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(二)魔法大学付属学院

 この白い霧の街は『白く寂しい通り』というらしい。


「ここは多次元管理局のお膝元でね。多次元管理局は、境海世界の正義と秩序を司る司法局だ。魔法大学は、その多次元管理局が創立したんだよ」


 不思議探偵リリィーナは、歩きながらこの街について説明してくれた。


「その多次元管理局というのは、ようするに警察みたいなものですか」


 俺は異世界の話を理解しようと必死だった。

 不思議探偵リリィーナがヤバい人ではなさそうだとわかってからも、この状況はまだちょっと怖かった。

 振り向いたらそこは異世界だった、なんて、信じろという方が無理。


 ありがたいことに俺の生存本能は生き延びることを奨励(しようれい)していて、腰が抜けたりはしなかった。自分でも度胸が据わっているなと感心する。


 でも、もしかしたら不思議探偵リリィーナに心理状態を操作する魔法を掛けられていた可能性もあるなぁ……。


「まあ、そうだね。君の未来の就職先は、境海世界の警察みたいなものだな。日本の警察機構には似たところがあるよ」


 鉄柵の門から学校の敷地に入ると、白い霧は嘘のように晴れた。


 魔法大学は、クラシックな風情の洋館だった。そういえばヨーロッパのどこかにこんな中世の建物が残っている街があったような……。


 俺は「なんだか、すごく古めかしい学校だなあ」という感想しかわかないけど。こういうのはきっと歴史的な(おもむき)とか、風情のある建物とか言うんだろう。


 案内された中庭には四角い花壇にパステルカラーの花が咲き乱れていた。

 大理石の噴水池の傍で、俺は煉瓦の建物を見上げた。


「あの、ここは?」

「君が編入するのは、魔法大学の中にある、魔法大学付属学院だ。まずは魔法学課のある一般教養科に入ってもらう。ここはその教職員の部屋が在る建物だよ」


 不思議探偵リリィーナは、僕を安心させるように微笑みかけた。


「ペーパーテストは無いから安心したまえ。受けるのはポール教授の面接試験だけ。しかも、私の推薦があるから内定は確実だ。良かったね」

「そりゃ、出題傾向のわからないペーパーテストなんて、無くてけっこうですけど……」


 えらく具体的な話になってきたな。


 これじゃ、自分のアホな白昼夢だとか幻覚だとかいう理由をつけて現実逃避もできないじゃないか。突拍子すぎる異常な状況には体の方が正直で、緊張しすぎて冷えっぱなしだ。


「ほら、あの窓がポール教授の部屋だ」

「へ?」

「よく見たまえ。この大きな木の枝が伸びている先の、ほら、あそこだよ」


 目の前にある大木の、張り出した一本の太い枝が、その窓に向かって枝先を伸ばしている。まるでせいいっぱい、あの窓を指差しているようだ。


「ああ、あの窓か」

「君の面接試験は、あの窓のある部屋で行われる」


 迷子になると困るからね、場所をよく覚えておくんだよ、とリリィーナさんに念押しされたが、俺は返事の代わりに軽い溜息を吐いてしまった。不安と緊張が高まってくる。


「あの、もし……不合格だったら、俺は、どうなるんですか」

 

 断れずにここまで来てしまったが、正直なとこ、日本の我が家へ無事帰れるのなら、魔法使いの試験なんかどうでも良い。


「結果がどうあれ、君は地球に帰れるよ。君の身柄はすでに多次元管理局の保護下にある。何があろうと傷付いたりしないように魔法で護られているから」


 不思議探偵リリィーナは微笑んだ。俺のやる気のない反応は気にしないようだ。

 俺は、不思議探偵リリィーナの顔を真正面からはっきり見た。出会ってから、これが初めてのことだった。


 俺は目を(みは)った。すごく整った顔立ちだ。男にしては綺麗すぎる。額や首筋の線は驚くほど繊細だ。背広ネクタイをしている上半身の直線は男にしては中性的。胸は無いけど女性でも通りそう……!?


 いや、この人は男じゃないんだ!


 もしかしたら、凛々しいタイプの美人!? スーツが似合う綺麗な女性なんじゃないか!!!

 俺はやっと確信した。そういえば『リリィーナ』は女の名前みたいだ。特に男っぽい態度もとっていなかった気がする。


 激しく後悔した俺は、一瞬にして心を入れ替えた。


 世の中学生男子は、綺麗な女性の前だと態度をコロッと変える特徴があります。

 俺も例外ではありません。

 どうかこれまでのご無礼の段、失礼の数数は、なにとぞお許しを。……と、心の中で、深く(こうべ)を垂れさげた。


 そんな俺の心情を知ってか知らずか、不思議探偵リリィーナは、


「さあ、行こうか」


 先に立って歩き出した。


「は、はいっ」


 緊張が一気に解けた。俺は急に早くなった動悸をなだめながら、不思議探偵リリィーナへ、素直に付き従った。



 

 このドキドキが、これから始まる未知なるもの、新しい冒険への期待だったと気付いたのは、もっとずっと後のことだけど。






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