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私の気持ちは、邑さんには届いてるのかな。まだ、愛してるってこと、言えないまま。
「好き」なら、まだ言えるし、これまでだって言ってきたけど、これだけじゃ、物足りないよね。不意打ちだったにしても、あの言葉だったから、キュンってなったのに。
「……智恵?」
「は、はいっ!」
そんなもやもやすら、見透かされてるんじゃないかってくらい。ただ名前を呼んだだけなはずの邑さんの声が、今はナイフみたいに突き刺さる。
「どうしたんだ、そんな顔して」
「あ、あの……」
「そんなに、言いにくいことか?」
「そうかも、しれないです……、でも、どうしても言いたいから」
「わかった、ずっと、待ってるから」
軽く、体を抱き寄せられる。邑さんの体は細くて、すぐ壊れちゃいそうなのに、他の人と同じ温もりと柔らかさがあって、何よりも優しく、私を包み込んでくれる。
このまま、溶けちゃいそう。もう、このままでいたいなってくらい、落ち着く。自然と近づいた顔は、眼鏡がなくたって、邑さんの顔がはっり見える。
こんなに近づいちゃうと、……我慢、できなくなっちゃう。今、二人きりだから、いいよね。私の中にかかっていた気持ちの鍵を開ける。
「ねえ、……」
「……智恵」
分かってるように、邑さんが目を閉じる。ちょっとずつ、二人の距離が縮まって、……言いたかった言葉が、自然に唇から零れる。
「邑さん、……好き」
溢れそうになった気持ちを閉じ込めて、重ね合った唇に伝える。いつだって、優しく受け止めてくれる邑さんが、何よりも愛しい。できるなら、ずっと一緒にいたいって思えるくらいに。
「これからもずっと、愛させてください……っ」
ようやく、言えた。恥ずかしさと安心感で、うつむいて、胸元に体を埋める。ふと、髪に触れる、優しい手の温もり。まるで、初めて会った日のような。
「言いたかったのって、それだけか?」
「えっ、……あ、はい」
今だからわかる、別に、責めてるわけでもなんでもなくて、ただ、私のことを気にかけてくれてるときの声。いつもより、口調も柔らかくて、ゆっくりしてる。
「そんなことで、悩まなくてもいいのに、……智恵が、私のこと好きでいてくれるのは、わかってるんだから」
「で、でも……、さっき、邑さんに言ってもらったから、私もって……」
「もちろん、嬉しいけどな、……こういうこと、言ってもらえて」
ずるいよ、邑さん。こんな、私をいいだけきゅんってさせる言葉を、さらりと言えるから。
もう、のぼせちゃいそう。お湯のせいじゃなくて、邑さんのぬくもりに。
「もう、熱くなってきたし、そろそろ上がるか」
「そうですね、けっこう、お風呂熱かったですからね」
そんなのも見透かされたように振られた言葉に、躊躇なく乗ることにする。
ほんのちょっとだけ、邑さんの顔を見ると、ほんのり赤くなっていて、……私と同じ理由だったらいいな、なんて思ってしまっていた。