表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法学園物語~サー・トールの恋愛事情~  作者: ゆめあき千路
第三章 キイコードナンバー7

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/60

(三)魔法学のテストの謎は深淵よりも底が深い③

「ごめん、そこ、どいてくれ!」


 僕らはリビングフロアの一角に、急いで場所を確保した。


「アイルズ、あと何分だ!?」


 いつもきちんと腕時計をしているアイルズに訊く。


「25分だ!」


「すまん、この場所、開けてくれないかッ、俺達、これからテストの実践するんだ、悪い!」


 カイルが周囲に謝りながら、邪魔な椅子を移動させる。


 他の皆は、慌てふためく僕らに気を遣って、親切にもリビングフロアから出て行ってくれた。


 リビングフロアは、シンとした。僕ら3人の貸しきり状態だ。

 僕とアイルズは、低いテーブルを持ち上げて動かした。


 それから、カイルがヒルダおばさんから借りてきた裁縫用のメジャーを僕が引っ張り、確保した面積を測った。


「よし、これで2メートル四方のスペース確保、次は?」


 僕らのプリントには、まだ注意書きがあった。

 下の方の余白に、初めて見る文章が追加されている!?


『*要注意:プリントを見ずに唱えること。カンニング不可』


「いつのまに増えた!? それにプリント見るのが、なんでカンニングやねん!?」


 僕は叫んだ。だが、関西風のツッコミは、アイルズとカイルの共感を得ることは、できなかった。


「これは、隅から隅まで、丁寧に目を通さないと、本当の全文が読めない仕掛けになっているんだな。注意力のテストとはよくいったものだ」


 アイルズが感心している。

 たしかに僕も感心した。

 ひとつの仕掛けをクリアしたら次に進めるなんて、RPGかよ。


 誰だ、境海世界に地球のゲームを持ち込んだのは。


「この短時間で、この変な呪文を暗記しろってことかよ。あ~、俺、本の暗記は得意だけど、さすがにこの長文を、すぐには無理だわ。さすが、先生の考えることは違うな!」


 カイルの感心の方向に、そこは怒るところだろうと考えるが、もう僕も掛ける言葉を思いつかない。


「あと19分だ、悔しいな、せめて練習する時間さえあれば……。どうして、こんな難しい課題にされたんだろう。僕らは、先生方の機嫌を損ねるような何かをしてしまったのだろうか……?」


 アイルズが額を右手で押さえて悩む隣で、僕はプリントを持った手をワナワナと震わせた。


「いや、そんなことは気にしなくていいよ。これは……この課題を作ったのは、おそらく、リリィーナ教官と、ポール教授だから」


 間違いない……。僕には、ある確信があった。


「なに、サー・トール、君はこれを見ただけで、そんなことまで解るのか!?」


 アイルズがカッと目を見開く。

 僕は力強くうなづいた。


「これは呪文じゃないし、謎でもない。おそらくは僕への嫌がらせ……もとい、そこまで悪質ではないけど、冗談か駄洒落(だじやれ)か、好意的なイタズラのようなものだと思う。これなら僕にもなんとかできそうなんだ」


 それは今から4年ほど前のこと。


 僕が小学校6年生だったみぎり、組の学芸会のために覚えた芸だ。こんなところで役に立つとは、お釈迦様でもご存知あるまい。僕の学年では、ジュゲムの名前のところだけ暗唱するのが、流行っていたんだよ。


 その頃の世間では、落語がブームだったような気はする。


 なぜジュゲムだけが流行したかなんて、理由はわからない。

 とにかく、ソレができるヤツが、イケてる男子のステイタスだったんだよッ!

 そりゃもう、教科書よりも必死で覚えたから、今でも暗唱できるさッ。


 いや、リリィーナ教官とポール教授は、なぜ僕の小学校時代の黒歴史を知っているんだろう。


 いったい、どのくらい前から、僕の事を調査していたんだろう?


「つまり、これは日本の落語というお話に出てくるもので、日本では、とても有名なんだ」


 僕は簡単に説明した。


 これは日本一長い名前である。ひとつひとつの単語は縁起の良い()われがある。しかし、単語がたくさんありすぎて長いので、名を1回呼ぶのに、生活に不便が生じるほどだった。


 やがて、この長い名を持つ子供が大きくなって、ケンカをした。


 (なぐ)られた被害者の子には、たんこぶができた。

 その子は、『ジュゲム……』にやられたから、と、『ジュゲム……』の親に言い付けに行く。『ジュゲム……』の親は、そうか『ジュゲム……』にやられたんだな、と、長い名を正しく言って確認する。


 いちいち正しく名を羅列(られつ)する時間が、また長い。その間に、被害者の子のたんこぶは治って引っ込んでしまった、それぐらい時間がかかった。


 どんなに良い名でも、長すぎる名前は不便だ、というオチである、と。


 アイルズとカイルは、黙って聞いていた。


「ようはジョークの一種なんだな。で、その話が、魔法学のテストと、どう関連しているんだろう」


 アイルズの呟きは、僕とカイルの疑問でもあった。


「いや、それは僕にもわからないんだ」


 早口言葉の練習でもあるまいに、これが落語だとわかる生徒は、この魔法大学付属学院では僕だけだ。ジュゲム云々だけでは、意味もオチもつかない。

 いや、待てよ……。


「もしや、テストだから、これはオチが無い、すなわち『落ちない』課題ということなのか!?」


 僕らがこの召喚魔術を行った結果がどうあれ、プリントの手順通りに行うことができれば、確実に合格するのか!?

 それでテスト結果が不合格で、君は野外キャンプには行けませんが代わりに座布団を一枚あげよう、なんてオチをつけられたら、僕は泣くぞ。

 リリィーナ教官とポール教授は落語が好きなのだろうか。

 白く寂しい通りでも、日本のテレビ番組は見られるから、落語の番組を見ている可能性はあるな。


「どうしたんだ、サー・トール、また新しい発見があったのか!?」


「ああ、間違いない。これを手順通りにやれば、僕らは全員合格するはずだ」


「え? どうして君はそんな自信が!? やはり、優等生は違うのか……」


 優等生の代名詞のようなアイルズに言われたら変な気分だ。落語とオチの意味をこれ以上解説している時間も無いから、僕はとっとと話を進めることにした。


「とにかく、この手順通りにやってみないか。僕はこれを暗唱できるんだ」


「よし、まずは床に魔法陣を描くか。カイル、床に描けるものがあるかな」


「ヒルダおばさんに、舎監室の黒板のチョークを借してもらおうぜ」


 僕が呪文をブツブツと練習している間に、アイルズが床を手早く掃除し、カイルが舎監室からチョークを調達してきた。


 3枚目のプリントに印刷された魔法陣は、真円の中に数字とアルファベットが書き込まれた、簡単なものだ。


 円の大きさの指定は、半径50センチ以上。

 正確な円を描くために、これまたカイルが、どこかから調達してきた、1メートルくらいの長い紐を使う。

 僕が円の中心となる部分に紐の一端を押さえ、カイルがもう一方の端とチョークを持って、紐をピンと引っ張りながら、グルリと周縁を回れば、真円が描けた。


「まず五芒星を描く、と」


 アイルズが全体のバランスを考えて、円の中央に五芒星を描く。

 次にカイルが、円の内縁に沿って、魔法陣の図の通りに、数字とアルファベットを交互に書き込んだ。


「アルファベットは、エルアイエルイー、エー、エヌ、エー? なんだか、どこかで聞いたような……なんだっけ、これ」


 カイルが魔法陣を睨んで首を傾げた。


「そうだな、ここは『リリィ』と読めるから、百合の花のことかな。でも、そんなにシンプルだと、テストや呪文にならないだろうし……」


 アイルズはプリントを見直している。

 僕も読み返してみたが、『呼び出せるもの』の正体までは、明記されていない。

 残り時間、あと13分か。


「花の百合か……植物かな。花の妖精でも呼び出せるとか……」


 僕も、アルファベットの並びには引っかかりを覚えていた。


 どこかで同じものを見たような気がしてならない。


 しかし、ストレートに読んだだけではテスト問題にならないだろうと、僕らは勝手に思い込んだ。その読み方を否定して口にも出さず、暗黙の内にスルーした。


「鏡文字じゃないし、普通のアルファベットだよな。スペルを入れ替えたアナグラムでもない。この学校に関係のある何かの省略記号なのかな」


 さすがは新聞記者を目指しているカイルだ、いろんな推測がスラスラ出てくる。


「でも、この呪文が暗号なら、ただ唱えても無駄だろう。暗号を解読してからでないと、効果はでない。注意書きには、このまま暗唱しろと書いてあるから、解読は必要ないということだ」


 アイルズの意見に、僕も賛成した。


 なぜって、ジュゲムのたくさんの単語には、それぞれには意味があるけど、疑心暗鬼に深読みするほどの意味は隠されていない。

 このキイコードナンバー7も、アルファベットと数字も、それに合わせてあるなら、深い意味は無いはずだ。


 僕らがわからないだけで、謎が解ければシンプルなものの可能性が高い。


「呼び出せる魔人の正体をあれこれ推理したって、わからないものは仕方がない。もう唱えるぞ、準備はいいか?」


 アイルズとカイルが「よし」「いいぞ」と、魔法陣から一歩はなれる。

 僕は深呼吸してから、改めて息を吸い込んだ。


「じゅげむ じゅげむ ごこうのすりきれ かいじゃりすいぎょの すいぎょうまつ うんらいまつ ふうらいまつ くうねるところにすむところ やぶらこうじのぶらこうじ ぱいぽ ぱいぽ ぱいぽのしゅーりんがん しゅーりんがんのぐーりんだい ぐーりんだいのぽんぽこぴーの ぽんぽこなーの ちょうきゅうめいのちょうすけ」


 息継ぎ無しでなめらかに言い終えた。


 おおー、と、2人が畏怖の眼差しを向ける。

 いや、そこまで尊敬されることではないと思うんだけどね……ま、いいか。


 僕らは息を詰めて、魔法陣に注目した。


 魔法陣の中央から、もくもくと白煙が湧き出した。

 やがて、魔法陣の内側は真っ白になった。


 沸き返る白煙が、ゆっくりと、晴れてゆく。


 ジャジャーン!と、オーケストラの効果音を聞いたような錯覚さえ起こした僕らの前に、出現したのは――。

 


 リリィーナ教官だった。



「うわあああッ!!!」


 僕らは腰を抜かした。


 まだドラゴンが現れた方が驚かなかっただろう。


「やあ、ご機嫌よう。わたしを呼び出すとはいい度胸だな」


 リリィーナ教官は濃紺の長いマントを羽織り、右手に抜き身の剣を持っている。

 魔法剣士のイメージキャラクターみたいだ。


 これから剣と魔法のバトルでも始める気なのか!?


 局員にはそういう仕事もあり、それこそリリィーナ教官の専門だと、後に僕らは知ることになる。だが、まだ新米魔法使いだった僕らは、そんな怪物退治の勇者にしごかれるような苦労する未来が待っているなんて、想像だにしていない。


 この時の僕らは、それほど純粋なお年頃だった。





*参考文献*

『寿限無』

以下はこの噺の主人公である赤ん坊に付けられる「名前」の一例である。日本で最も長い名前、としてしばしば語られる。

寿限無、寿限無

五劫の擦り切れ

海砂利水魚の

水行末 雲来末 風来末

食う寝る処に住む処

藪ら柑子の藪柑子

パイポ パイポ パイポのシューリンガン

シューリンガンのグーリンダイ

グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの

長久命の長助

(ここでは、NHK教育テレビ「にほんごであそぼ」での紹介例に漢字を当てた。)

なお、落語家によって一部細かい部分での違いが見られる。

*「ウィキペディア (Wikipedia): フリー百科事典」より代表例

*パタリロ師匠の落語入門/魔夜峰央/白泉社2008

*古典落語大系1寿限無~おせつ徳三郎/[編]江國滋・大西信行・永井啓夫・矢野誠一・三田純市/静山社文庫


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ