込み始めた。


「わかった、じゃあ、できるだけ急いで食べてね……」


 僕はローズマリーのお願いに弱いなあ。ローズマリーは骨付き肉を食べていないのかな? いや、横に、骨だけ残った皿がある。もう肉料理は食べ終えていたんだ。

 長い食卓には肉や魚、スイーツの類いまで、さまざまな料理が大皿で並べられている。コース料理ではなく、移動して自由に取って食べていい形式だ。


 僕の隣では、アイルズが眉間に皺を寄せながらも、エリカがイノシシの骨付き焼き肉を頬張るのを見守っている。あいつもたいがい弱いな。


「アイルズくん、あと10分だけ、お願い! この次は、ロック鳥の丸焼きが出る予定なのよ。あ、ほら、来た!」


 カンカン! と、木の板を叩く音がした。音のした方向にある扉が、両側に大きく開かれる。そこから、孔雀みたいに派手な色彩の衣装をつけた6人の召し使いが、大きな輿(こし)を担いで入ってきた。

 巨大な鳥の丸焼きが運ばれてくる。


「でかっ!?」


 僕とアイルズは声に出して驚いた。お茶会の時に学校で見たローストチキンは僕より大きかったが、こちらは牛の丸焼きよりも大きい。それが極彩色の野菜の付け合わせに囲まれ、作り物の大きな羽根やら王冠で飾られているから、よけいに大きく見える。


 おおーっ!、と、あちこちで声が上がった。食卓に付いている客たちは、新しいワインを満たしたグラスを、高く掲げた。

 ものすごく長い宴会テーブルの最奥には、青い衣装の貴公子が座っている。彼は宝石を散りばめた黄金の杯を手に持ち、立ち上がった。


「ロック鳥の丸焼きに乾杯!

 偉大な空の支配者にこの杯を(ささ)ぐ」


 その声は高くもなく低すぎもしない若々しいバリトンボイス。力強いその呼びかけに、客が一斉にワイングラスを掲げた。


「カーニバル王国の偉大な魔法の(あるじ)にこの杯を捧ぐ!

 王のハートを捧げられし乙女コロンバインに乾杯!

 まだ見ぬ美しき女王へこの新しき杯を捧げん!」

「乾杯!」


 青い衣装の貴公子が杯に口を付けると、客たちもワインを飲んだ。空になるグラスへ、給仕が急いでワインを注ぎに回る。

 青い衣装の貴公子が座った。それを合図に、給仕がロック鳥の丸焼きへナイフを入れ、切り分けた肉を配り始めた。


「ねえ、今のは乾杯の歌だったのかしら? やっぱりコロンバインは、どこかにいるのかしらね?」


 ローズマリーがエリカに話しかけた。

 エリカは小首を傾げている。


「それも変だわ。さっきまでこんなの、しなかったよね。それにトイズマスターは、まだコロンバインを作っていないって言っていたわ」


 エリカは同意を求めてアイルズを見上げた。


「人形の話だね。そうだよ、コロンバインの人形はまだ作られていないんだ」


 アイルズがうなずいた。

 ローズマリーは中身が半分ほどになったガラスの器を睨み、銀のデザート用スプーンで下唇を押さえた。


「そうね、さっきの人達も、この物語にはコロンバインという人はまだいません、っていってたし。あ、そっか、サー・トールたちは、トイズマスターからもっと説明を聞いてから、ここへ来たのよね。この物語はこれからどうなるの?」


 ローズマリーは無邪気な目で僕を見上げた。

 僕はローズマリーを見つめ返した。


 今、すごく重大なことを聞かされた気がする。


 魔法の王城の物語に、コロンバインはいないって?


 そうだとも。これは万愚節の物語。主人公は、正式なルートで入城してきた僕とアイルズだ。そして、この物語にコロンバインの出番はない。ニザエモンさんは確かにそう言った。


 だから、さっきの乾杯の音頭はおかしい。


 彼らは出てくるはずのないコロンバインに乾杯した。

 ローズマリーとエリカはここにいる誰かから、この物語にはコロンバインはいないと聞かされた。その話のどこかがおかしいと僕には思える。それは何だ?


「ローズマリー、その話は誰から聞いて……?」


 そこで僕は、ふと、周囲の様子に気付いた。

 にぎやかに飲み食いしながら談笑を続ける客たちの視線が、ときおりある一点へと集中する。


 彼らの視線の先にいるのは、ローズマリーとエリカだ!


「おい、アイルズ、見られているのは僕らじゃないぞ」

「さっきから気付いているよ。そういえば、僕らは一向に席へ案内されないな」

「きっと、用意されていないんだ」


 給仕は僕らを完全に無視している。

 僕らこそが、正式なルートで入城してきた大切な招待客(ゲスト)であり、主人公なのに!?


 僕らを案内してきた錫杖を持った家来もどこかへいってしまった。国賓どころか、客扱いすらされていない。


「2人とも何の話をしているの? わたしたちを迎えに来ただけじゃないの?」


 ローズマリーが困惑した目で僕を見上げる。それでも手に持つフルーツポンチの器とスプーンは離さない。

 骨付き肉を囓っていたエリカはモグモグと口を動かし、最後の一口を呑み込んでから、口を開いた。


「2人とも、わざわざここへ入ってきた理由があるんでしょ? わたしたちにも解るように説明して!」


 アイルズは、2人がここに入ったことがそもそも魔法の王城の誤作動であることを簡潔に説明した。

 あ、ローズマリーの手からスプーンが落ちた。


「ええ!? これは体験版じゃなかったの!?」


 ローズマリーは、やっぱり魔法のドールハウスのデモンストレーションだと思っていたんだ。

 エリカは慌てて焼き肉の脂で汚れた指をフィンガーボールで洗い、膝に載せていたリネンの布で拭いた。


「でも、アイルズとサー・トールは、どうして来たの? トイズマスターに頼んでプログラムを止めてもらえば良かったのに」


 アイルズは2人を怖がらせないように、ニザエモンさんと連絡が途絶えたことは言わなかった。誤作動のせいで普通のスイッチでは止められない、と説明した。

 ローズマリーは両頬を手で押さえた。


「どうしましょう、わたしとエリカのせいで、トイズマスターにすごいご迷惑をおかけしたんじゃ……」


「誤作動は君たちのせいじゃないよ。こっちが被害者なんだから。それについては後でリリィーナ教官に任せればいいよ。それより、今の問題は、僕らの状況だ。一刻も早くここから出ないと、良くないかもしれないんだ」


 誤作動している魔法玩具の中に長居して良いわけがない。もっともそこはトイズマスターの魔法玩具だから、ケガをするとか、いわゆる『危険な目』には遭わないと思うが……。


「お嬢さまがた」


 丁重な男の声に、ふいうちをくらった僕らは、ギクリと体を震わせた。


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