(五)かくて魔法のお茶会は成功す~彼女が大成功に落ち込んだわけ~
「解せぬ」
わたしはトングを握りしめ、山のように積まれた取り皿を睨んで、呟いた。
「なーに、ローズマリー? 変な独り言をいってるんじゃないわよ、ほら、手が止まってる!」
エリカは、せっせとローストビーフを薄切りにしている。流れるような包丁さばきがじつに美しい。
「わかっているわよ」
わたしは芸術的なほど薄く切られたローストビーフを一枚お皿にのっけた。グレービーソースを大匙1杯さっとかけ、横にニンジンのグラッセを1個、クレソンの葉っぱを1本添えて、できあがり。
この作業を初めてからすでに50皿以上を調えた。
完成させたそれを、わたしの前で待つ人へ手渡しする。
「どうぞ、おかわりはたくさんありますから」
いいかげん、笑顔の作りすぎで、顔面の筋肉が引きつりそうよ。
「やあ、おいしそうだねえ。すてきなお茶会に招待してもらえて光栄だよ。君のことはサー・トールから料理上手だと聞いているから、楽しみにしてたんだよ」
英国紳士のポール教授は、今日は爽やかな水色のサマースーツに薄黄色のポケットチーフをアクセントにしている。先生方の中では、群を抜いてお洒落だ。この方はリリィーナ教官の恩師らしいから、リリィーナ教官のお洒落なスーツスタイルはポール教授の影響なのかも。
「たくさん食べていってくださいね」
わたしが会釈すると、ポール教授はローストビーフのお皿を持ち、男性の先生方が集まって確保していた席へ戻って行った。
それからさらに10皿配ったら、やっとローストビーフ待ちの行列は途切れた。
ちょうどエリカもローストビーフを端っこまで切り終えた。
「できたわッ!」
包丁を置いて一歩さがり、額の汗を左手のハンカチで拭いている。その顔には『良い仕事をした』感にあふれる料理人の満足げな笑みが浮かんでいた。
「あとはセルフサービスでいけるわね。わたし達もゆっくりお昼を食べられるわ」
エリカが嬉しそうにローストビーフをお皿に取った。
「そうね、わたしもお腹が空いたわ」
わたしは山のように積んである白い取り皿の方へ、のろのろと手を伸ばした。
巨大ハムとローストチキンは出現時からすでに切り分けられていた。
なぜかローストビーフだけが、堂々たる塊のままだったのである。
魔法で切り分ける提案は、ポピィ教授に即、却下された。かといって、セルフサービスでは一人の切り分け作業時間がかかりすぎ、順番待ちの長い行列が出来てしまった。
そこでわたしとエリカがローストビーフの給仕係に立った。
苦労のかいあって、ローストビーフ目当ての長い行列は15分くらいで見事にさばけたのだが…………。
わたしはローストビーフを噛みしめた。
肉汁たっぷりのお肉はミディアムレアの焼き加減も完璧。グレービーソースは擦り下ろしたタマネギと赤ワイン入りだ。隠し味にお醤油が使われているのが絶妙にマッチしている。
早くもおかわりに来た人が並び始めた。
気持ちは解るわ、すごく美味しいもの。
さすがはポピィ教授の魔法で作られたお料理というべきかしら。
「でも、何かが違う気がするのよね……」
わたしの考えたお茶会は『学びの庭でお茶会を』。
それは上品かつ教養溢れる生徒による生徒のための、特別なお茶会。
ふだんは会えない男子と女子がお喋りを楽しむ、生徒による生徒だけのお茶会になるはずだったのに……。
「なにいってるのよ、ローストビーフを切るくらい、なんてことはなかったじゃないの」
エリカが取ってきたサンドイッチをパクパク食べながら応える。
座れる席はぜんぶ埋まっているので、わたし達は厨房のカウンター前で立ち食いだ。お茶は白いマグカップに注いだ。いつも食堂で使用している普段使いの食器類だから、高級感も特別感も、なーんにも、無い……。
「いえ、そういう意味じゃないのよ。この風景は『学びの庭でお茶会を』と違うというか……雰囲気が大きくずれている気がするの。お客さまの数も予定より多すぎるし、テーブル席じゃなくて、セルフサービスの立食形式になっちゃってるし……」
先生と生徒がお料理を摘まみ、お菓子を食べてお茶を飲んで、談笑している。『学びの庭でお茶会を』のテーマは事前に宣伝してあったのに、みんな普通に食堂へ入ってきて、普通にご飯を食べているみたいだ。
「授業のある日と異なるのは、皆の服装くらいだわ。先生方はノータイの人が多いし、みんなリラックスして楽しそうだけど、この違和感はなんなのかしら……」
「ふっ、なかなかするどいわねローズマリー。そうよ、これはぜんぜん普通じゃないわ。先生方の人数を、よ~く数えてごらんなさいな」
エリカは汗をかいて喉が乾いたらしく、レモン入りのお冷やを飲みながら、人の多い方へチラリと視線を向けた。
わたしは、エリカと同じ方を見た。ポール教授のテーブルには、見知らぬ人達がいた。よく見ると、ほかにもたくさんいるではないか。
「はッ!? 先生がいつもより多い! いえ、わたしの知らない人がいっぱい来てるんだわ!?」
招待されていない人が、どうして生徒だけのお茶会に参加できるのよ!?
「あの人達はね、多次元管理局の万能課局員の方々だそうよ」
エリカは、ふふん、先に知っていたのよ、という優越感を隠さなかった。
生徒間の人間関係では、情報が命。親友といえども例外ではない。情報を制した者が、友情の天秤においても勝利に傾くのだ。
「ずるい! なんでそんなの知ってるのよ」
「ローズマリーがお茶をお給仕しているとき、アイルズくんに教えてもらったの。リリィーナ教官が万能課の局員を連れてきたんだって!」
エリカは、ポッと頬を染めた。わたしが一人で百人分のお茶を煎れている間に、こっそりアイルズくんとお喋りしていたなんて、許せない!
「ずるいわ、わたしはあれから悟くんと会ってもいないのよッ」
悟くんはクラスの人気者だ。お茶会開始から悟くんは、級友のグループと一緒にあちこちで家政学の女子と喋っている。
エリカの説明では、悟くんは級友男子に連れ回されているらしい。「これが家政学課のローズマリーと親しいサー・トールで、ぼくらは彼のクラスメートです、これから一緒によろしくね」と、初対面の挨拶代わりにされているという。
「ローズマリーは、サー・トールと毎日会ってるじゃないの。多次元管理局の万能課の局員なんて、めったに拝めないレアな存在なんだから、後学のためによく見ておきなさいよ」
エリカは、わたしが怒るポイントがズレているといってよく怒るけど、局員をレア者扱いするエリカの方がピントがずれている、とわたしは思う。
「べつにいらないわ。わたしは、悟くんが万課員になる予定だから、悟くんを見ておけばいいもの」
そういうエリカの付き会っているアイルズくんも、ゆくゆくは魔法使いのエリート部署として名高き万能課に行くと評判の優等生だ。エリカだってわたしと同じでしょ、と言おうとしたが、エリカが先に喋った。
「あのね、そういうことを平気で口に出すから、ひとりだけ抜け駆けしてる幸せ者なんて、言われるのよ。ちょっとは空気を読んだらどう?」
エリカの口調は、けっこう本気でむかついているように聞こえた。
サラマンダーの発見から爆発を経て、休憩無しで笑顔でお給仕し続けるという緊張に晒されてイライラしていたわたしは、これで、キレた。
「なにそれ、わたし、そんなふうに言われているの!? それを黙って聞いていたなら、エリカだって同罪よ、意地悪だわ!」
どうせ舌戦ではエリカにかなわない。わたしは、ふえーん、と泣きながら厨房へ走り、キッチンカウンターの隅っこへ座り込んだ。
……しばらくうずくまっていたが、エリカは探しに来ない。アイルズくんの声が聞こえたから、一緒に空いている席を探しにいったのだろう。
……女子の友情って、こんなものなのね。
だめだわ、疲れた。しばらくここで休憩しよう。いま、厨房から出ていっても、おそらくわたしにはなにかしら、お給仕の仕事が待っている。
わたしはキッチンカウンターの下で膝を抱えた。なんだか頭がぼんやりして、半分眠りのなかにいるような気分だった。
単純に疲れていたのだろうけど、この時、わたしは意図せずして気配を消したような状態になっていたらしい。
だから、ポピィ教授も、あのリリィーナ教官でさえ、わたしがここにいたことに気付かなかったのだろう。
「これは七面鳥でもダチョウでもないし……ロック鳥でもイメージされたのですか、ポピィ教授?」
笑いを含んだリリィーナ教官の声が近くで聞こえても、わたしは何の感想も抱かなかった。ただ声がしている、と、リリィーナ教官の音声を、右の耳から左の耳へ聞き流していた。
「幻獣のロック鳥は食用には不向きですよ、リリィーナ。もっとも、あなたなら焼き鳥にしそうですけど。この味はチキンです。これは、ローズマリーの夢のローストチキンなのですよ。よほど思い入れがあるのでしょうね」
ポピィ教授は溜め息混じりだ。
「でも、魔法で作ったのはポピィ教授ですよね。こんな巨大なニワトリは、境海世界にもいませんよ。あのハムとローストビーフも規格外の大きさですし。ほら、ほかの人も、これが魔法で出された料理だと気付き始めているようです。これ以上、サラマンダーの件は伏せておけませんね」
「生徒には私から、次の授業で話しますよ。ローズマリーとエリカも、クラスメートには話さざるを得ないでしょうし、隠し通せるものでもありませんしね。それにしてもまあ、私としたことが、教え子の想像力に負けるなんて……。こんな失敗は、あなた以来ですよ、リリィーナ」
「ローズマリーは花の精霊の申し子ですから、この学校へ来て、潜在的な魔法の力が強くなってきたのでしょう。気を付けないと、このチキンみたいに、ポピィ教授の方がパワー負けしますよ。わたしはポピィ教授に、料理でご迷惑をかけた覚えはありませんが?」
「あなたが乳児用の粉ミルクと粉せっけんを間違えて魔法で出して以来、と言い直しましょうかね。私の教師歴では、五指に入る大惨事ですから」
ポピィ教授が、フッと笑う。
げふんげふん、とリリィーナ教官は咳払いした。
「また、恐ろしく古い話を……。では、ローズマリーの今日の所業のご感想はいかがですか」
「あなたが校舎を爆破したことに比べれば可愛いものです。でも、今日は助かりましたよ。あなたの護りの魔法のおかげで、ローズマリーには傷一つありませんでした。さすがは私の教え子です。その優秀な教え子にうかがいますが、例のサラマンダーは見つけられそうですか?」
「ええ、じつは、もう居場所は突きとめてあります」
リリィーナ教官は話題が変わったことにホッとしたようで、声音がごく穏やかになった。
「どういうことです?」
ポピィ教授の声は緊張ではりつめた。カチャリ、と音がした。フォークが皿に置かれた音だろう。
「さっきはローズマリーに聞かせたくなかったのですよ。あのサラマンダーは、ローズマリーに付いていました。あの子とまったく無関係ではなかったので」
リリィーナ教官は、お茶が冷めた、というのと同じくらい、淡々と述べた。
「過去形ですね。いまはどこに?」
「サー・トールですよ。あのサラマンダーは彼に縁があるようです。ローズマリーがサー・トールの事を考えていたから、引き寄せられたのでしょう」
「危険は無いのですか」
ポピィ教授は怪しむように訊ねた。なんだか、リリィーナ教官のことを信用していないみたいだ。
「サー・トールが無闇に精霊魔法を使ったり、完全に自我を喪失したりしなければ、問題は起こらないでしょう。我々は、これからじっくり見守るつもりでいます」
リリィーナ教官は「わたし」ではなく「我々」といった。局員のことだろう。でも、あの優等生で優しい悟くんがどうして、大勢の局員に見守られなくちゃいけないのかしら?
「まあ、あなた方、万能課の局員が、魔術師の顔をするときほど安心できないことはありませんよ。いったい、どんなふうに見守るつもりなのでしょうね、サー・トールの指導はポール教授でしたね?」
「お気遣いは無用です、現場での対応はわたしに一任されていますから」
「あなたはサー・トールにどんな指導をするつもりなのですか、リリィーナ?」
ははっ、とリリィーナ教官の笑い声。
「そんなに怪しまないでください。あのサラマンダーは、サー・トールの眷属ですから、彼自身に危険はありません。もちろん、なんらかの要因で、危険があると判断したときは強制介入しますがね。わたしもサー・トールの成長が楽しみなんですよ。あ、あちらの席が空きましたよ、行きましょうか」
そして、お二人の足音は、遠ざかっていった。
わたしはすっかり目が醒めた。
オーブンの爆発くらいで火の精霊は消滅しないのを、わたしも知っている。
リリィーナ教官の話の中で、わたしに理解できたのは、あのサラマンダーは悟くんと関係のある精霊であり、今はどこかへ姿を隠しているということだけだった。
わたしはこそこそと厨房から出て、食堂へ戻った。
お茶会は大盛況だった。来てくれた人達はみんな楽しそうで、お料理やお菓子の出来栄えを、口をそろえて褒めたたえてくれた。
わたしは悟くんを探した。わたしの行く所にはどこでも付いてくる人なのに、今日は一度もローストビーフのコーナーには来ていない。
悟くんは食堂にはいなかった。
会えたのは、お茶会が終わり近くになってからだった。悟くんは慌てた様子で、食堂の入口から入ってきた。
やっと会えた、君が無事で良かった……と不安そうな表情でわたしの手を握る悟くんに、わたしは何度も謝った。
わたしが厨房に隠れた頃、悟くんはようやく級友から解放された。
そこでわたしの姿が見えないのに気付いたという。
どこへ行ったのか聞こうにも、エリカもいない。
ポピィ教授やリリィーナ教官に訊いても知らないというし、お茶会の最中にいなくなるなんて何かあったのかと心配になり、寮まで見に行ってきたという。
ちなみにエリカはお茶会の形式がセルフサービスなのをさいわい、わたしが厨房に籠もってすぐ、お茶会が始まる前にこっそり取り分けておいたお菓子を詰めたバスケットとお茶のポットを隠し場所から取り出し、アイルズくんと二人で中庭へ抜け出していた。二人はお茶会が終わるまで戻ってこなかった。
わたしは厨房の片隅に隠れていたとは言えず、お茶会の邪魔をしないように、静かに片付けものをしていたと言い訳した。
その後の悟くんの様子は、べつだん変わったところは無かった。魔法やサラマンダーの気配はまったく感じられなかった。悟くんはお茶会の終了まで残り、後片付けまで手伝ってくれた。
お茶会の参加人数は、最終的に二百人近くになったようだ。
お料理もお菓子も、一欠片も残らなかった。
リリィーナ教官は、多次元管理局の万能捜査課にいた局員を全員連れてきたらしい。編集局の局員もいたという。お客さまの中には白く寂しい通りにお店を構える魔法玩具店のトイズマスターや喫茶エクメーネのマスターもいた。聞くところによれば、この人達は特殊技能を生かして多次元管理局と契約している、特別な局員だそうだ。
なんでリリィーナ教官は外部の人間まで呼んだのだろうと、疑問に思うようになったのは、お茶会の片付けがすっかり終わってからだった。
その理由は、後日、喫茶エクメーネのマスターに聞けた。
みんなリリィーナ教官の友人だった。
ポピィ教授が魔法で出したご馳走は、大量すぎて生徒だけでは絶対に食べきれないとリリィーナ教官は察し、すぐに古巣の万能課のオフィスへ行き、「美味しいご馳走が出るパーティがあるから来いよ、ちょうど昼食の時間だろ」と声を掛けたらしい。それを聞いた局員の人々は、魔法大学の食堂へ、ちょっと珍しいメニューの昼食を食べに来たつもりだったようだ。
結果としてお茶会は、来た人皆に褒めてもらえて感謝もされたけど、わたしは素直に喜べない、なんだか複雑な気分だった。
そして、三日後、多次元管理局編集部発行の多次元新聞に、わたし達のお茶会の記事が載せられた。
エリカが嬉しげに持ってきたその新聞には、サラマンダーと爆発事故の件はさすがに書かれていなかったが、
『素晴らしい魔法のパーティ料理。家政学課の完璧な魔法の実践によるお茶会は大成功!』
という題名で、わたしとエリカがローストビーフのお給仕をしている写真付きで、詳しいメニューまで家庭欄に掲載されたのである。
そこには、あきらかに魔法で再現されたと判別できる、この世にあり得ない巨大ローストチキンの写真も一緒に掲載されていた。
いったい誰よ、ローストチキンのサイズがわかるように、お皿の横に普通サイズのマグカップを並べて撮影したのは!?
「ななな、なんでこんな写真まで……。これじゃまるで、わたし達が何の苦労もせずに、魔法で全部用意したみたいじゃないの!」
実際に魔法をつかったのはポピィ教授で、それも緊急の救済措置だったけど、そんな事情はどこにも書かれていない。サラマンダーの件はポピィ教授から生徒へも簡単に説明されたが、わたしがひとりでサラマンダーと対決したことまでは公けにはされていない。
そういえば悟くんも、はっきりとは言わなかったが、あのローストチキンのとんでもない巨大さのせいで、わたしとエリカがお菓子も料理も魔法で出したと思っている節があった。
わたしって、よっぽど大きなローストチキンに憧れていたのね。ポピィ教授が考えたものなら、ごく普通サイズになっただろうに……。
「あ、そうか、それでなのね!」
わたしは、ガバッと新聞に顔を寄せた。
「なによ、急に大きな声を出して?」
エリカがビックリして、おののいている。
わたしは新聞のローストビーフの写真を指差した。
「魔法で用意された料理だとバレた理由が、わたしにもわかったの!」
厳格なポピィ教授の作るものなら、この世にあり得ないサイズの料理が出てくるわけがないのだ。だから、あの特大肉料理三種を見た人達は、生徒が考えた夢のメニューを魔法で顕現させたものだと、素直に考えた。
わたしとエリカがお茶会の準備をしていたのは皆が知っていた。
実際に料理を出す魔法を使えるか使えないかはべつとして、今回はわたしとエリカがポピィ教授の指導で、魔法で料理を出したと考える方が自然だ。
「なんだ、ローズマリーはそんなことで悩んでいたの」
エリカはお茶会の最中から、皆にそう思われたことを知っていた。
でも、それをエリカが否定するなら、サラマンダーの件から説明を始め、ポピィ教授の魔法で料理が作られたことを明かさねばならない。だから、スルーすることに決めたという。
そういうことは、早く言っておいて欲しかったわ。
なんだか、わたしだけ空回りしているみたい。
エリカは、わたしほどお茶会の結果は気にしていないみたいだし……。あんなに苦労して準備していたことを、もう覚えていないのかしら。
「それよりこれ、この写真ね! アイルズくんが、私がきれいに写っているって、褒めてくれたの! アイルズくんてば、新聞を2部購入して、保管しておくっていってくれているのよ」
はしゃぐエリカの目の前で、わたしは新聞を読み終えると、力いっぱいグシャグシャに丸めた。
エリカが、キャーッなんてことするのよそれは私の保存用よッ、と慌てて手を伸ばしてくる。わたしは思いっきり無視して、丸めた新聞をゴミ箱に叩き入れた。
わたしは落ち込んだ。
お茶会とローストチキンなんか、二度と見たくないと思ったほどだった。
それからさらに数日後、このお茶会を縁にして誕生した何組ものカップルからの熱列な感謝の報告を受けるまで、わたしのどうしょうもない落ち込みは続いていたのだった。
番外編:ローズマリーの裏事情~彼女がお茶会を主催したわけ~
〈了〉




