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 私が飲み終わる頃には、邑さんはもうグラスを開けていた。部屋に戻ろうって言われることもなく、まだゆったりとした話は続く。


「でも、私は智恵みたいに甘えられないから、ちょっと羨ましいな」

「そうですか?」

「まあな、……甘え方、よくわかんないから」

「そうですか?……私は、今のでも、すごい嬉しいですよ?」


 一人で何でもできるから、全部一人で抱え込んでたのに。私に甘えたいなんて。その言葉で、もう、甘い。二人きりと、錯覚しそうになるくらい、邑さんしか、見えない。早く戻りたい、そう言ったら、ここで話すのを嫌がってるみたいに思われそうで。

 

「なら、いいんだ。……そろそろ、部屋、戻るか?」

「そうしましょうか」


 そう言って立ち上がると、足元が、なんだかふわふわする。意識して足に力を入れようとして、その前に、邑さんに腰を抱き留められる。


「智恵、危なっかしいな、ほら、肩預けていいから」

「あ、ありがとうございます……」


 そんな風に簡単に気遣いしてもらえるのも、嬉しいけど、ちょっと拗ねちゃいそうになる。触れる手が、腕が、吐息が、熱い。肌からか髪からか、ふわりと甘い邑さんのかおり。


「別にいい、これくらい。……ほら、部屋戻るぞ」

「は、はい……っ」


 私じゃなくたって、こんなことされたら惚れそうなのに。多分、こんなのを味わえるのも、私だけ。同じくらいの目線が、少しずつ、熱くなる。

 顔、近い。このまま、キスしちゃいたい。……でも。まだ、二人きりじゃないから、ガマン、しなきゃ。

 食堂から出て、エレベーターのほうにさりげなく優堂される。もう見えるとこにあるのに、思ったよりも、ずっと遠い。

 焦りそうになるのを抑えて、邑さんの足に合わせて。やっと着いても、扉が開くまでまたじれったい。ようやく開いて、中には誰もいない。扉を閉める前に来た人も、誰もいない。


「ゆうさん、わたし……」

「どうした、智恵」


 こっちを向いた顔に、顔を寄せる。目の前の顔は、やれやれと言った感じで息をついて。返事、早くして。


「……一回だけ、だからな」


 その言葉が終わる前に、唇を重ねる。いつもよりも、柔らかい。もっと、したいのに。その心には、なんとかブレーキをかけて。目を開けると、邑さんの顔も、ほんのり赤い。


「んっ……はぁ……」

「全く、甘えんぼになって」

「べ、別に、しょうがないじゃないですか……」


 心の奥の奥、ほんのりとろけてる。その癖、断らなかったくせに。扉が開いても、人が乗る気配もない。寂しい、なんて思っちゃうの、贅沢な悩みだなぁ。


「部屋、戻るぞ」

「……そうですね」


 多分、目の前でも、感情が燻ぶったまま。もっと、蕩けたい。その気持ちは、多分、私だけのものじゃなくて。

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