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魔法学園物語~サー・トールの恋愛事情~  作者: ゆめあき千路
番外編 ローズマリーの裏事情~彼女がお茶会を主催したわけ~

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19/60

(四)お茶会の始まりは何時?

 10時のお茶会開始まで、あと5分30秒……。


 わたしが壁の時計を見上げ、どうして誰も来ないのかしら。いくらなんでも遅すぎる……と、不安が最高潮に高まったとき、ドアがノックされた。


 悟くんとアイルズくんだ。大きな紅薔薇の花束を抱えて入ってきた二人は、部屋中に飾り付けられた薔薇を目にすると、ものすごく失敗した感を表情に(にじ)ませた。


 でも、わたしとエリカは花を持ってきてくれた心づかいが嬉しかったから、大喜びで紅薔薇の花束を受け取った。これは特別だ。しばらくキッチンのシンクに張った水に付けておく。あとで自分達の部屋に飾らなくちゃ。


「それから、ローズマリー、さっき寮の入口でヒルダおばさんに会って、頼まれたんだけど……」


 悟くんは、携えてきた伝言を口頭で伝えた。


『お茶会の時間を10分遅らせること。リリィーナ教官とポピィ教授がすぐに行くから待っていること。お茶は50人分追加。開始時間の変更は参加者全員に通達済み。ヒルダおばさんより』


 なんですと?

 わたしの耳がおかしくなったのかしら。


「いや、間違いなく50人って言われたよ」


 悟くんは、いたって真面目だ。


「ヒルダおばさんの冗談ではないとしたら、いったい、誰がくるのかしら」


 わたしは、魔法大学全体の教職員の人数は知らないけど、悟くんの教室のポール教授みたいに時々見かける先生は、15人くらいだったと思う。残りの35人は、どこから来るお客さまなのだろう。わたし達が直接には知らない先生が、まだそんなにたくさんいらっしゃったのかしら?


「まあ、いいじゃないの。お菓子もお料理もたっぷりあるもの。お茶はいくらでも煎れられるし、残ったお菓子は、明日からのおやつにすればいいわ」


 エリカは余裕たっぷりに、普段とは異なる彼氏向けの上品な笑い方をした。

 ところが、アイルズくんの反応がいつもと違った。エリカに見惚れることなく、顔色を変えたのだ。


「そのことだけど、もしかしたら足りないかも……」


 アイルズくんはエリカから目を逸らした。すごく気まずそうだ。

ん?、と悟くんが首をかしげる。


「何かあるのか、アイルズ?」


「じつは、30分ほど前に、寮の前の道でエリカに会ったときに……」


 その時刻は、粉砂糖まみれになったエリカが寮でシャワーを浴びて、ここへ戻ろうとしていた頃と一致する。


「お菓子は予定よりも多めに用意してあるから、追加で10人くらい増えても大丈夫だと聞いたんだ。それで寮に居た、アミダくじであぶれた連中の何人かに声をかけたんだよ。そうしたら、それを聞き付けた他のクラスの連中も、お菓子は当たらなくてもいいから全員参加させろっていってきて……。ごめん、僕には止められなかった。たぶん、寮にいた男子と女子の、全員が来ると思う……」


 アイルズくんは神妙な表情でうつむいた。


 今日は土曜日で学校はお休みだが、悟くんは、今朝は剣道の朝稽古とやらで、早朝は5時から校内の道場に来ていたという。アイルズくんと合流したのはついさっき、白く寂しい通りの花屋さんで注文していた薔薇の花束を受け取った時だから、エリカとアイルズくんの会話は知らなかった。


「みんなが来たら、参加人数は軽く百人以上になるね。こんな大パーティになるなんて、予想していなかったな」


 こんな時でも、悟くんは妙に冷静だ。魔法学のテスト以外で、困ったり焦ったりすることはないのかしら。よくわからない人だわ。


「そうね、椅子は足りないし、この部屋では狭すぎるわね」


 わたしは足りない席をどうしようか、考えた。


 用意したお菓子の量よりなにより、ここは調理実習室横の会食室だから、もともとそんなに広くない。大テーブルの椅子も円卓のテーブル席も、参加人数分しか用意していない。最初に予定した30人前後が定員なのだ。入りきれない人は廊下に溢れてしまう。


 さすがにお客さまを廊下に立たせて、お茶だけを配るなんてできないわ。

 わたしがエリカにその可能性を指摘すると、


「あなたが困っているポイントがよくわかんないけど、どのみちここでは百人にお茶は振る舞えないわ。ポピィ教授に相談しましょ」


 エリカがキリッと唇をひき結んだ時、リリィーナ教官とポピィ教授が入ってきた。


「お茶会の会場は、食堂に変更になったよ」


 と、リリィーナ教官はにこやかに告げた。

 なるほど、校内の食堂なら茶器も揃っているし、皆が座れる椅子もある。

 が、わたしはお菓子と料理の数を考え、一瞬、目の前が暗くなった。


「無理ですッ!? 今から全部を運ぶのは、時間がかかります」


 わたしは焦ったが、リリィーナ教官もポピィ教授も、ぜんぜん気にしなかった。


「もちろん、ぜんぶ魔法で移動させるよ、学長の許可は取ってある」


 魔法大学の中で強力な魔法を行使するには、学長への届け出と許可が必要だ。


 調理実習室が再生された直後、リリィーナ教官はすぐに学長室へ行ったそうだ。

 魔法大学全域には、多次元管理局による魔法結界が張られている。

 それは、魔法によるセキュリティシステムだ。リリィーナ教官によると、校内で侵入者が攻撃的な魔法を使った場合、その攻撃の作用がそっくり術者に(かえ)ってくるという。

 さきほどポピィ教授は、壊滅状態だった調理実習室と会食室、消し炭だったご馳走と室内装飾の薔薇の花まで、すべてを魔法で再生した。何も知らない人には、とんでもない大掛かりな魔法を行使したように見えるだろう。


 しかし、家政学の魔法の多くは日常生活の作業に基づくもの。その内容は、危険を監視する魔法結界には触れず、制限もほとんどがかからない。


 リリィーナ教官は大テーブルの横で両手を軽く広げた。


 次の瞬間、大テーブルの上は白っぽい光に包まれた。白い光は大きく膨れ上がり、室内に満ちた。

 それはほんの一瞬のこと。

 光が失せると、ご馳走は消えていた。カップやカトラリーや、室内を飾っていたたくさんの薔薇の花も、すべて一緒に。


「ほら、あなた方は早く食堂へ行って、お茶を煎れてくださいな」


 ポピィ教授に優しく促され、わたしとエリカは別棟の食堂へ急いだ。


 食堂に到着すると、そこは、色とりどりの薔薇で飾り付けられた素敵なパーティ会場になっていた。

 広い食堂は、調理実習室付属の会食室とはスペースが全然違うのに、ご馳走の配置や薔薇の飾り付けも、事前にレイアウトを考えたように完璧だ。


 学長の許可といい、リリィーナ教官の手際が良すぎるような気もするけど。……まさか、人数が多くなることを予想して、食堂に移動することを考えていたなんてことは、ないわよね……。


 土曜日は食堂のスタッフはお休みだ。


 わたしとエリカは厨房でお湯を沸かし、お茶を煎れる準備をした。

 ここなら大きなポットも100人分以上の食器も揃っている。


 予測できる参加人数が計画当初の30人を越えたところで、わたし達はパーティの形式を会食から立食式のセルフサービスに変更することにした。

 わたしは大きなガラスポットに紅茶葉を入れて沸騰したお湯を注ぎ、出来た紅茶を1番出し2番出しもかまわず、保温ポットにどんどん作っていった。


 あれ、わたし、お茶会のお茶をこんなふうに煎れていいのかしら?


 自分の行動に疑問が湧いたが、時計はお茶会開始まであと3分になった。

 食堂の入口には、カラフルな服装の人々が集まってきた。


 女子も男子も今日は私服だ。ドレスコードは、女子はお洒落なワンピースかドレススーツ、男子はノータイでもスーツかジャケット着用にスラックス。Tシャツにジーンズは禁止である。


「学びの庭のお茶会へようこそ。席は自由席ですから、お好きな場所にどうぞ」


 わたしは食堂の入口で、次々とやってくるお客さまをにこやかに迎え入れた。

 

 わたし達は忙しかった。


 だから、わたしとエリカが用意していた『学びの庭でお茶会を』のステキな看板が、元のお茶会会場だった会食室の扉の外側に取り残されているのに気が付くのは、お茶会終了後のことになる。




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