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1か月も忘れてたとは……不覚。

「お風呂、気持ちよかったですね」

「そうだな、……なんだか二人でいると、不思議な感じだ」

「そうですね、……初めてですもんね、こんなとこまで一緒なの」


 ほかほかになった体も、あったかい心も、わかってる。けれど、触れてしまうたびに心地いいって感じる。

 いつも、邑さんの温もりに触れられる。そんな事、いつかあるんだろうか。途方のない未来は想像したってわからないけど、今、一緒にいられるのが幸せだって思ってくれてるのはわかる。


「……ずっと、一緒にいられたらいいのにな」


 思わず、零れた言葉。今すぐにそんな風になれるわけでもないっていうことはわかってるけど、……手に届いてしまった幸せを、離したくないって思うのは間違ってるだろうか。

 繋がった手も、それだけじゃ足りなくなる。繋いでくれてる手を両腕で絡めて、不審げに見つめる視線が重なる。


「ご飯の前に、先に部屋戻っていいか?……話したいことがある」

「はい、……いいですよ?」


 この場にそぐわない真剣な声色に、身がすくむ。怒らせるようなことは言ってないはずなのに、どうしてだろう。嫌な過去のこと、思い出させてしまったのだろうか。止まってしまった足に合わせて、邑さんも足を止めてくれる。

 

「……そんなに怯えるな、別に怒ってないから」


 優しい声と一緒に、髪を撫でる手の温もり。私よりも長くて綺麗な指にかき回される感触は、何度されたってドキドキが止まらなくなる。


「わかってますよ、それくらい」

「……それならいい」

 

 人が傷つくことが何より嫌いな人が、誰かを傷つけるような嘘なんてつくわけがない。それくらいはわかってる。傷ついた心の痛みを誰よりもわかってるからだってことも。だから、きっと本当に真剣な話だっただけ。

 ゆっくりと、また足が進む。部屋に着く前に考えさせて、そんなに真剣な顔してた理由を。四年の間お付き合いして、それでもずっと一緒にいられたわけじゃない。

 じっくり考えて、考えて、それでも見つからない答え。ぐるぐると回った頭が答えを見つける前に、もう部屋の前までたどり着いたのか、鍵の開くかちゃりという音が聞こえる。


「どうしたんだ、そんなぼうっとして」

「なな、何でもないですよ?」

「それなら、いいんだがな」


 いぶかしげに見つめる瞳に射抜かれて、初めて邑さんと出会ったときのことがふと頭に浮かぶ。心配そうに見つめてくれるのも、あの時とずっと変わらない。ぽんぽんって、頭を軽く叩くとこも。

 ちょこっと笑うようになったり、私に甘えてくれるようになったりしたけれど、こんなとこを見ると、邑さんは邑さんなんだなって安心する。


「それで、……話したいことって、何ですか?」

「座って、ちょっと目閉じてくれるか?」

「は、はい……」


 ベッドに腰掛けて、ぎゅっと目をつぶる。大事なことなのはなんとなくわかるけど、それを盗み見するのはなんだか悪いから。

 ごそごそと物音が聞こえて、ゆっくりと隣に座る気配。……なんだろう、胸の奥の高鳴りが、収まらない。

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