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夢界交差のハルシオン~未だ彼は見知らぬ少女を追い求める~  作者: 坂木 涼夜
第一章 チーム結成
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006 青の連撃

 スズハの多重付与の直後、頭上に巨大な戦斧が振り下ろされる。

 が、強化した僕はそれを難なくかわす。

 衝撃の余波を回転で流し、新しい剣の一撃が青の一線を敵に刻む。

 確かな手応えの後、すぐに来るミノタウロスの大振りを避け、破壊の悪魔のHPバーが僅かに減っているのを確認した。

 

「これなら......行ける」


 前回とは違い、一方的にはやられない。

 剣を中段に構え、次の攻撃の隙を待つ。


 が、なんとミノタウロスが横を向いたでは無いか。

 その視線を追うや完全武装したプレイヤーの集団がこちらに迫ってくる。

 ボス狩りに来たと思われるがその表情は呑気なものだった。

 「おっ、ボス発見!」と手慣れた感じを見せせるが今のミノタウロスは普通じゃない。


「駄目だッ! 今のこいつは強すぎる!」


「いやいや、あんたらが弱いの間違......がはっ」

 

 一瞬でそのプレイヤーは消し飛んだ。

 それだけじゃ終わらない。

 狂乱なミノタウロスがフィールドの木々や残りのプレイヤーをも巻き込み、巨神の戦斧が辺り一帯を破壊する。

 

 僕よりも高レベルなプレイヤーたちが一人一人と散っていく。

 決して僕は敵の実力を劣るだなんて思っていたわけじゃない。

 しかし、奴の一撃が規格外なのは目にしみる。

 だからといってこのまま彼らが全滅するのを眺められるほど僕は強くない。

 隙だらけの背中に《ウェポンリリース》を可能な限り叩き込む。

 振り向かれ、反撃とばかりに戦斧が追撃に入るが、僕は尚も斬る。

 まじかに来る攻撃を前に一度失敗した武器同士の衝突を再び行う。

 前回とは違い、簡単には押し負けていないが、大岩を担がされているような莫大な負荷がかかり、足が地面にめり込んだ。

 

「重っ......」


 だが、はなから力業で勝てないのはわかっていし、勝負する気もない。

 相手の全体重かけているであろうこの鍔迫り合い。

 その戦斧に剣を強引に滑らせ、軌道を変えさせる。

 剣を相手に当てるために。

 低い金属音が聴覚を麻痺するほどに鳴り響き、弾ける火花が髪を焦がす。


「決まれぇぇッ!」


 決まるか斬り殺されるかの天秤を前に僕は奴の手首に確かなダメージを与える。

 それが功を奏し、ミノタウロスの手首から戦斧がずるりと落ちる。

 またとないチャンスだ。

 剣に更なる光を宿し、僕はただひたすらに敵の体を斬りつけた。

 敵のHPバーは今までにないほどの勢いで減っているだろうが、まだ遅い。

 僕はこの世界をまだよく知らない。

 でも、プレイヤースキル重視ならやれる事はあるはずだ。


 もっと速く敵を斬れ。

 もっと速く、無駄の無い一撃を。

 《ウェポンリリース》の光が消える前に。

 僕の意識がまだある内にコイツを倒せ!


 加速する剣戟に更なる拍車をかける。

 相手の攻撃は最小限のモーションでかわす。

 攻撃速度を落とさないために自然と避け方を学習する。

 というかもう本能的に動いていた。

 ただかわして当てる。

 言葉にすれば簡単なものだが、それに僕は全てを込める。

 ただ貪欲に、自身の加速を求めた。


「ザアアアッッ!」


 ミノタウロスの頑丈で岩のように筋肉質な体に幾度となく斬りつける。

 それでも奴は終わらない。

 僕を殴りにくる。だが、その姿はもはやそれしか手がないと言った感じで、苦しそうだった。

 後少し。

 後何か、火力を上げられる物を。


 とっさに落ちていた巨大な戦斧に一撃を放つ。

 正確には先端。

 紺碧色の刀身がある部分を剣にして使うために。

 砕いた剣は不格好で、柄の役目を果たす部分は荒削りで持つと痛いが今はかまっていられない。

 即席の二刀流だ。

 未だ勢いを衰えずに突進してくるミノタウロス。

 奴に竜剣を投擲、首の付け根にずぶりと刺さり動きが一瞬だが止まる。

 これで決める。


 方法なんてわからなかったが、いつの間にか剣には氷が張っていた。

 感覚で出来たエンチャント。

 ウェポンリリースの光が紺碧の剣を更に深く染め上げ、ほぼ一直線に剣を走らせる。

 渾身の一撃、それを心臓に叩き込む。

 

「貫けッ!」


 イメージする。

 人間の何倍もの巨躯を誇るミノタウロスを貫くよう。

 イメージが形となり、氷が新たな剣の先となる。

『想像を糧にする』


「ソウルゼロ......リターン」


 無に帰せ。

 伸びた刀身がその分更に突き刺さり、そして貫いた。

 動かなくなるミノタウロス。

 破壊の魔物はすぐに消滅し、同時に共に戦った二本の剣も力尽きた。

 立っているのがやっとの体で僕は重苦しい息を吐き出した。

 

「終わった......のか」


 勝てた事が奇跡だった。

 感情指数......ウェポンリリースが以前よりも長く続いてくれたおかげ。

 それだけじゃない。

 常時絶やさずエンチャントをしてくれたスズハがいたから、武器も装備もそれから信じてくれたからここまでの奇跡をたたき出せたのだ。


 僕はスズハにお礼を言おうと、後ろを振り向き、そして倒れた。

 もうそれが習慣でもあるように、僕は目蓋を閉じるのだった。




◇◇◇◇◇◇

 

 

 有り得ない。

 スズハは倒れるメイジに駆け寄りながらそう思っていた。

 ミノタウロスを倒した事にでは無い。

 無限にも思えるウェポンリリースの連撃を繰り出したメイジにだ。

 

「見たこと無い......あんな連撃数。レベル1でも無理なのに......メイジのは」


 最後に見せた光。

 あれはどう見てもレベル4はある。


 それだけじゃない。

 後半からメイジの動きがこれ以上無い程に加速し、剣戟なんてスズハは目で終えなかった。

 身体能力強化の《オーバーライト》も発動していたのではと思うくらい。

 

 でも有り得ない。

 そんなに持続可能な感情指数を持つ者などスズハは見たことも無かった。

 感情指数とは言わばMP、感情、精神、魂の総量だ。

 回復速度が速いなんて事は決して無い。

 なぜなら疲れを癒やすには個人差はあれど休んだり、糖分の摂取が必要であり、夢界でもそれは同じだからだ。


 だとするとそもそもの総量が違うのか。

 《夢界適性》

 ランク付けがあるそれは感情指数の量が多く、扱いが上手いほど良い。

 ただし、メイジのは桁が違う。

 Aなんてもんじゃない。

 ランキング50位以内にいる物にSというのもいた。

 その戦いを何度か見たことのあるスズハはそれも即座に否定。

 

「感情指数ってのは思いが強ければ一時的に総量が増える。それだとしてもメイジのはあまりにも多い。もう《絶対域》の......ランキングトップ10の人達の領域じゃない、そんなの」

 

 日々絶え間なく順位が変動する成績別ランキングに置いて、トップ10は未だ不動。

 その10人はそれぞれが強力なユニークスキルを持っていると同時、圧倒的な技術、力を持つ。

 もちろん感情指数もだ。

 全力を見た事は無いが、彼らの領域に無道は足を踏み入れている。

 だとすると、これからメイジは強くなる。

 トップランカーと渡り合えるほどに。

 それは凄い事だ。

 しかし、スズハは同時に悲しくなる。


「......やだな」


 メイジという原石はどこのギルドやチームでも欲するだろう。

 そしたらスズハはメイジとは多分一緒に戦えなくなる。

 恋心?

 少し違う。

 スズハは一緒に夢界をやりたかった人がいた。

 その人とメイジを重ねていたのだ。


(わかってる。彼はうちの知ってる人じゃない。だから好きなようにさせないとだよね)


 メイジが実は自分がゲームに誘った人で、試しに遊んでいたらばったり会ったなんて夢物語はもうよそう。

 

 スズハはそう呟くがやはり寂しくもあった。


 幼なじみの資金協力に始めたこのゲーム。

 楽しむことを忘れていた自分にメイジはゲームの楽しさを思い出させてくれた。

 無謀なボスと挑んでメイジが切り結ぶ度に、エンチャントする度にスズハはなんどヒヤヒヤしたことか。

 だからこそ楽しかったのだ。

 こんな経験二度と無いかもしれない。

 出来る事ならもっと一緒に戦いたい。

 他のチームに行かずに自分のところにきてほしい。

 が、その言葉を言ってしまえばこれからのメイジのゲーム人生の幅を狭めてしまう。

 それがわかっているからスズハは何も言わず、ただ回復ポーションを気絶したメイジの口へ注ぐ。

 と、微かに動く少年の指先。


「ん............そっか。また助けられちゃったね。ありがとうスズハ」


「もう起きたんだね、結構早いねメイジは」


「まあ早起きは得意だからな。それより顔色悪いけど大丈夫? もしかして僕は倒れてる間休憩してなかったとか? だとしたら早く休まないと」


 言うべきだ。

 メイジは強くなる。

 それを邪魔する権利はスズハには無いのだから。

 少し溜めてからスズハは口を開く。


「ううん、違うよ。ねえメイジ。駄目ならいいんだけどあなたのステータスを見せてくれる?」


「えっ、いいけど。っほら」


 スズハは見る。

 夢界適性......SS?!

 

 夢界適性とはほぼ才能の塊といってもいい。

 努力じゃ実らない。

 だから皆求めるのだ。

 そして、メイジには選ばせよう。

 ステータスを見終え、メイジに向き直ったスズハはその後を言うのだ。

 

「あなたは強くなる。きっといろんなところからスカウトが来ると思う。それもチームランキング上位からも。メイジはどこか入るチームとか決めてる?」


「まあ、僕にこのゲームを進めてくれた人のところに、かな」


 やはりもう決めていたのだ。

 スズハはどうしようも無くある人とメイジを重ねてしまう。

 もしかしたらメイジがあの人で、うちのチームに入ってくれるのではという淡い期待が。

 しかし、それは無いと何度もスズハ自身が否定している。


 あの人が夢界をやっているはずがない。

 きっとあげた機械も捨てられてしまったに違い無いと。

 なぜなら怒らせてしまったから。

 

 そんな胸の内を隠し、スズハは別れを告げるのだ。


「だとしたら......これからは一緒には遊べなくなると思う。メイジと戦えて楽しかったよ。君の事は忘れないから」


「いや、なんで二度と会わないみたいになるの?」


「えっ、」


「僕が例えどっかのチームに入ったとしてもまた一緒に戦いたい。まあスズハがいいならだけど」


「うちでいいの?」


 メイジはこくりと頷く。

 その姿がどんどんスズハが知っている人と影を似せる。

 あっ、やっぱり駄目だ。

 メイジといるとうちは......

 

「ごめんね。うちは君を知り合いに重ねてたの。ゲームをやろうって誘ったんだけど怒らしちゃって。それでやり始めたならこの位だろうってメイジをその人に重ねてて......ごめんね。君を見ると、どうしてもその人を思い出しちゃうんだ......だからごめん、ね」


「そっか。なら仕方ないよ。僕も今避けられててさ。だから一緒に頑張ろ。きっとその人だって一度でもスズハが誘ったゲームをやればはまるはずだよ。そんで互いの問題が解決したらさ......また一緒に戦おうよ」


 凄くきらきらした物がメイジにはある。

 思わず涙が出るスズハ。


「ありがとう......メイジ......」


 この出逢いはスズハにとって二度と無いものとなる。

 そして、中央区の宿屋で2人は別れを告げた。

 お互いの進むべき道のために。

 そして、スズハは再び夢界をやろうと誘うのだ。

 

「無道に......もう一度」




 

今回は簡単に言うとメイジの強さをスズハが知る的なことです。

 今更ながらシステムについて少し説明。


《ウェポンリリース》

・感情指数を大幅に消費してその力を武器に込める必殺技。

 込める量によってレベルが5段階に別れている。

 一撃放つ毎に消費していき、連撃数が多くなる、レベルが上がるにつれ難易度が上がり、消費する量が莫大になる。

・攻撃には自動系と言って、あらかじめ設定されたモーションをシステムに代理してもらうのが主流。


 

《感情指数》


・作中にちらりと出てきた幽体離脱、(そう言った説明はまたの機会)つまり心だけの存在でプレイする彼らの魂、感情、精神、MPだ。

 つまり、感情の高鳴りでそれが増減する。

 その量が多いほど夢界に置いて有利である。

 そして、その量は才能依存。


『夢界適性』という別名でランクに別れており、F~Aまでが基本。

 Sは既に異常で、無道のSSは伝説的と言われるランキングトップ10に勝るとも劣らぬくらい。


ただし、夢界適性=強さにはさせないぜ。

多少の優劣はあってもゲームバランスは平等に作者はするのです。

プレイヤースキルも重要だしね。


ここまで読んでくださってありがとうございます。

次回は現実が主になります。

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