表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/19

8

 ドキドキが最高潮になってる中で、邑さんが左の手を取る。指先から、鼓動の高鳴りが届いてしまいそう。まるで宝物でも扱ってるみたいに丁寧に触れる手の温もりに、ぽうっと頬が熱くなる。

 薬指を、何かが伝う。触れたものが何なのかわかった瞬間、頭の中が爆発しそうなくらい熱くなっていく。邑さんの温もりでちょこっとあったかいけど、金属の冷たさを残す細い輪っかなんて、一つしか知らない。


「智恵、もういいからな」

「は、はい……っ」


 目を開けて、左手をじっくり見る。薬指にはめられた、シルバーの指輪。何のデザインもない、華奢なものに、一つだけ嵌められたキラリと光る宝石。その名前が何なのかはわからないけど、澄んだ透明は、邑さんの心みたいにも思える。


「邑さん、これって……っ!」

「智恵ももう大人になったからな、……二人の証、欲しいかなと思って」


 珍しく、歯切れが悪い言葉。ほんのりと赤く染まった頬も、照れてるんだって分かる。それだけ、本気なのも。


「いきなりで悪い、その……、よかったか?」

「嫌なわけ、ないじゃないですか、……嬉しいです、こんな素敵なものもらえて」

「そうか、それならよかった」


 ほっとしたように、邑さんの顔が緩む。満足気な表情に、嬉しくないわけなんて、あるわけない。……でも、一つだけ、気になるところを見つけてしまう。


「この指輪、『二人の』証……、なんですよね」

「ああ、そうだ。……私のも、ここにある」


 落ち着いた黒の、手で隠れるくらい小さなリングケースの中には、私の指にはまっているものと同じもの。この世にたった一組だけの指輪は、世界でたった一人だけの、愛する人だという証。


「それ、邑さんにつけてもいいですか?」

「……ああ、最初から、そうしてもらうつもりだったから」


 軽く頭を撫でてから、左手を差し出す。髪を漉かれるのも、甘えてもらえるのも、胸の奥がぽかぽかするように幸せになれる。

 指輪を持ったとたんに、目の前の顔がうつむいて、目を閉じる。邑さんも、緊張するのかな、こういうこと。なんだか、らしくないや。でも、それだけ、……本気なんだなってわかる。

 左手を手に取った瞬間、ピクリ、と微かに体が震えたのがわかる。そのまま、早まった鼓動も、伝わってきそう。

 薬指に、ゆっくりと指輪を通す。私と邑さんが繋がる瞬間を、じっくりと味わいたくて。『恋人同士』から、結婚して、私も邑さんも女だから『夫婦』にはならないし、どう呼べばいいのかわからないけれど、とにかく、その先の、もっと深いつながりに進んでいく時間。まだ、手放したくない。

 それでも、指輪は指の根本まで通ってしまう。私まで、ドキドキしてきちゃった。今更、邑さんの手から伝わってきたように。


「もう、いいか?」

「……はい」


 目を閉じてないのに、わざわざ訊いてくるなんて、かわいい。不意に思ってしまう不埒なこと。これからも、知っていけたらいいな、誰も知らない、邑さんのこと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ