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魔法学園物語~サー・トールの恋愛事情~  作者: ゆめあき千路
第三章 キイコードナンバー7

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(一)魔法学のテストの謎は深淵よりも底が深い①

「キイコード(ナンバー)7を解読すること?」


 週始めの魔法学の授業で、待ちかねた実践課題のプリントが配られた。




 魔法学の担当教諭は何人かいる。


 今日は、スキンヘッドの『リュウ』先生だ。照り返しの良い頭部はこの先生だけだ。名前の呼び方がどことなく日本語ぽいアクセントで呼びやすいから、すぐに覚えられた。


 リュウ先生はよく通るバリトンボイスで説明を始めた。


「キイコードナンバー7とは、この魔法の課題名だ。君らもそろそろ魔法の基本は理解した頃合いだろう。これが君達の初めての魔法のテストになる」


 リュウ先生はぐるりと生徒を見回した。


 2メートル近い長身を高級そうな暗色系のスーツで決め、濃いサングラスを掛けた強面の風貌は、まるで映画に出てくる犯罪組織の幹部みたいな迫力がある。


 しかし、その物腰はポール教授に劣らぬ紳士だ。教え方の丁寧さは生徒間で定評がある。

 カイルが編集局勤めの叔父さんから仕入れてきた情報では、校内の教師人気ランキングで常に上位だとか。


 ちなみに、歴代の人気ランキング1位はリリィーナ教官だ。


 見た目は万年二十歳ながら、局を退職して不思議探偵を開業してからすでに数年、あるいは数十年以上経過しているという噂もある。


 ポール教授やヒルダおばさん、リュウ先生も見た目は年齢不詳で謎多き人たちだが、謎だらけの多次元管理局でも、リリィーナ教官は(ぐん)を抜いている。

 いつか僕も局員になれたら、こういった謎のすべてを開示してもらえる日がくるのだろうか……。




「さて、この魔法の行使方法だが、諸君らはまだ学生なので、必ず寮内か、学校の敷地内で行うこと。また、この課題がまったくできない者、その他の注意事項に違反した者は、夏休み中、補習を受けてもらうことになる。そうしたら、課外授業の女子との合同キャンプには参加できなくなるぞ。俺は奥さんと一緒にキャンプの付き添いで参加するけどな!」


 僕らへの注意と脅しを奥さんへの惚気(のろけ)でしめくくるという、彼女のいない男子生徒の前では禁断の荒技を放ち、愛妻家と評判の高いリュウ先生はニンマリした。


 そう、もうすぐ夏休み。


 生徒はみんな留学生で、帰省するには実家が遠すぎる者ばかり。

 そんな事情で寮に居残る九割りの生徒のために、魔法大学は参加自由のさまざまな行事を催している。


 夏休みは野外研修だ。キャンプ場のコテージに泊まり、野外でバーベキューやゲームをして、のんびり過ごせるという。

 日頃、僕らは男ばかりのクラスで過ごしているから(ふる)い立った。


 このテストだけは絶対に落とせない、と。


 僕は卒業まで地球に帰らないと決めている。ありがたいことにホームシックとは縁が無い。日本へ帰ってもやる事を思い付かなかった、というのもある。だからこそ、魔法大学の生活を存分に楽しむ方を選択した。


 でも、一番大きな理由は、もちろんローズマリーがいるからだけどね。


 ローズマリーも実家が遠いから帰省はしないと言っている。

 アイルズとカイルも野外キャンプ参加組だ。

 僕と気の合うクラスメートもほぼ全員いる。


 こんなふうに夏休みを楽しみにするなんて初めてだ。


「この課題は、今日から来週いっぱいにかけての宿題でもある。また、このテストの真の目的は、魔法がうまく使えるかを見せてもらうテストではなく、諸君らの現時点での注意力、理解力、集中力、判断力などを総合して判定するためのテストだ。各自でプリントの注意書きをよく読むように。プリントの内容で、わからないことがあれば、図書館で調べるも良し、魔法学以外の教官に訊くのもOKだ。これで今日の授業は終わるが、質問があれば5分間だけ受け付けるぞ」


 教壇のリュウ先生の回りにはたちまち生徒が群がった。




 僕とアイルズとカイルは教室の片隅に集まった。


 魔法学の実践テストはグループ課題だ。プリントの番号が同じ生徒二~三人で組んで行う。僕のグループは、僕とアイルズとカイルの三人だ。僕とアイルズが一時休戦して協力する(あかし)として握手していたら、カイルが僕らの肩に手を置いてきた。


「改めてよろしくな。俺はクラス1の秀才と優等生と組めてうれしいよ」


 秀才と優等生?


 カイルは時々、妙な言い回しをする。アイルズには両方当てはまるし、カイルの方が僕より勉強ができると思うが……。まあ、いいか。褒められたと思って、良い方に取っておこう。




 授業は楽しかったが、寮に戻った僕の気分は少し落ち込んでいた。


 今日は、一目たりともローズマリーの姿を見ていない。


 昨日の「テスト期間中は僕とは会わない」という恐ろしい宣言はすごく気になる。でも、テスト期間が終わったら皆でお茶会をするとも言っていた。


 きっと、ローズマリーも家政学のテストで忙しいんだ。嫌われたわけじゃないんだから……と、僕は自分に言い聞かせる。


 今、僕が集中すべきは、魔法学のテスト問題だ。


 寮での夕食後、僕とアイルズとカイルはリビングフロアに集合した。

 リビングフロアは多目的室だ。僕らの他にも寮生があちこちに集まっていた。

 各グループの顔ぶれは、普段からよく喋ったりしている者同士みたいだ。


 僕とアイルズとカイルもそうだ。


 どうやらこのテストのグループ番号は、あらかじめ生徒間の交友関係を調査して割り振られたものだと見当が付く。

 ここの先生は本当にリサーチが細かいな。


「それにしても、なんだろうね、これは……」


 僕らはプリントを読み返し、額を突き合わせた。


「丁寧に、書かれている手順通りに行うこと。必ず学校の敷地内か、寮内で行うこと。呼び出し時間を守ること。万が一、呼び出された『魔人』が自分達の手には負えないと判断した場合は、すみやかに近くにいる先生に救助を求めること?」


 僕は注意書きを読み上げた。


「魔人って……どんなのだろう。危険がありそうな書き方をしてあるね。僕はここで魔法を習うまで、魔法を使うためには呪文とかをいっぱい暗記するんだと思っていたよ」


 僕が素直な感想を口にすると、カイルが「俺もそうだ!」と笑った。


「一般的にはそういう魔法が主流だね。このテストはイメージ系の魔術みたいな気がしないか」


 アイルズがプリントに印刷されている魔法陣の図を示した。


「この魔法陣は僕らでも描けるような簡単な図だ。ほら、授業でもやったじゃないか。境海世界では、特定の呪文や媒体を使用する魔法は異なる世界によっては発動しない危険があるって。この学校では言葉や物体(アイテム)に頼らない魔法を身につけるように指導する方針なんだ。それを理解しているかを、確認するためのテストだな」


「なるほど、僕らがそれを理解しているかどうか、か」


 確かに、リュウ先生もそれっぽいことを言っていたな。僕はプリントをめくった。


 左上で綴じられたプリントは全部で4枚。


 課題名『キイコード№7』と書かれた表紙以外は両面印刷だ。

 表側は黒一色の印刷なのに、裏面の印刷インクはなぜか水色。文字の大きさも表側に比べると一回り小さい。

 なんだろう、この微妙~に読みづらい、悪徳商法の約款(やつかん)のような印刷は。


 いったい、どの先生が考えたんだろ、と僕は首をかしげた。






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