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 部屋までは、ほんの数十歩。それが、もどかしい。もっと触れたいのに、邑さんしか見えないのに、胸の中で燃えた恋心は、愛みたいに優しい温度にはなってくれない。

 私が、重くしてるからかな。いつもより、邑さんの足取りも重い気がする。私のこと考えて、頭の中が熱くなってたら、……なんて、さすがに夢見過ぎかな。


「もうちょっとなんだから、……我慢、できるか?」

「わ、わかってます、けど……っ」


 甘い。声も、手つきも。それに、溺れたくなっちゃう。短い廊下を引き延ばしたって、なんにもならないのに。二人きりにならなきゃ、邑さんも私も、全部忘れて甘え合えないんだから。今すぐ愛し合いたいって衝動を、抑えきれないほどにも酔えてない。


「部屋戻ったら、な?……私だって、そういうこと、したいから」

「そ、そんなの、ずるいです……っ」


 いつもなら、決して言わないような言葉。耳元でささやかれて、頭の中身が吹っ飛ぶような感じになる。私が求めると受け入邑さんもれてくれるけど、邑さんから求めてくれることは、ほとんどないから。赤くなった頬は、酔ってるだけじゃないの、わかる。自分の言葉で、照れちゃってるんだ。私よりも七個も上で、とっくのとうに大人になってる人に言うのはおかしいかもしれないけど、……かわいい。寄せられた髪からか肌からか、漂う甘いにおい。


「ゆうさん、甘いにおいする……」

「大分酔ってるな、智恵は」


 酔ってることは、自分が一番わかってる。それでも、他人に言われると、何故か反発したくなる。大人の階段を上ったところで、心まで、一瞬で大人にはなれない。


「そんなんじゃないですよ、子どもじゃないんですし」

「そうか?……こんなに甘えてくれるの、初めてなのにな」


 軽く、頬をつつかれる。呆れたような声は、いつもよりも、ずっとずっと、優しい。私にしか、聞かせてくれないほどに、普段の、冷たさを感じるほどに落ち着いた声からは、信じられないくらい、繊細で甘い。


「こっちのほうが、良いですか?」

「嬉しいけど、……やっぱり恥ずかしいな。見られてるかもって」

「じゃあ、やめますか?」

「……別にいい、ちょっとくらい。……ほら、部屋着いたぞ」


 導いてくれる手に甘えて、明けられた部屋の中に、引っ張られるように入る。私の後ろ手で鍵をかけて、……もう、我慢しなくていいよね。ていうか、もう、できない。きつく抱きしめて、甘ったるいかおりを味わう。いつか求めあった時の記憶が流れこんで、とけちゃう。まだ、何もしてないのに。スリッパだけ脱いで、上がり框までは上がったけど、ベッドまでの数歩も、もう待てない。

 

「ゆうさん……、わたし、もう、」

「……わかってる、おいで?」


 そう言って、邑さんから顔を寄せてくれる。私から求めてるくせに、触れた唇の温もりに固まってしまう。こんな、柔らかかったっけ。思い返す時間、今日はくれなかった。ついばむような感触に、息がこぼれる。体じゅう、心も全部、……今日は、奪われたい気分。私から顔を寄せて、もっと欲しいの合図。溶かして、私のこと、全部。そんなこと、多分、言わなくてもわかってくれる。

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