008 入隊試験
その後、レナを先に帰らせた無道は涼波を連れてアルバイト中の辰也へと押しかけた。
チームに入れて欲しいと。
すると、辰也はこう告げたのだ。
夜8時ジャストに夢界に来るよう機械をセットしておけ。古代遺跡の三番闘技場で待つと。
「多分入隊試験的な奴だな。涼波と辰也の向こうの名前は......聞いておけば良かったな。新しい剣にもまだ慣れてないし」
時間通りに宿で目覚めた無道は、鞘を外し宝石のように美しい刀身を露わにする。
瑠璃色。
深い青色がガラスのように透き通る。
刀身がロングソードにしては細く、大きな何かの飾り的な印象を思わせるのは元々そのように作られたからだろう。
以前倒したミノタウロスからドロップした宝剣は見た目に反して秘めた能力はそこらの武器を寄せ付けない物となっている。
それを装備し、無道は一通りのチェックをした。
“ステータス”
メイジ
レベル7 夢界適性ランクSS
HP5060/5060
《装備》 ーーフェデルタシリーズ+7
【剣術+4】ーー宝剣デスティニーシーカー
【氷魔法+2】
《武器制限解除+2》
《攻撃力アップ+3》
《クリティカル率アップ+1》
《ソウルゼロリターン》
レアなミノタウロスを倒したからかレベルやスキルも上がっていた。
武器制限解除についてはミノタウロスの武器を一時的に扱った事だろう。
夢界適性がSS。
スズハの反応を見るに一般では有り得ない、それこそランキングで上位10人程度しかいないとされるそれは無道にとって大きなアドバンテージだ。
辰也に勝つにはアドバンテージを大いに利用するしか無い。
「あれ、《ソウルゼロリターン》? 必殺技スキルかな。何気にステータスポイント全部食ってるし」
ミノタウロス戦での最後に見せたあの技だろう。
詳細にはスキル再使用時間2分となっている。ただ、威力には期待出来そうである。
無道はなるほどと武器をしまい、未だ慣れない夢界のマップを頼りに古代遺跡へと向かう。
◇◇◇◇◇◇
石で出来た古代の建造物はその多くが崩れている。
あちこちには無数の骨。
それも建造物に負けず劣らずの大きさの物もあり、それが僅かな苔などの植物で覆われていることから過去の大戦だと伺えた。
そして、遠くから2人のプレイヤーが待ちかまえていた。
1人は腰に2本の剣を携え特殊繊維の戦闘スーツで、名前はジークフリート・オルレイと本気の名前を決めてきている。
男性だ。
もう一方は褐色肌にサイドテール。
英国海軍の物をスカートやらで着崩した服装で、腕には杖がある。
こちらは少女。
無道が少女の名前を確認する前にメールが届く。
『辰也と涼波は知っているか? お前がここに来た理由は?』
これは本人か確認するための者だろう。
無道はありのままの事を書き、送信。
一方がオウケイサインなのか手を振ったので、無道はそのまま歩いていく。
相手の顔が見えるところまで来ると、無道は目を大きく見開く。
そして、それは向こうの少女も同じであった。
「「えっ?!」」
互いが互いの顔を、名前を交互に見る。
『スズハ』と表記された少女は無道が先日お世話になったはずの人では無かったか?
が、ここにいるはずなのは辰也と涼波。
だとすると、この少女は
「お前が涼波かッ!」
「あんたが無道なの?!」
「ああ、お互いが偶然知り合ってた系か。なら装備が新しいのも頷けるな。手間が省けた。特にお金の面で」
ほぼ同リアクションの2人とは対称的に辰也ことジークフリート・オルレイは悩みが解消されたと顔を綻ばせていた。
「似てるとは思ってたけど性格は全然似てないから別人だと思ったわよ。普段よりもテンション高いし、ギャップ差がはんぱないよ」
「それは新しいゲームに興奮してたからだと思う。にしても涼波はあんま変わんないんだな。なんというかありのままだ。あ、ちなみにほめ言葉の方な」
「えっなんか嬉しいな。ん、あんたがメイジならあの時の会話が......」
思い出されるのは涼波が見知らぬプレイヤーメイジを無道に重ね、その嘆きを語ったシーン。
2人が同一人物だとわかった今、あれは涼波の恥ずかしエピソードでしかない。
思い出そうとする無道の頭を涼波は全力で殴りつけるのだった。
「思い出すなーッ!!」
「ん、よっと」
「かわすなー!」
「そろそろめんどくさい。それより辰也、入隊試験みたいなのはあるの?」
「そうだな。なら涼波どいてろ。どれくらいの実力があるのか試す」
そう言うや辰也は2本同時に剣を抜き放つ。
唐突の多い剣である。
負けじと無道もじゃりんと引き抜く。
「HPが半分を切った方が負けにする?」
「ああ、そうだな。お前の場合、実力があれば負けても合格とするがな」
「そっか。でもやるからには勝ちたいよね」
笑顔のまま、剣を中段に構える無道。
と、いきなり直進を開始。
既に感情指数によって身体能力は強化され、一瞬で辰也との距離を詰める。
からの真っ正面からの突き。
《デスティニーシーカー》の攻撃力は竜剣とは比べ物にならないほど高い。
そして、
「ソウルゼロリターン」
早口で唱えられたいきなりの切り札。
氷によって肥大化した剣が2本の剣を弾き、辰也の体勢を崩す。
無道は更に勢いを上げるように中段から辰也に切りかかる。
初手から決めにかかる。
それが一番有効だと無道は瞬時に判断した。
素人が上級者に勝つためには油断している時を狙うのが効率的。
そして、開始直前まで無道は学校みたく普通にしていた。
これに関しては演技でも何でも無い。
が、一瞬のうちに戦闘モードに意識を切り替える事で結果的に油断を誘った。
辰也の剣2本も大きく弾かれ、振っても無道の攻撃が先に当たる。
チェックメイトだ。
のに、
無道の腹に大きく裂傷が刻まれる。
そこから広がる今までに類をみないほどの激痛。
それが剣の軌道をずらし、辰也の蹴りで無道は大地に倒される。
「いてぇぇ。ゲームなのにまじもんで痛いんだけどッッ!」
「それが夢界適性の高い奴の弱点だ。感覚が強化される変わりに痛覚もってな。これに懲りたら無闇に《オーバーライト》は使わない方が良いぞ」
つまり無道の全力は諸刃の剣だと言う事だ。
残るは《ウェポンリリース》なのだが、無道はたたみかける前に辰也の手に収まる剣の形が変形している事に気づいた。
鞭のように伸び、生き物のようにうねる剣を。
「連接剣?!」
「ただしくはその派生の【連接機】だ。用は自動操作可能な鞭だな」
「だから弾いた剣に斬られたのか。それが2本とかやべいな。降参はしないけどね」
連接剣はその鞭の特性上、弾くなら可能な限り先端を狙いたい。
巻き着かれでもしたらその刃先でごっそりとHPが減るからだ。
その上、操作可能なので逆に巻き付けてしまおうという事が出来ない。
だから無道は氷塊2個を正確に当て、更に剣で弾くも、そのたびに剣の鞭は起き上がり無道に襲いかかる。
それは永遠に復活するモンスターの如く。
かすかな光を帯びた牙が大地に当たる度に土を抉る。
そして、攻略法の思いつかぬまま無道のHPをじりじりと減らす。
(射程距離を離れると逆に僕が攻撃出来ない。かといって密着状態もアウト。残るは辰也の腕から武器を奪う)
無道は可能な限り攻撃をかわす。
たまに食らうが痛みを無視して突っ込む。
剣を振り、辰也の腕から連接機が落とせるーー後少しのところで、
「俺の勝ち」
既に無道のHPが5割を切っていた。
対して辰也は8割残っている。
無道の完敗である。
そこで勢いが途切れた無道はその場に座り込む。
「辰也強いんだな。連接機とかあんな扱い難しそうなの良く使えるよな」
「ひとえに努力の結果だ。強いと言うのなら無道は初めて数日でここまでとはな。正直怖いくらいに強いぞ。俺も連接機使って無かったら勝てるか怪しいところだ」
「なら、チームに入れてもらって良いのか?」
「もちろんだ。ただし俺に同情とかなら」
「それもあるけど僕は強くなりたい、この世界について知りたい。そして、2人とチームで戦いたいから。よろしく辰也、涼波」
そして、3人はチームとなった。
その後はいきなりのチーム戦では無く、無道の弱点をどうカバーするか、チームでの立ち位置などを話し合うのだった。
チーム戦に関しては実際やってみればわかると明日にお預け。
やはり睡眠は大切なので、(バイトで疲れる辰也のためにも)今日はそれで解散。
無道はログアウトするまで鼓動が高鳴りっぱなしだった。
ようやく辰也と涼波とチームを組めたのだ。
これでチーム戦にも出れる。
より多くの強敵、もしかしたらトップ10とも闘えるかもしれない。
そして、なによりチーム戦に出れば無道が探している少女もぐんと見つけだしやすくなるはずなのだから。
◇◇◇◇◇◇
いつも通り無道は日がでる前には起きていた。
眠い目を擦りながらも軽くストレッチをしていく。
さて、いつものランニングでも行こうかなとふと机の上を見てその動きを止めるのだった。
「なんだよこれ」
文字の書かれた紙が無造作に置いてあった。
が、有り得ない。
これは無道の知らない筆跡。
とっさに侵入者を警戒したが鍵は全て掛かっているため、それを否定。
「じゃあ誰がこれを」
ここには無道以外いないはずなのに。
なのに、
そこには紙にこう書かれてあった。
『お前が探している少女について情報が欲しくないか? 僕はその者がいる場所を知っている。
お前は夢界を疑い、チーム戦で勝ち続けろ。
時が来たら残り全てを話す。
第一位』と。
ひとまずチーム結成完了。
お次はチーム戦になります。
『
《デスティニーシーカー》
<攻撃力> 960
<特殊効果> 形状変化<大剣><短剣><槍>< >
<説明>
・形状を変化させる事が出来る特殊な武器。
鋼を断ち切る鋭さと持ち主の意思の強固さを持つ最強クラスにも劣らぬ宝剣。
』




