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「私、何もしてないですよ、本当のこと、言っただけじゃないですか」
「そういう事言われると、私も照れるんだよ」
顔を逸らされて、赤ら顔を隠されてしまう。でも、撫でてくれる手の優しさは、変わらない。どうしたって、私のことが好きってわかる。
私の顔が赤くなるのはいつものことだから、私の気持ちなんて、いくらでも気づかれちゃうんだろうな。私が邑さんのこと好きなの、どうしたって伝わるんだろうな。なんか恥ずかしくて、でも、それよりもずっと嬉しさの方が勝る。
「邑さんが顔真っ赤なの、珍しくて、かわいいですっ」
「そ、そうか……?」
「そうですよ、もっと、見せてください」
「別に見なくたっていいだろ?見たって何かもらえるわけでもないし」
ちょっとだけ不機嫌そうに、そっぽを向いたまま独り言のように呟く。なんだか、拗ねてるみたいで、ますますかわいく思える。
「そうですか?……私は、邑さんのかわいいとこ見たら、もっと好きになっちゃいますよ?」
言ってるだけ、頬の奥の火照りが増していく。もっと、触れたい。邑さんの温もりに、もっと熱くなっちゃいたい。抱き合ってた体を、もっと近づける。
「そんなこと簡単に言うな、馬鹿」
「……嫌、でしたか?」
「嫌なわけないだろ、……好き、なんだから」
頬を押さえて、真正面を向く邑さん。私から見ると、ほっぺたの赤さが、手の隙間から見える肌の色で分かる。言葉を伝えようとする口は、自然と耳元に向かう。
「ねえ、邑さん、……顔赤いの、隠さなくていいのに」
「な、だって智恵のせいだろ……?」
私のささやき声に、焦ってるような、戸惑ってるような。取り乱してるところなんて見たことないせいで、なんだか新鮮な気持ち。……お付き合いを始めてからも、もう三年も経ってるっていうのに。
「ちゃんと、お顔みせてくださいよ……、きゃっ!?」
頬から離れた両手が頭に触れられて、一瞬見えた、今までにないくらい頬を赤く染めた邑さんの顔。頭を軽く抱く手に引き寄せられて、真っ赤にした顔よりもずっと心臓が跳ねる。
目の前の顔は、そっと目を閉じて。私も目を閉じる。それから唇が触れ合うのまでは、ほんの一瞬のこと。いつもなら、先に眼鏡を外してくれるのに、なんてもやもやも、あっという間に飛んでいく。
「んっ、ゆう、さん……?」
「あんなの、見せたくないから、……一瞬だけ」
見せなくする方法なんて、他にもあるはずなのに。でも、わかってる。どうして、こんな風に私の視界を奪ったのかは。
一瞬で離れてくたびにまた重なるバードキスは、いつもより大胆で、激しくて、優しい。二人で、熱くなっていくような感覚は、私の中に気持ちよさしか残さない。
不意に離されて、その時にはもう二人とも息が上がってる。目も開けられないまま、ただ抱き寄せられる温もりに甘える。
「ちゅ、……あんまり、からかうなよ、私のこと」
「邑さんだって意地悪するじゃないですか、今みたいに」
ちょっとだけ、つんとした声になる。でも、肌の温もりから、本当はどう思ってるかなんてわかってしまう。
さっきみたいに、踏み込めないままでいるよりも、今のほうがずっといいし、落ち着く。弾んだ息を整えながら、絡みついたように二人の体は離れない。二人だけの時間を、まだ味わっていたいから。