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 頭の奥、くらくらしてくる。邑さんの顔ばっかり、目がいってしまう。私も知らない私の存在に、自分でも驚く。押し込めていた気持ちが、こんなに大きいなんて、……改めて、思い出させる。


「私も、ちょっと恥ずかしくなってきた、かも」

「えへへぇ、だったら嬉しいです。あんなことさらって言われたら、体が持ちませんよ」


 邑さんのほっぺも、ほんのり赤い。あんなに歯の浮きそうなこと、平然と言われてたら、私の頭が爆発しちゃう。胸の奥、きゅんきゅんしちゃってる。恋をした、最初の頃みたいに。


「そうだ、苺、好きだったよな。……私のも、食べるか?」

「え、いいんですか?……やっぱり、甘いの、だめでした?」

「そうじゃなくて、今の智恵、かわいいから」


 ほっぺだけじゃなくて、体中熱い。二人きりのときじゃないと聴けない、撫でてくれるように優しくて、少しだけ、照れてるのか上ずった声。


「もう……、それなら、頂きます」

「わかった。……ほら、口開けて」


 フォークに刺された苺と、それを差し出してくる細くて長い指。軽く体を寄せて、視界にかかる髪をかき上げて。大き目に明けた口に苺が滑り込む。ひとたび亀場、酸っぱくて、甘い。青春というには、もう大人でいたいんだけど、この恋は、その延長戦みたいなものだから。


「どうだ?」

「んん、……甘すぎて、ワインの味がちょうどいいくらいです」

「もう一杯って、……大丈夫なのか?中身は、ちょうど二杯分くらいあるけど」

「大丈夫ですって、だから」


 しょうがないな、とため息をつきながら、私のグラスを引いて、ワインを注いでくれる。ついでに、ほんの少しだけになってた自分の分にも注いでいるのを見て、また、見惚れそうになる。相変わらず、何をやっても様になるから。


「ほら、……背伸びしなくても、いいのに」

「邑さんが、大人すぎるのが悪いんです」


 今日は、なんとなく甘えんぼになっちゃってる。これじゃあ、自分でオトナになれない証拠を残してるようなものなのに。気が付いたら、止まらない。

 私だって、オトナなのに。ワインを煽ろうとして、ギリギリで立ち止まる。ムキになっても、ますます子供っぽい、かな。ちびちびと、小鳥が蜜をついばむように飲む。今の私には、これくらいのほろ苦さがちょうどいい。


「そうか?……私だって、いつでもオトナってわけじゃないさ」

「それでも、私にとっては、オトナなんですよ」

「なら、ありがと。……」

 

 目の前で、喉の奥に引っかかったような顔をする。その頬は、まだ赤い。邑さんも、酔ってるのかな。それとも、まだ照れてるのかな。

 その答えは、解けそうにないや。少しずつ入ってくるワインで、私の奥の何かが、ゆっくりとほどけていく。

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