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夢界交差のハルシオン~未だ彼は見知らぬ少女を追い求める~  作者: 坂木 涼夜
第一章 チーム結成
5/13

004 スズハとのフィールド探索

 この林は比較的穏やかな草食動物系モンスターが多い。

 木々の隙間は思った以上に開いており、林の中の戦闘が苦にならないくらいには陽光が差し込んでいる。

 梢を鳴らす涼しい空気が心中を和ませ、安らぎを覚えてしまう空間だ。

 しかさ、騙されてはいけない。

 ここは平均レベル3~10と草原よりも格上のモンスターの住処だと言うことを。

 いくらこの夢界がプレイヤースキル重視とはいえ僕はまんま初期装備。 

 気を抜けば危ないだろう。

 が、


「安心して。うちのエンチャントがあればここにいるモンスターもだいたいはいけるから」


「そりゃ頼もしい限りだ。っとモンスター発見。レベルは6。えーと」


「《フォレストラビット》は斜め跳びをするから攻撃の際は注意して当てて」


「わかった。後ろを頼むスズハ」


 石を蹴って兎型モンスターの回避方向を誘導。

 そのまま水平斬り、スナップを利用して返すように再び斬りつける。

 攻撃によってフォレストラビットの白い体には赤々とした線が出来るが、HPバーは10分の1も減っていない。

 それがモンスターのレベルが上がった事の何よりの証明だ。

 兎の赤い瞳がこちらを向く。

 強靭な脚力で地を蹴るや尖った歯が僕に来るーーその前に。


「オールエンチャント!」


 後ろから聞こえる声と共に自分の体が軽くなる。

 僕はウェポンリリースを発動させて、衝突狙いで兎の頭上に当てる。

 お互いの攻撃モーションで衝突となった場合、より攻撃力が高い方が押し勝つ。

 そして、今回は僕に軍配が上がり剣が兎を弾く。

 まだ剣の光は終わらせない。

 

「セアアアッ!」


 鮮やかな水色の軌跡を2回ほど描く。

 スズハの魔法によって強化された剣はフォレストラビットのHPをごっそりと削り取った。

 すぐに兎型モンスターの体が霧散し、追加経験値が入る。

 剣をしまった僕にスズハが駆け寄りハイタッチを交わす。


「やったねメイジ」


「ああエンチャント助かったよ。あれが無かったらどうなっていたことか」

 

「そうは言ってもメイジ筋良いよ。このまま成長すればランキングでも良い成績残せそう。あ、でも抜かされたくは無いかな」


 エヘヘと笑う姿を見ていると抜けていない幼さを感じられる。

 最初は先輩感があって年上かと思ったが、同い年くらいなのかもしれない。

 その後もスズハの援護の元、僕は敵を倒しまくった。

 

 驚いたのはスズハの観察眼だ。

 僕よりも後ろにいるはずなのに木々の隙間からモンスターを易々と見つける。

【千里眼】と呼ばれる上位スキルの効果で、上手くピントを合わせれるのが難しいらしい。

 更にスキル多才さ。

【水魔法】のスライムを出現させる《スライムロック》は本来相手の動きを阻害するものなのだが、スズハはそれを防御に使う。


 本人曰わくチーム戦ではその場での応用が大切なのだとか。

 そのためか使うスキルも支援系と行動阻害が多い。

 これまで何度か自分よりもレベルの高いモンスターと戦っているが、スズハが即座に発見、エンチャントをかけてくれるのでこれ以上無いほどやりやすい。

 

「これで最後ッ!」


 辺り一帯のモンスターを掃討し終えると、再びレベルアップとなる。

 レベル5。

 魔法の取得が出来るようになる値だ。


「お、メイジはどの魔法を選ぶの? 炎、水、風、雷、氷、光、闇、土といろいろあるけど。やっぱり適正選んじゃう?」


 僕は取得欄に並ぶ【魔法】の数々を見る。

 【魔法】とは魔法使いで無くとも使える属性魔法。

 適正とはその人と最も相性が良い魔法の事だ。

 その方がレベルも上がりやすく威力が出るんだそうだ。

 

「僕の適正魔法は......氷。じゃあこれで」


 レベルが上がったためにポイントに余裕はある。2ポイントの消費でスロットに【氷魔法】が追加される。

 初めての魔法、なんか感動する。


「ちなみに魔法のスロットを押すと派生の系統樹が出て、ポイントを振ればいろんな使えるからね」


「なるほど。最初は氷の礫しか出ないけど派生なら氷柱を落とすとか壁になるとかってことか」


 さっそく試してみたい。

 モンスターを探すために林を散策すると、

 

 ドシンッ。

 地響きが起こる。

 そして、僕の前には『高レベルモンスター接近中』と言うあまりにもレベル差があると表示と警告音が。

 かつてない緊張感が体を駆ける。



「スズハ、これは」


 尋ねる僕にスズハは焦りげに言う。


「このエリアのボスモンスターよ。レベルなんていままでと桁違いなの。ここは後回しにしましょ」


「ドロップアイテムは結構良い?」


「まあ片手剣で良いのがランダムで......ってまさか戦うの?!」


「攻撃が当たらなきゃなんとかなるさ。スズハが良ければだけど」


 どうかなと返答を待つ僕にスズハはやれやれと杖を構え直す。


「わかったわよ。ただし全力でエンチャントしても運が悪ければメイジは即死だからね」


「あはは、精進するよ」


 何度も戦ったせいで所々に刃こぼれが付いている僕の剣。

 後一戦だから耐えてくよ。


 と、前方の林が爆発する。

 巻き上げられた砂煙を振り払った僕の前には巨大な斧を持った怪物が鬼神の如くこちらを見下ろしていた。

 牛の頭に身体は木々と同程度の大きさの巨人。

 武器は左右に刃のついた戦斧で、そのあまりの大きさはプレイヤーが装備出来る重量を遥かに越えている。

 先端にはラピスラズリのように綺麗な剣の刀身がくっついており、飾りのように見えるそれすらもが破滅を彩る化身の一部だ。

 

 そして、表記にはこう書いてあった。

《ミノタウロス》と。


 何よりもその殺戮するために生きているのだと言う狂気がピリピリと肌をさす。

 一歩立ち止まればもう立ち向かえなくなってしまうのでは無いかとさえ思える。


「嘘、でしょ......」


 しかし、先に声を出したのはスズハの方だった。

 いくら相手がボスモンスターでもここは初心者向け。

 スズハが震える声を出す理由にはならないが。

 そんな僕の疑問をスズハの一言が掻き消した。


「レベル58だなんて......」


「58?! 初心者殺しか何かなのかッ!」


「本来のレベルと20も違う! 多分ランダム確率でリポップするレア種。問題はもう逃げられないってことよ」


「......ってことは」


 瞬間、ミノタウロスの戦斧が動いた。

 そして、それは僕では無くレベルの高いスズハにその向けられていた。

 牛人の戦斧は一切の躊躇い無く動き出していないスズハに襲いかかる。

 

「させっかよッ!」


 《ウェポンリリース》を可能な限りの全力に高め、僕は何倍はあろう敵の武器を迎え撃つ。

 が、

 あまりにも簡単に凪払われる。

 近くに飛ぶ虫がうるさいから叩く。そんな風に。

 僕は衝突した重量を体感する間もなく樹木に激突させられる。

 せわしなく体を走る痛みをこらえ、なんとか意識を保ち腕を見るとそこには砕け散った残骸しか残っていなかった。

 粉々である。


 圧倒的を具現化した力。

 それを前に僕は武器を失ったのだ。

 ウェポンリリースで衝突したはずの僕のHPバーは既に半分以上が消えている。

 次はもう終わりだ。

 レベル同行じゃない。

 こいつは僕と住む世界が違う化け物だと本能が叫ぶ。

 

 恐怖と絶望を前に一瞬でも怯んでしまった僕。

 その耳にスズハの叫び声が轟いた。


「緊急離脱ッ!!」


 刹那、僕の服が引っ張られ、視界にいたミノタウロスが歪む。

 正確には電光石火の速さでこの場所から離脱したのだ。

 ミノタウロスが次第に小さくなっていく。

 もはやこの速さに身を任せる意外考えが思いつかなかった。

 僕はこの世界で初めて死の恐怖を感じたのだった。




どうも。

 ここまで読み進めてくださいましてありがとうございます。

今回は二人での協力プレイ。

いろいろゲームの説明書いちゃってますけどちゃんと伝わってるか心配です。


ボスモンスターとの戦いはいつでも緊張しちゃいます。

例えば母親とか。

 

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