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魔法学園物語~サー・トールの恋愛事情~  作者: ゆめあき千路
 (一)栄光の記念の品に比べれば君無くしては思い知るべき

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32/60

   『カーニバル王国の魔法の王城』

 初めて入れてもらった奥の工房は店より広く、すぐ正面の作業台には、オートキャンプ場のジオラマ模型が置いてあった。


 僕は学校で見ていたから驚かなかった。でも、ローズマリー達は大きなジオラマ模型にびっくりしていた。修理中だからコテージやアスレチック遊具のミニチュアは取り外されている。建物のミニチュアが無ければ、山と森と湖のジオラマ模型だ。だから、これが僕らが過ごしたオートキャンプ場の正体だとは、アイルズさえも気付かなかった。


 工房の左右の壁際には、天井まである高い棚が3列ずつあった。


 初めて見る魔法玩具がたくさん陳列されている。ここは、表の店に出すには少々高価な品物の展示場も兼ねているらしい。そういった魔法玩具は、本来、完全受注生産製だ。値段も(けた)が違う。僕らのような若い常連客はまず買わないから、店頭へはあまり展示しないのだとか。


 僕らは、手前の棚から順に、魔法玩具を見ていった。


 魔法のドールハウスがたくさんある。種類が豊富で、表の店では見たことがない珍しい品物ばかりだ。


 引き換え対象外の特注品は一番奥の棚にあった。見えないように布が被せられている。ニザエモンさんの説明では、子どもの玩具より大人向きの工芸品が多く、ここにあるのは、顧客へ商品を説明するための見本品がほとんどだという。


 ローズマリーとエリカは目を輝かせ、魔法玩具の棚を見回している。2人の嬉しそうな表情を見て、僕とアイルズはこっそり頷き合った。大成功だ!


 僕はローズマリーの、アイルズはエリカのこういう顔が見たくて、ウィザードアスレチックを頑張ったようなものだからさ。

 僕らは夢中で工房の中を一巡りした。


 ニザエモンさんは珍しい玩具のデモンストレーションをしてくれた。


 大きな魔法のオルゴールの蓋を開ければ、天井は輝く星空となり、描かれた星座が口々に己の由来を絵物語で語ってくれる。


 ネジを巻かれた白い翼のペガサスは七色の光を放ちながら天井を飛び回る。

 キノコ型ランプに火を点せば、白い擦りガラスのランプシェードに描かれた花々がタネから育って花盛りとなった。


 スノードームの白い邸宅に雪が降れば、僕らにもきらめく雪の結晶が降りそそいだ。

 僕の手の平より大きな雪の結晶は、手に載せてしばらく眺めていたら、光の粒と砕けて消えた。


 玩具を見せてもらうのが楽しすぎて、あやうくローズマリーの欲しい物を選ぶという当初の目的を忘れかけていた。

 遊びたい心を抑え、僕らは工房の左にある棚の、その後ろに隠されていた空間(スペース)へと行き着いた。


「お城……?」


 ローズマリーが呟き、エリカと並んでその前に立った。


「これも魔法のドールハウスかな?」


 僕とアイルズは2人の後ろから覗き込んだ。


 見上げるほど大きな、西洋風の優美な城だ。周囲の庭園には青薔薇が咲き乱れ、白鳥が泳ぐ緑柱石(エメラルド)色の池もある。台座の直径は2メートル以上はあり、オートキャンプ場のジオラマ模型よりも大きい。


 中心の建物は8つの塔に取り囲まれ、その尖り屋根は深い青地に黄金色の斑点が煌めく。純白の城壁には、あちこちにダイヤモンドみたいにカットされた綺麗な色の石が埋め込まれ、まるで城全体が大きな宝石細工のようだ。


 僕らは、しばらく無言で城を見つめていた。


「……これ、すごいですね、ニザエモンさん!」


 僕は無理やり喋った。このまま黙って見惚れていたら、夕食までに帰れなくなりそうな気がした。魔法のドールハウスの中でもこのお城は格別だと、わかる。作りかけのこれこそ『現実のお城よりも高額な特注オーダーメイド品』だ!


「あはは、わかるかい? これは『カーニバル王国の魔法の王城』なんだ」


 僕らの後ろから来たニザエモンさんは、僕らを少し後ろへ下がらせた。


 王城の正面は左右の端に蝶番(ちようつがい)が付いていて、クローゼットの扉のように左右に分かれて開けられた。室内は15階建てだ。扉のように開かれた左右の部分にも、精巧なミニチュアの豪華な部屋がいくつも作られている。


「この城の建材はカッラーラから取り寄せた本物の白大理石なんだ。青い屋根はラピスラズリ、塔の先端に付いているのは海で育った天然真珠だ。埋め込んである宝石はダイヤモンドなど、すべて本物だ」


 ニザエモンさんは嬉しそうに、扉や家具はオーク材の彫刻で、シャンデリアはクリスタル細工。壁の壁画は有名な絵師が1枚1枚手描きしたタイル貼り、舞踏会場の柱時計は機械式の複雑時計で、100年カレンダーも付いていて……など、僕らには理解できない蘊蓄(うんちく)を語ってくれた。

 魔法の王城は、境海世界のとある国の大富豪の注文だった。


 室内に置ける魔法玩具としては最大級の、複数の人間が参加者(プレイヤー)として同時利用できる超大型アトラクションだ。付属の魔法アイテムを身に付けることによって、100人くらいまでなら一度に王城の魔法空間へ入れるという。


 おそらく、その魔法の仕組みは、夏に僕らが過ごしたオートキャンプ場と似ているのだろう。

 この魔法の王城が、制作途中でキャンセルされた理由というのが、またすごい。


 大富豪は本物のパーティを毎日のように開いている。その経費は僕らから見れば、莫大な金額だ。ところが『魔法の王城』制作費の方が、現実のパーティの年間費用よりも高額だった。


 大富豪は自分が使わないなら自分の子どもに、と考えたが、すでに成人していた息子や娘は、魔法のドールハウスで遊ぶことにはあまり興味を示さなかった。


 そこで大富豪は、自分と家族には魔法のドールハウスが必要無いことに気付いたそうだ。


 そりゃそうだな。本物のお城に住み、玩具よりはるかに豪華で贅沢な品物がいくらでも手に入るなら、夢や憧れの対象にするミニチュアハウスはいらない。


 大富豪は、途中までのキャンセル料はきちんと払ってくれたが、完成させるための残りの材料費には到底足りなかった。で、その大富豪のキャンセル後は他に買い手がつかず、現在に到っている、と。


「でも、このままではもったいないですね。いつかは完成させて売るんですか?」


「そうだねー、もしも欲しいという人がいたら、残りの材料費や手間賃を交渉してからだね。費用のこともあるけど、どうせならとことん自分で作り上げて、ずっと手元に置いておこうかな、とも思い始めているんだよ。なにしろ私の最高傑作だからね」


 ニザエモンさんは照れ臭そうに笑った。お金に糸目を付けずに設計し、これだけの時間と手間を掛けた魔法玩具は、二度と作れないという。


 魔法の王城は、最初から高価な材料で作ることを前提に設計された。

 だから、城全体を構成する素材のバランスがわずかでも違うと設定通りに魔法が働かない。

 魔法のオルゴールも、魔法のメロディーを響かせる媒体(ばいたい)として本物の黄金や宝石を使わないと、プログラムされたいくつもの長い物語が正確に紡ぎ出せないのだ。


 現在の完成度は、全体の7割程度。

 室内装飾の細かい部分や付属品の魔法アイテムが未完成なので、複数人数が参加できる大型の魔法プログラムは稼働させられないそうだ。


「どんな物語がプログラムされているんですか?」


 ローズマリーが訊ねた。ローズマリーの趣味は読書だ。ジャンルを問わずに何でも読むらしい。


「基本はシンデレラのお話なんだけどね。むかし見た、イタリアの古い仮面劇から発想したんだ」


 そう前置きして、ニザエモンさんが話してくれたのは、シンデレラのバリエーションともいえる軽やかにロマンチックなストーリーだった。


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