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夢界交差のハルシオン~未だ彼は見知らぬ少女を追い求める~  作者: 坂木 涼夜
第一章 チーム結成
8/13

007 教えて欲しい

未だにチーム結成していませんが、もうしばらくお待ちください。



◇◇◇◇◇◇


 次の日、無道は学校の廊下をポツリと歩いていた。


 スズハと別れた後、無道は気づいた事がある。

 夢界と現実とでは時間の進み方が違うという事だ。

 夢なのだから当然と言えば当然だが、開発者はどのようにして作っているのだろうと無道は思わずにいられなかった。

 

 しかし、無道にはそんな事よりもしなくてはならないことがある。

 それは涼波と辰也、2人に夢界を始めた事とチームに入りたい事、そして謝りたいのだ。

 が、


「涼波には逃げられるし、ゲームのやりすぎで眠いし。辰也に関してはあまり知らないしなぁぁ」


 そのために2人と話す時間が欲しい。

 と、機会を伺っていた無道であったが、放課後に辰也を見つけたのだ。

 

 そう、山積みの資料が入っているであろうダンボール箱を抱えたザ、生徒会長。

 その構図から彼がどこに行くのか予測は簡単だ。

 やる気無し男の無道が嫌うトップ5の場所、生徒会室にである。

 ここで話しかければ手伝わされるのは必須。

 よって、全力で方向転換する選択肢を取る無道だったが、


「む......無道か。ちょうど良いところに。資料を運ぶ。手伝ってくれ」


「今だけは会いたく無かったッ!」


 けだるけな無道は悲痛にも似たアグレッシブな叫びを上げるのだった。



 その後、あれよこれよと生徒会長の手腕により、さしもの無道も忠実なしもべと化して行く。

 のだが、延々資料閉じや荷物運びはつまらない。

 よって開始1時間もたたずに無道の不満パラメーターは上昇中なのであった。


「なぁいつになったら終わるわけ? ていうか良くこんなのやってられるよね。同じ2年なのに学校纏めていろいろ働いて......すげーよ」


「まあ高校生活は限りあるものだからな。少しでも濃密な3年間を過ごしたい。それに貧乏人としては無駄な出費は出したくないしな」


「そうなのか......辰也が前に話した夢界も確かお金が、貰えるんだよな。もしかしてそれのためにか?」


「まあそんなところだ。追加でバイトやってるが、正直厳しい。親はいないわランキングは落ちるわで大変だ。幼なじみである涼波家にたまに料理を貰うが、それが無ければ特区に潰れてたかもな」

 

「うへぇ、生徒会の仕事にバイトって。僕なら過労死だよ。っつうか高校生がそこまで過酷な人生を歩んでいるとは......」


「俺はこれが普通だし、きつくはある。が、なかなかに今を楽しめてるぞ」


 残り少なくなった資料を辰也と共に生徒会室へと運ぶ。

 辛い人生道を聞いた後、どう反応していいのかわからない無道だったが、辰也の顔は別に曇っていなかったことに安堵した。

 むしろ輝いている。


「それに、留学して研究者になると言う夢があるからな」


「凄いな、僕なんて高校卒業した後なんて考えてすら無いのに」


「俺はただ目標に対して着実に、必ずに手に入れたいと思っているだけだ。そのせいで良く空回りする。すまんな、先日は」


「いいって。僕はいつもやる気出さないから頼って貰えた事が久しぶりでさ、嬉しく無かったと言えば嘘になるんだよ。だからさ............やっぱなんでも無い」


「そうか、もうすぐだから頑張れよ」


 無道は言えなかった。

 辰也がまぶしかったのだ。

 夢があり、それに真剣に取り組む姿が、

 

 だから無道は思ってしまう。

 今言っても同情としかとってもらえない。

 僕みたいなのが変に関わっていいのかと。

 

 結局無道はその日、辰也に告げる事が出来ずにいた。

 


◇◇◇◇◇◇


 今日は平和な土曜日である。

 学校は無いので部活の無い無道は1日中夢界をして過ごせる日なのだ。が、


「デートしようよ、おにいちゃん」


 天使な妹の笑顔には勝てなかったのだった。


 無義理の妹ことレナとの取り決めで、無道は一週間に一度デートするという取り決めになっている。

 主にどこかの店で甘いもの食べて終わりの散歩で、新しい店を発見しようとするのだが、「ここは女性客しかいない」「ここはリア充たちの密集地だ」と無道が避けたがるので、結局は近くの隠れ店になる。

 店までの数分、いつにも増してレナが積極的に無道に話しかける。

 テストで良い点をとっただの調理実習で失敗したなどたわいもない話だ。

 その度にころころと変わるレナの表情は微笑ましいものがある。


「あの、先輩。最近元気無いですけど、どうかしたんですか?」


「えっ、な、なんでも無いよ」


「そうですか。困ったことがあったらいつでも私を頼ってくださいね。先輩は特に勉強がダメダメですから」


「あはは......次回のテスト勉強も頼むよ」


「はい、任されました!」


「でも、いいのか? 中学生の妹に勉強を教わる高校生兄って。僕がヤバいのか妹がハイスペック過ぎるのかわかんねえ」


 ぼやく無道だが、少しは表情も明るくなっただろう。

 ただし、好きな人が出来た時は必ず相談するようにとレナの顔がまじであったのにはさしもの無道も苦笑いをするしか無かったが。


 この数日、無道は辰也や涼波について考えていた。

 2人と共に夢界で戦いたいという気持ちと自分は軽い気持ちで入りたいなどと言って良いのだろうかと言う事だ。

 と、

 歩む無道の前に見たことのあるポニーテールが走ってくる。

 軽い服装の少女は涼波彩夏。

 彼女を見た途端、無道はどう声をかけた方がよいか迷ってしまうが、そこは涼波が解決する。

 

「あれ、無道。ここで何してるの?」


「散歩、かな。そういう涼波はランニングか。土曜日なのに良くやるよな」


「今日は部活が無いから体が鈍らないように軽くね。無道はどこに行、く......ってあんた彼女いたのッ!!」


「レナです。先輩とは毎日夕飯を食べる仲なんですからね」


 と、涼波の驚く様を面白いと思ったのかぎょっとする無道の腕に抱きつく義理妹。

 腕に押し付けられる双丘に顔を赤くする無道を見て、涼波の思考回路は自然と散歩→デートと判断する。

  

「えっ、あっ、その、邪魔して悪かったわね。それじゃ」


「待て涼波、こいつは妹だーッ! だから逃げんな」


「むむ、先輩もしやあの女と出来ていたんですかッ! 私と言うものがありながら」


「レナは黙ってろ。このままだと平穏な僕の生活にシスコンの囁きが付いて回る。恥ずかしすぎだろそんなのッ!!」


 と、夫婦漫才を繰り広げたが最終的には無道が振り切り、涼波の誤解を解くのだった。

 その際に「妹に後輩設定してるのはどうかと思うよ」と拭えない傷を無道に刻むのだが。

 

 とりあえず一緒にパフェを食べようと言うと

涼波は喜んでついて来るのだった。

 ドカンと盛られる3つのパフェにそれぞれスプーンを突き刺し、各々の口に頬張る。

 少女2人のとろけた笑みを見つめ、とにかく危機は免れたと安堵する無道。

 その後は3人でぶらぶらと歩くのだが、無道は未だ涼波にあの事が言えないでいた。

 と、ふと涼波の視線がコンビニに向けられる。


「あれは、辰也?! あいつこんなところでバイトしてたのか」


「まあ......辰也は忙しいからね。会うのはまたにしようよ」


「ああ、にしても凄いよな辰也。生活費だけじゃなく留学費も稼ごうって言うんだからな」


「それだけじゃないよ......」


「えっ、」


「辰也は多額の借金も背負っているの」


 暗くなる涼波の口から発せられる言葉に無道は思わず声が出せなかった。

 それまで明るかった景色が一瞬で暗くなるような感覚。


「じゃあ大会で優勝するっていうのは、そうしないとやばいからか?」


「うん、優勝してなんとかってところ。あ、でも無道は気にしなくて大丈夫だよ。これは私たちの問題だから」


 そうはいっても涼波の表情は明るくはならない。

 多分、辰也は空き時間全部をバイトに使っているのかもしれなかった。

 それなのに疲れた顔一つせず、高校での日々を大切にしようとする辰也は無道にとってすげー奴だ。

 無道が2人のチームに入れば大会に出れる。

 優勝出来るかなんて無道にはわからないが、それでも2人のためになりたい。

 

 そんな口実が無道の背中を押す。


「なぁ涼波。僕をチームに入れてくれないか。知り合いが困ってるのに傍観者やってるのは嫌だから。それに2人をもう少し知りたい。僕に教えてくれないかな。ゲームの事、2人の事を。涼波が良ければだけど」


 吐き出された言葉。

 涼波は最初驚くがその後、笑うのであった。

 


 

 


 

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