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チェックインの手続きも邑さんが済ませてくれて、お部屋で荷物を置いて一休みする。おんなじベッドに、ちょっと離れて座って、横目で平然としている邑さんを眺める。
「ご飯の前に、お風呂入っちゃいませんか?晩御飯の後だと、混んでるでしょうし」
「そうだな、……一緒に行くか」
今すぐとは言ってないのに、浴衣とタオルを取る邑さん。もしかして、……邑さんも楽しみなのかな、一緒に、お風呂に入るのが。
二人でお泊まりすることがあんまり無いし、そういうときも、あんまりお風呂は一緒になれたことは無かったから。
「今すぐじゃなくて、……もう少し休んでからにしませんか?」
「それなら、そうするか」
なんとなく、残念そうな声。そんな声を聞くと、違うのにって何故か反発したくなる自分がいる。嫌なわけじゃないけど、今は、お風呂じゃなくて。
「もうちょっとだけ、二人きりでいさせてください……っ」
「そういうことか、……なら、好きにしろ」
離れてた距離を一瞬でゼロにして、邑さんの胸に顔を埋める。腕も邑さんの背中に回して、……こんなにべったりしてるとこ、他の誰にも見せられないや。今だけはいっぱい、甘えさせてほしい。
とくん、と鳴る心臓の音が、聞こえそうなくらい近い。思わず顔を見上げると、邑さんも、私を見下ろしていて、目線が重なった瞬間、体が勝手に近づく。もっと、邑さんに触れたい。その気持ちは、どうやっても抑えられない。
キスしたり、いちゃいちゃしたり、そういうことするのだけが恋人の形ってわけじゃないのは分かってる。でも、知ってしまった、どんなに言葉を重ねたって伝わらない『好き』は、こうしないと伝わらないんだって。
「邑さん、……好きに甘えても、いいですよね?」
「ああ、……いいぞ」
その言葉が紡がれた瞬間に、その唇を塞ぐ。低くくぐもった声が、辺りを震わせる。
背中に回された手が、軽く髪を撫でてくれる。出会ったときから変わらない癖に、また、二人の距離がなくなっていくような。
唇が離れる瞬間の音すら、何か寂しくなってしまいそうになる。キスなんて、本当に一瞬だけなのに、その瞬間だけ、永遠になっちゃえばいいのに。
「ん、……今日は、何か甘えんぼだな、智恵は」
「しょうがないじゃないですか、……邑さんのこと、好きなんですから」
「別に、……嫌なんて、言ってない」
その言葉の証拠に、邑さんから重ねてくれる唇。溶けちゃいそうなくらい、あったかい。流れ込んでくる温もりが、心が。私のこと、誰よりも愛してくれてるってことが、言われなくてもわかる。
もう一回だけ、心の中で立てた誓いはあっという間に崩れてく。どれだけ重ねても、満足できなくなっちゃいそう。
「体もあったまってきましたし、……そろそろ、お風呂にしましょうか」
「そうだな」
ちょっと寂しいけど、これ以上したら、何もできなくなっちゃいそう。抱いてた腕を離して、タオルと浴衣と替えの下着を持って、並んで浴場に向かった。