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魔法学園物語~サー・トールの恋愛事情~  作者: ゆめあき千路
 (三)白露に身を飾られし乙女らは恋を貫き珠ぞ散りける

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   切れた糸、繋がる物語

 玉座にいるはずの王様がいなかったら、どんな展開になるのだろう?




 僕らはニザエモンさんの返事を待った。

 突然、ザザーッ、と耳障りな音が反響した。


「うわッ!?」


 僕は両手で耳を押さえた。それでも音は頭に響くほど聞こえる。アイルズも耳を塞いで顔をしかめている。


 と、音が、()んだ。


 僕とアイルズは耳から手を外した。


 大広間にいる楽団員や、隅に控えた召し使いたちは、微動すらしていなかった。音が聞こえたのは僕とアイルズだけだったみたいだ。ということは、あの音も、僕らの命綱であるアリアドネ・フローラの光の糸を介したニザエモンさんからの通信音か!


「ニザエモンさん、外で何かあったんですか? ニザエモンさん!?」


 僕は大きな声で呼びかけた。さすがに大広間にいる人々の注目を集めたけれど、かまうもんか。


「ニザエモンさ……!?」


――あ、やっと通じた! おーい、聞こえるかい?


 ニザエモンさんの声は聞き取りにくく、まるで電波状態が悪い電話で喋っているみたいだ。


――一刻も早く女の子たちを見つけて、手順通りに脱出してくれ。月光石の色が変わってしまっているんだ。こちらからは、これ以上干渉できない。私はリリィーナを呼んでくる。君達は女の子たちを見つけてくれ! シャーキス、シャーキスッ。動けないのか? 電話は……くそっ、電話もダメか。エクメーネへ行ってくる、すぐ戻……。


ニザエモンさんの声は、唐突に途切れた。


「ええ!? ニザエモンさん!?」


 僕とアイルズは空中を見上げ、それから顔を見合わせた。予想外の事態が起こったのは明白だ。

 僕は胴回りに巻き付いている光の糸を右手の指先で摘まんだ。僕らの胴回り以外は見えなかった光の糸は、金色の長い糸の姿を(あらわ)した。それは僕らが入ってきた扉の方へ伸びている。


「アリアドネ・フローラ! 聞こえるかい?」


 僕は指先で光の糸を軽く引いた。切れるはずのない光の糸は音も無く千切れ、ホロホロと崩れ去った。


「アリアドネ・フローラ!」


 僕は呼びかけた。だが、空間のどこからも、返答らしきものは感じられなかった。手を振れば、光の残り(かす)が粉となって飛び散り、空気に溶け消えた。


 命綱が、失われた!


「本当に、外で何かあったらしいな」


 僕らは顔を見合わせた。


「どうする? 僕らだけなら、すぐここから出る手段はある。外に出てリリィーナ教官を待つか?」


 アイルズの提案はきわめて常識的だ。でも、本気じゃない。念のために、僕の考えが自分と同じか、確認したかったのだろう。


「これが本当に万が一の事態なら、ローズマリーを置いて帰れるもんか」


 僕の言葉にアイルズがうなずく。


「僕もエリカと一緒でなければ、出るつもりは無いよ。2人を探しに行こう」


 これは、究極の選択だ。

 ローズマリーとエリカを大時計の前まで連れて来る。

 それ以外の方法では、絶対に帰還しない。


 固く決意して、いざ、2人を探しに行かん……と歩きかけたが、


「ええと、ローズマリーは、大宴会でご馳走を食べるとか言っていたな」


 魔法の王城の見取り図では、大宴会場は大広間の反対側だったはず。ただ、回廊の距離なんかは省略されたイラスト図だったから、部屋の位置関係も簡略化されていた。


 広い大広間はあちこちに扉がある。僕とアイルズは、どの方向の扉から出れば良いのか、早くもわからなくなっていた。


「ここに柱時計があるから、あっちのドア……かな」


 アイルズも自信がなさそうだ。

 魔法の王城は、とにかく広い。

 仮想世界だから利用する土地の広さは考えなくていいし、使用できる空間に際限がないのだろう。舞踏会場の大広間はサッカー場が丸ごと入りそうだし、廊下は、おそらく何百メートルもある。

 各部屋はすべて回廊で繋がっているから、ぐるぐる回っていれば、いつかは目的地にたどり着けるが……。


「誰かに聞いてみるか」


 僕は、近くの扉の横に立っている男に声をかけた。左手に宝石飾りの付いた長い錫杖を持っている。衣装や錫杖が門番の兵士と似ているから、客ではなくて王城に仕える家来だろう。


「ほかの招待客はどこにいるのでしょうか?」


「今は大宴会のお時間です。今なら3回目の乾杯に間に合う時刻です。ご案内しましょう」


 僕らは彼に付いていった。回廊を移動していると、香ばしい焼き肉の匂いが流れてきた。甘いワインの匂いもする。


「……腹が減ったな」


 僕の呟きに、アイルズが「イノシシの丸焼きかな」と相槌(あいづち)をうった。


 そうだ、イノシシの丸焼きが出ると、ローズマリーとエリカは話していた。


「ローズマリーは食べてるんだろうか?」


 イノシシの丸焼きを。

 どんなすごいご馳走だろう。


 アイルズが、横目でジロリ、と僕を見た。


「残念だが、僕たちは食べる暇は無いぞ。一刻も早く脱出しないと」  

「わかっているよ」


 大宴会場の扉が、両側から大きく開けられた。


 淡い黄金色の光で満ちている、巨大にして豪華な大食堂。 

 それが大宴会場の第一印象だった。


 クリスタル・シャンデリアの煌々(こうこう)たる光の下、花で飾られた長い食卓が3列並び、着飾った人々がにぎやかにご馳走を食べている。ざっと見て100人を越えるだろうその中に、ローズマリーが、……――いた!


「ローズマリー」

「エリカ!」


 2人が振り返る。

 ローズマリーは銀のスプーンをくわえ、エリカは骨付き肉を囓っていた。





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