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「それにしても、……どうして私の指のサイズ知ってたんですか?」
「ああ、それか……、この前二人で泊ったとき、智恵が寝てる間にな」
ただの興味で訊いただけなのに、ちょこっと後ろめたそうに、目をそらして言う邑さん。サプライズのつもりなら、私のことを喜ばすつもりだったなら、そんな顔しなくたっていいのに。
「それだったら、素直に言ってくれたっていいじゃないですか、私だって、指輪作るっていうなら、指のサイズくらい測ってもらうのに」
「そ、そうだな……、で、でも、智恵には、秘密にしときたかったんだよ」
「何で、そう思ったんですか?先に言ってくれたって、嬉しかったのにな」
その意味だってわかってるのに、こんなに素敵なものをもらったのに。なんで、こんなにつっかかった言い方しかできないんだろう。その言葉で、傷つけてしまってないだろうか。
「智恵が大人になる日まで取っておきたかったんだよ。……悪かった、ちゃんと訊いとくべきだったな」
「いえ、そんなことないです。……ただの、私のわがままですから」
「……そんなこと、言わなくていい」
いつもより、頭に触れる邑さんの手が優しい。負い目なんて感じなくていいのに、でも、そうさせたのは、きっと私だ。このまま、変な雰囲気になって、冷え切ってしまうのは嫌。伝えさせて、それくらいのことなんてどうでもいいってくらい、邑さんが好きってこと。
「邑さんは悪くないですよ、……でも」
「でも、何だ?」
真っ直ぐなはずの気持ちに、ほんのちょっとのいたずら心が混じる。きっと、そのまま伝えたら、恥ずかしすぎて死んでしまいそうになるから。
「どうしても何かしないと気が済まないって言うなら、……一つだけ、お願い聞いてくれませんか?」
「ああ、いいが……、何だ?」
髪を撫でる手を止めて、私を見つめる邑さんに、不意にドキリとする。
「その……、結婚指輪買うときは、邑さんと一緒に選ばせてくれませんか?」
誰よりも真面目で、何もかも一人で抱え込んでしまう人だから。ちょっとだけでもいいから、……私に甘えてほしい。私よりもずっと器用で、一人でも全部こなせるってことはわかってる。でも、……二人の愛の証なら、その形は二人で決めたいから。ただ手を引っ張られるだけじゃなくて、手を取り合って進みたいから。
「いいぞ、……というか、そんなこと、私が反対すると思ってたのか?」
「いえ、邑さんが私の事、好きでいてくれてるのはわかってますから」
「全く、智恵はそうやって……」
頬を赤らめて、また頭を撫でてくれる。今度は、ぽんぽん、と軽く叩くように。四年も前の、『好き』を意識し始めたあの日から変わらない温もりに、何度もときめいて、私の頬が熱くなる。それは、きっとずっとそうなんだろうな。どれだけの時が過ぎたって、ずっと『好き』なままでいられる。根拠も何もないけど、それだけは変わらないと思えるから。