14.
お皿が空いたのを見て、ウェイターの人がお皿を下げてくれて、それでも、私たちの間だけ、時間が止まったみたいになる。左手の薬指にぴったり嵌まる、見えない気持ちに持たせた形。
「ネックレスも買って、そこに付けるとかどうだ?」
「そうですね……、それもいいですけど、実習のときはどうしても外さないといけないのは変わんなくて」
実習はもうちょっと先の話になるけど、少し、気が重くなる。ずっと、肌身離さず持ってたいんだけどな。……封じ込めてしまいたい邑さんの記憶は、「もしも」のことを怖がったままで。あの時から、少しずつ蓋は閉まっているはずだけど、もし、また開いたら、……また、戻ってしまうのかもしれない。心に鍵をかけて、自分を閉じ込めていたあの時に。私が開けた心、私自身で閉じさせてしまったら。
「それなら、しょうがないな……、ケースも渡すから、それがある時にはしまうのはどうだ?」
「そうですね、……それなら無くさないと思います、……でも」
「でも?」
「ネックレスは、やっぱり欲しいです、邑さんだって手を使う仕事多いし、そっちのほうが無くさないですよ」
二人だけの、特別の証。無くしてほしくないのは、私も、一緒だから。会える機会も多くはないから、せめて、存在を感じてたい。
「それもそうだな。明日、探しにいくか?私も明日は空いてるから」
「そうですね、じゃあ、お願いします」
「悪い、もうちょっと、考えておけばよかったかもな」
「謝らないでくださいよ、私が邑さんの立場でも、あげてたと思いますから」
大学は空の宮とは離れてるから、邑さんと一緒にいられる時間は、本当に少なくなったから。寂しくないわけないし、身近に好きな人のこと、感じたいって思ったのは、なんとなく恥ずかしくて言い出せなかった。でも、きっと、邑さんも一緒、だったんだ。
考えてるだけで頭がとろけそうな考えは、ウェイターさんがケーキとワインを持ってきたことで止められる。グラスに注いでくれているのを見て、会釈する。
「ケーキ、食べませんよね、私が貰いますか?」
「いや、いい。……私も、最近は甘いのそんなに苦手じゃなくなったし」
「そうなんですか?なんか、意外ですね」
自分が食べないからって、ボンボンショコラを一箱丸々くれたこともあったし、デートしたときも、甘いものはぜんぜん頼んでなかったし。目の前の顔は、少し頬を染めている。こんな表情を見せてくれるのも、なんか珍しい。
「別にいいだろ、それくらい。……改めて、誕生日おめでとう、智恵」
「えへへ、……ありがとうございます、邑さん」
軽く、グラスを浮かして掲げてくれる。そこに、私もグラスを軽く当てる。こつん、と、綺麗な音が私たちの間で響いた。