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魔法学園物語~サー・トールの恋愛事情~  作者: ゆめあき千路
 (二)魔の風に吹き閉ざされし奥津城で二人の乙女は宴にとどまる

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   突入せよ! 魔法の王城

 (またた)く間に、僕らは魔法の王城の門の内側にいた。


 振り返れば、後ろには大理石の大階段がある。

 上り口の手擦りの両側に華やかな道化風衣装の男が2人。

 きっと門番だ。手に長い棒を持っている。棒には宝石が散りばめられている。シルエットが槍に似ているけど、装飾品の錫杖(しゃくじょう)だ。武器の代わりなのだろう。


 門番は挙動不審(きょどうふしん)な僕らを気にすることなく、ただ突っ立っている。

 こういうところは人形そのものだ。


 僕とアイルズは、大理石の階段を駆け上がった。


 王城へ入る正面玄関口は、広いエントランスホールだ。扉は開け放されているけれど、ローズマリーとエリカはいない。歓迎の拍手も無い。客を迎えるイベントシーンはすでに終了していた。


 と、扉の向こうで、トランペットが高らかに吹き鳴らされた。


 扉の内側から、大きな白い帽子の伝令官が歩み出た。


「はるか遠きダレシラヌ(こく)(いさ)ましき王子、サー・トールさま、(うるわ)しき王子アイルズさま、ご到着!」


 伝令官は僕らへ向かって、(うやうや)しくお辞儀をした。

 僕とアイルズは伝令官を無視して、ドタドタと扉から中へ入っていった。


 すばやく左右を見渡す。


 通路は真正面と、右と左へ延びている。王城の構造はすべての部屋が回廊で繋がる。どのルートを選んでも、どこかにはたどり着けるわけだ。

 まずは、どちらへ行けば? と、躊躇(ちゆうちよ)した僕らの心を見抜いたように、頭の中でニザエモンさんの声が響いた。


――右だ! 右の方が大広間に近い。


「アイルズ、聞こえたか?」


「ああ、頭の中で喋られたみたいだったな」


――普通に話せば聞こえるからね。アリアドネ・フローラの光の糸が、糸電話みたいに君たちの声を伝えてくれるんだよ。


「了解しました。……すごいな、アリアドネ・フローラは」


 あとでお礼を言わないと。


 回廊のどこかから白黒衣装の召使いらしき者たちがぞろぞろ出てきたが、僕らは無視して駆け出した。

 回廊は予想より長く、僕らはけっこうな距離を走った。


 その間も親切なことに、派手な衣装の男女がにこやかに近付いてきた。

 王城のイベントにあわせて移動することなくあちこちに立つ彼らは、案内役なのだ。


「お客さま、どちらへ?」

「わたくしがご案内しますわ」

「王子さま、お待ちになって」

「こちらの舞踏会は初めてですの?」

「どうぞ、こちらへいらしてくださいな」

「お客さま、化粧室ならあちらに……」


 僕とアイルズは無言で彼らを押しのけながら、大広間へ走りこんだ。


 右側の一角には楽団がいた。楽器を抱えて待機している。左側が舞踏会のスペースだ。ここにいるのは、楽団員と大広間付きの召し使いだけ。


 正面に見える突き当たりの壁に、大理石で作られた小ステージのような場所がある。3段の階段を昇ったそこには、遠目にも大きな柱時計がある。僕よりも背が高いガラスケースの胴部分で、金色の振り子が揺れていた。


「あれだ!」


 駆け寄った僕らは、3段の階段を2歩で上がった。

 大時計の白い文字盤は磁器製らしく艶やかに光り、炭のごとく黒い2本の針が規則正しい音を響かせて動いていた。


「時刻は……」


 8時45分。

 舞踏会の始まりは午後8時。始まってから、すでに45分経過したのか?


 いや、そんなはずはない。


 魔法の王城が稼働して、ローズマリーとエリカが消えたのは、物語のスタートと同時だったはずだ。そして、僕らがローズマリーとエリカを追って魔法の王城へ入ったのは、2人が消えてから10分と経過していなかった。


 それとも外の現実とこの魔法の仮想世界では、時間の進み方が違うのか?


「トイズマスターッ、大時計は8時45分です!」


 僕らが空中に向かって呼びかけると、


――よし、大時計は正常だ。やっぱり、これはプレ・プログラムだ。君たちが見ている時計は、速く進むよ。12時まで4時間かかる舞踏会のプログラムが、2時間弱に短縮されるんだよ。


 言われて大時計をよく見れば、ジリジリと動いていく針の動きは、僕が体感で数える1分間の秒速よりもかなり速い。2分が1分間くらいの感覚だ。


――次は左の扉から出て、玉座の間に王ハーレキンがいるか見て欲しい。王がいたら、初対面の挨拶だけ済ませてくれ。


「え? すぐにエリカたちを連れ出しに行くのでは?」


 アイルズがあからさまに不満げに反論する。普段は冷静なやつだけど、焦るとけっこう露骨なのだな。


――君たちが仮面を付けて正式に入城したことで、この物語の主役は君たちになった。これでプレ・プログラムは確実に、カーニバル王国の建国祭『万愚節(オールフールズデイ)』として進行する。

 トイズマスターの説明は、次のようなものだった。


 万愚節とは、始まりから終わりまで、コロンバインの登場しないお祭り騒ぎのエピソードだ。それは無礼講(ぶれいこう)の祭、現実ではありえないどんちゃん騒ぎが繰り広げられる大饗宴である。


 この祭の間だけ、皆は仮面を付け、本来の役割から離れる。王が道化に、道化が王に、召し使いが主人、主人が召し使いになる。


 王ハーレキンは、始まりの(とき)に主役として訪れる客へ『逆さまの祝福』を与える。僕らがこのタイミングで王ハーレキンに会えば、僕らが王となり、王ハーレキンが客になる。王は魔法の王城の支配者だ。大饗宴が果てるまで、僕らが魔法の王城を支配する。


 僕とアイルズは大時計から見て左の方向にある扉から、大広間を出た。


 回廊を駆け足で移動している間にも、トイズマスターの説明は続いた。


――王ハーレキンに会うのは、進行中のプログラムの内容を確認するためと、いざという時の保険だ。女の子たちは招待客として遇されているが、魔法のアイテムは身に付けていないから、コロンバインにはなっていない。もし、魔法のプログラムに致命的な誤作動が発生していたら、大宴会場から連れ出すのに支障があるかもしれない。しかし、君たちが王として王城を支配すれば、プレ・プログラムを途中で終了させることもできるだろう。



 僕とアイルズは、玉座の間へ駆け込んだ。


 扉の前から玉座までの間には、真紅の絨毯(じゆうたん)が敷かれている。


 周囲にいるのは、尖った帽子や靴や、カラフルな色が混じったまだら模様の道化風衣装を着た人々だ。宝石だらけの非実用的な剣や、ゴチャゴチャと飾りの付いた長い錫杖を持っている。どうやら剣を持っているのが騎士で、錫杖を持つのは兵士だ。

 そういえば、正面玄関の階段下にも似たのがいたな。


 そして、青い宝石と真珠で飾られた玉座に、王ハーレキンはいなかった。


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