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抱き合ってるせいなのか、重ねられたキスで火照った体は、なかなか冷めてくれない。それでも、好きなの。その温もりが、邑さんがくれるものだから。
「智恵、もう、離していいか?」
さっきまでのとんがったものから、いつもの優しい口調で言われる。まだ手放したくない、あともうちょっとだけ。こういうわけにもいかないことくらいは、分かってるけれど。
「重かった、ですか?」
「そうじゃなくて、もう七時過ぎてるから、そろそろご飯にするか?」
いつの間に、そんなに経ってたんだ。スマホを光らせると、画面にはもう七時も半分終わりそうな時間。二人きりでいる時間はあっという間に過ぎていくみたいで、それなのに永遠のようにも思える。不思議で、心地いい感覚。まだ、その中に溺れてたいけど、お腹の奥が、今更のようにぐるると鳴る。
「そうですね、……わかりました」
なんだか寂しいような、名残惜しいような気がするけど、体を離す。頭の奥が、すうっと冷めていく感じ。狭くなってた視界が、近くのほうからぱぁって広がっていく。けれど、抜けてしまった力は、なかなか元に戻ってはくれない。
「……どうした、全く、いつから甘えんぼになったんだ?」
「いいじゃないですか、……邑さんにしかしないんですから」
「まあいいが、立ってくれないとご飯食べれないぞ?」
「……わかってますよ」
そんなこと言いながら、私のことを抱き起こしてくれるから、邑さんは優しい。そっけないように見せかけて、本当は誰よりも優しい。私が初めて出会ったときから変わらない、邑さんの好きなとこ。
密着した距離感に、また何もかも忘れそうになる。近づきそうになった唇は、邑さんから離される。軽く肩を押されただけなのに、足がふらふらと後ずさる。すかさず抱き留めて、でも唇はふれさせてはくれない。
「……また後でな。今したら、止まらなくなるだろ?」
「そう、ですね……」
「戻ってきたら、……好きにして、いいから、な」
「……ふふ、ありがとうございます」
ほんのり赤く染まった顔は、私までうつってしまう。このまま、二人だけの世界に溶けてしまいたいって誘惑を振り払うことも、忘れてしまいそうになる。邑さんも、我慢してるんだ。珍しく歯切れの悪い言葉が、その事をはっきりと伝えてくれる。
視線を逸らされて、手だけ差し伸べられる。わざとつんつんした態度をとって、それでも冷淡になりきれないのが、無性にかわいく思えてしまう。
抜けてきそうになる体の力を無理やり足に入れて、繋いでくれた手にすがるように歩く。その手を離そうとしないことも、もう、私には分かってる。