005 プレゼント
無事に離脱出来たと安堵した途端、僕はその場に放り出される。
それはスズハも同じであり、泥を払うや疲れの息が漏れる。
「なんとか間に合ったぁ。でもすぐ追ってくるんだから厄介な話よ。安全圏である中央区から離れちゃったし」
「つまりまたかち合わないといけないって事か。そうは言っても武器が......」
あんな化け物と二度もなんてやだに決まっている。
かといって死ぬのは嫌だ。
と、もう一つの案が浮かぶ。
僕が囮になってスズハが逃げるというものだ。
元々ボスモンスターと戦いたいと言い出したのは僕だし、スズハに責任は無い。
僕はそう言おうと口を開くがスズハの次の言動で言葉を閉ざしてしまう。
「ならこれでも使って。無いよりはましでしょ」
と、スズハが投げたのをキャッチし、ずしりとくる剣を見る。
刀身は赤茶色で柄は握りやすくするためなのかゴツゴツしている。
《竜剣ワイバーン》攻撃力......240?!
中央区で売っていた剣の約2倍ではないか。
「スズハ、これめちゃくちゃ攻撃力高くない?
僕が使っていいの?」
反射的に言いたい事と違うことが出る。
と、同時スズハも一緒に戦ってくれると判断する。
彼女は巻き込んだ僕に嫌な顔一つせず付き合ってくれると言うのだ。
「むしろ低いくらいよ。雑魚モンスターのドロップだから仕方ないけど私の《リーパーズライト》はその三倍くらいよ。ちなみに現段階で売られている最高片手剣で1000オーバー」
「な、なるほど。桁が違う。しかしスズハって本当に上級者なんだな」
「といってもランキングじゃ三桁止まりだけどね。可能な限り準備をしましょ。特にメイジのステータスを」
万単位のプレイヤーが存在する中で三桁って充分凄い気がするがそれは言わないでおく。
「わかった。残りのステータスポイントを全部注ぎ込むよ」
現在僕のスロットは6個。
うち4つが埋まっている。
【剣術+2】【氷魔法】《武器制限解除》《攻撃力アップ》レベルが上がったためステータスポイントは11。
防御力系は論外。
多少上げたところで太刀打ち出来ないのなら回避と攻撃力に重点を置く。
だから今のスロットは外さない。
問題は今あるスキルの強化か新たに追加か。
とりあえず《クリティカル率アップ》
これはポイント消費2。
残りの7ポイントを《武器制限解除》《攻撃力アップ》【氷魔法】に振る。
ちなみに強化は取得した時と同じポイントを消費する。
#剣術と攻撃力アップは使用しているので1ずつ自動上昇している。
“ステータス”
メイジ
レベル5 夢界適性ランクS
HP5040/5040
【剣術+3】ーー竜剣ワイバーン
【氷魔法+1】
《武器制限解除+1》
《攻撃力アップ+2》
《クリティカル率アップ》
《 》
<残り0ポイント><空きスロット1>
「よし、これで完了」
「了解。......じゃあ今アイテム送るからそれを装備してくれる?」
一瞬考えるようにそう言ってスズハから送られてくるのは《フェデルタシリーズ》と呼ばれる軍服装備だ。
ステータス情報によれば防御力と機動性に優れており、忠誠を誓う的な意味合いがあるらしい。
なかなかのレア装備である。
しかし、いやだからこそ
「こんな良い装備一時的とはいえ使っていいの?」
「だからいいってば。どうせ男ものだし。それに本当は別の人に贈りたかったんだけどその人多分夢界やってくれて無いだろうから......ってことで貰ってくれる?」
「わかった。まあその、なんかごめん」
「いいって。その変わり絶対勝とうね!」
「ああ任せろ」
本当に有り難いよ。
何が有り難いかって低レベルで見ず知らずの僕とボスを倒すと本気で信じて協力してくれるところだ。
応援に応えないとな。
僕はすぐさま樹木に隠れる。
このゲームでの着替えがよくわからない以上裸体を晒したくは無い。
そんな僕の考えは外れ、普通にシステム操作で瞬く間に服装が変わった。
《フェデルタシリーズ》
青と黒を主体とした格好いい軍服。
我ながら自分には勿体ないほどの物だが、今は躊躇っている場合では無い。
それから腰にある竜剣ワイバーンを確認。
ステータスの下側、装備欄を確認する。
『
《フェデルタシリーズ+7》
<防御力> 750
<機動性> 65
<特殊効果> クリティカル率アップ大
ステルス性能中〔任意)
耐久性中アップ
衝撃吸収小
<説明>
主への忠誠を表す。
機動性に優れ、頑丈な繊維で出来ているため幅広く使える。 』
ちなみに一式フェデルタなのでこの場合は合計数値となる。
着替え終わり、戻ってくるやスズハがなかなか似合ってるねと素で言ってきたのには少々照れはしたが気持ちを戦闘モードに切り替える。
次は作戦会議だ。
少しでも長く時間を稼げるよう歩きながらだ。
「メイジは極力攻撃を受けない事。攻撃を受けず、相手にのみダメージを与える。うちは支援と敵の妨害を主に。ヘイトはずっとそっち持ちだけど我慢してね」
「ああ。問題は動きの素早い人型って事だね。特にあの戦斧の横払いはきついな。あんな馬鹿でかいのをいとも簡単に振り回すんだから回避遅れたら即死亡かな......」
「ほら、弱腰にならない! なんくるないさだよ」
「そうだね。ここまでしてもらっちゃ負ける気がしないよ。今日はいろいろ助かったよ。生きて帰ったらまたこの世界について教えてほしいんだ。駄目かな?」
「まあうちも久々に楽しいって思えてるし、こちらこそかな。それにしても死亡フラグを良くぬけぬけと......」
スズハの恨みがましい瞳に背を向け、ニッシシと笑う僕。
なんか楽しい。
戦闘の始まる前のこの余韻はなんとも言えないワクワク感がある。
『んー僕は強くなるために自分よりも何倍もでかい奴と戦うな。一撃でも受けたら即死亡だけど僕は強くなりたいからね。こないだのレヴィアタンなんて良い例だよ。危うく深海に引きずり込まれるところだった』
また見える知らない光景。
知らない場所で知らない服装で知らない誰かと話している。
時々あるのだが、なんなのかはわからない。
ただ、それはいつも楽しそう、あるいは儚いのだ。
まるで僕の理想が記憶になっていくかのように。
そんなあるかもわからない理想を求めて僕はここにいる。
前世の記憶とかだったらもう諦めるしか無いが、僕は理想を掴むために強い敵と戦い強くなるのだ。
「何事にも一歩前に進まないと始まらないからね」
僕は強くなる風を感じ、意識を林へと戻す。
まだ続く高揚はすぐに緊張に変わる。
林の一点が暗く静まり返る。
地面を削りながら何かがこちらへと来る。
奴はその巨大な戦斧で周囲の邪魔な木々を一掃し、その姿を現す。
《ミノタウロス》
夢界の殺戮者。
今ここで、僕は君を越えてやる。
剣を抜き放ち、僕はいつかの冷たく研ぎ澄まされた瞳で敵を睨み、突撃を開始した。
“ステータス”
メイジ
レベル5 夢界適性ランクS
HP5040/5040
《装備》 ーーフェデルタシリーズ+7
【剣術+3】ーー竜剣ワイバーン
【氷魔法+1】
《武器制限解除+1》
《攻撃力アップ+2》
《クリティカル率アップ》
《 》
最近評価や感想が貰えました。
こんな僕にありがとう。
レビューやポイントで高評価を頂き有り難いが、ハードルが上がってしまったぜと嬉しい悩みが出来ました。
作品が変わるような事はしませんが作者のやる気は上がります。
第一章のチーム結成まではとりあえず毎日更新です。
読みやすくて面白く、より多くの皆様にみてもらえるよう頑張りたいです。