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魔法学園物語~サー・トールの恋愛事情~  作者: ゆめあき千路
第三章 キイコードナンバー7

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(五)美少女は友情に厚く、恋する男子は誠実な行動を選ぶ

 こうして初めてのテスト期間は、無事に終わった。




 その次の日の昼、食堂前の告示ボードに、テストの合格順位が発表された。


 僕らは他の科目も総合して、学年一位!

 アイルズとカイルと肩を叩き合って喜び合う。


 告示ボードには、不合格で補習を受ける生徒のリストも掲示されていた。

 補習者は野外キャンプの期間中、指定の場所で補習を受けること。

 追試試験は、夏休み最終日だ。生徒によっては夏休中、補習で潰れる子もいるんだろう。


 僕のクラスでは、(ゼロ)。僕のグループに与えられた課題が、難しくてもなんとかこなせる内容だったように、他のグループもギリギリで落ちない課題を与えられていたんだろう。


 他のクラスもいないみたいだな。


 でも、追試になった人はいるわけで……。

 学年全体で………………一人? 


 はは、そのたった一人の生徒の名前が、ローズマリー・ブルーって読めるぞ。


 きっと幻覚だ。

 彼女のいないレクリエーションなんて僕にとって意味が無い。

 僕はきっと、キャンプ場で一人、寂しく過ごすんだろう。寝て起きて、食事をして、時間を潰して、ハッと目が覚めたら夏休みは終了しているんだ。


 そんな不幸になった僕の事を、皆は抜け駆けして良い目をみていた天罰だザマアミロ、と笑うのだろう。


 リリィーナ教官やヒルダおばさんには哀れみの目を向けられる。


 そして、夏休みが終わる頃、すっかり僕とは距離が開いてしまったローズマリーに、僕は振られるんだ……。そう、僕にとっては地獄落ちに等しくも最悪なバッドエンド的結末が来る、きっと来るんだ…………。


 僕はショックのあまり、声に出してブツブツ呟いていたらしい。近くにいたアイルズとカイルには聞こえていた。


「夢じゃないぞ、サー・トール、しっかりするんだっ。僕にも信じられないが、君のローズマリーは、本当に追試に名前が載っている。現実を見るんだっ!」


「おい、目を醒ませッ。俺はいま、そこにいる家政学のクラスの子に聞いてきたんだが、お前のローズマリーちゃんが落ちたのは、調理実習らしいぜ。こら、サー・トール、ナイトなら励ましにいかなくていいのかよ、目を開けたまま寝るなよ!」


 アイルズに肩を掴んで揺さぶられ、カイルにはどつきまわされ、僕は食堂の告示ボード前で、(つか)の間のバッドトリップから覚醒した。


 だめだ、ローズマリーに会うのが怖い。


 家政学のクラスでたった一人、補習になったなんて、どんなにか落ち込んでいるだろう。僕にはとても、なぐさめの言葉が思いつかない。


 それでも僕は次の休み時間になると、ローズマリー本人から夏休みの予定を聞くため、家政学の実習教室のある建物へ急いだ。






「まあ、悟くん、来てくれたのね!」


 ローズマリーは喜んでくれた。だが、彼女の回りに居た女子は、僕を見ると、ギョッとしたふうに後退(あとずさ)った。

 きっと、僕の顔色があまりに悪いのにびっくりしたんだろう。


「ローズマリー、野外キャンプへの参加は……」


 僕が言葉を途切らせると、ローズマリーが、ハッと顔を上げた。まっすぐに僕と視線が合う。


「そうなの、野外キャンプ期間のほとんどを、ずーっと交替なしで、朝も昼も夜も、調理と給仕の係になっちゃったわ」


 ローズマリーの声は大きく、すごい早口だった。


「…………へ?」


 僕はカクッと肩を落とした。夏休みの野外キャンプの間はローズマリーに会えないと、涙の土砂降りだった僕の思考回路が、たちまち晴れあがる。


 あれ?……でも、公表された野外レクリエーションの日程では、三度の飯は用意してもらえるので、生徒の作業は無いと書いてあったような……。


 もしかして、補習になった生徒の参加形式が、コレ!?


「そりゃ、調理実習のテストに失敗して補習になったなんて、いろいろと恥ずかしいわ。それに朝から夕ご飯までお料理したり後片付けをしていたら、悟くん達と一緒に昼間の野外授業やゲームには参加できなくて、残念だわ」


 ローズマリーの頬が赤い。

 その表情を見た瞬間、僕の心は決まった。ローズマリーが忙しく働いている間、僕だけのほほんと野外授業を受けているなんて、耐えられない。


「僕、手伝うから」


「え、なにを?」


 ローズマリーがキョトンと僕を見返す。


「君の補習だよ」


 僕は落ち着き払って応えた。


 ローズマリーの言葉をヒントに、脳をフル回転させた結論だ。

 野外キャンプのレクリエーションといっても、泊まるのは設備の整ったキャンプ場だ。調理実習の補習授業で、ローズマリーがもっとも長く過ごすのは、食事の仕度をするコテージの厨房。だったら僕が、ローズマリーと一緒に厨房の仕事をすればいい。


 補習を受けない生徒が、野外キャンプの厨房の仕事を手伝ってはいけない、というルールは、どこにも書かれていないんだ。


 まずは先生に相談だ。

 野外キャンプの責任者はどの先生だろう、家政学かな?


 ローズマリーは、青い目を大きく見開いた。


「え、いえ、ダメだわ、それは。これは家政学の補習なんだから、他のクラスの人に手伝ってもらうのは無理だと思うわ」


 ローズマリーは胸の前で、両手を左右にブンブン振った。頬がますます紅潮する。


「君の課題までは手伝えないけど、雑用は何でもするし、君より力があるから、重い物を運んだりできるよ。それなら先生もダメとは言わないだろう」


「そ、そう……。ありがと」


 真摯(しんし)な僕の言葉に、ローズマリーは、顔全体を紅薔薇のように真っ赤に染めた。うつむいて、両手の指先を左右交互に、握ったり離したりしている。

 僕の申し出が純粋な親切心からではなく、ただただローズマリーと一緒にいたいだけという、(よこしま)な意図から発したものとは気付かれていない。


「あ、あの、それでね、この前話していた、アイルズくんを紹介してもらう件なんだけど……」


 ローズマリーは、遠巻きにしていた女子の1人へ、目で合図した。

 彼女はすぐにローズマリーの側へやって来た。


 そういや、他の女子とこうして顔を合わせるのは、初めてだ。知らない子だな。もっとも、僕は普段からローズマリーしか見えていないので、他の女子は覚えていなくて当たり前だという自覚はある。


 肩に掛かる黒髪はフワフワの巻き毛、ぱっちりした緑色の目。ローズマリーが百合の花なら、蘭の花を連想させる華やかな雰囲気の持ち主だ。もちろん、世界で一番可愛いのはローズマリーだが、このクラスで2番目の美少女かもしれない。


「例のお願いの件というのは、この彼女なの」


 ローズマリーは彼女の後ろから、その両肩に手を置いて、前に押し出した。彼女は、よろしく、と微笑んだ。


 すぐには何の事かわからず、僕は首を傾げた。


「それにね、そのお茶会だけど、他の女子も参加したいって希望者がすごく増えちゃったのよ!」


 ローズマリーのおかげで、僕は間抜けな質問をせずにすんだ。

 テスト期間に入る前に、お茶会をセッティングするって言ってた、アレの事か。


「こっちはあと一二人いるの。だから、悟くんの方も、あと一二人! 悟くんのクラスの男子に、参加希望者を募ってもらえないかしら。教室でお茶会をする許可は、もう先生にもらってあるのよ」


 ローズマリーは両手を合わせた。


 いや、拝まれても困るけど。


 でも、にぶい僕にもやっと理解できた。

 それって、合コンのセッティングだよね。

 場所が学校で、先生の監督下でのお茶会だけど。

 僕とローズマリーが仲良くしているのを見て「ずるい!」と思っていたのは男子だけではなかったわけだ。


「いいよ」


 僕はあっさり引き受け、ローズマリーとその他一三人の女子から熱列な感謝を浴びた。


 カイルと一緒に僕のクラスメートに声を掛ければ、一三人ぐらいすぐに集まる。


 もしも、参加権をめぐって争奪戦になるならアミダくじでも作ろう、と算段しながら、僕は家政学の教室を後にした。





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