003 『いざフィールドへ!』
設定が上手く伝わっているか心配です。
それにしてもVRMMOってなんでこう面白いんでしょうかね。
◇◇◇◇◇◇
昨日、僕は夢界をプレイし少女の手がかりを得た。少女が夢界にいるという断言は出来ないものではあるが。
研ぎ澄まされた感覚を頼りに敵を斬り続けたあの時。
僕はここが自分の世界なのだと錯覚してしまったのだ。
それほどまでに僕は夢界に惹かれてしまったらしい。
あそこに行けば少女の情報があるかもしれないと言うこと以外に、純粋なゲーマーに僕はなっていた。
あの世界でもっと楽しみたい。
強くなりたい。
しかし、それをするためには僕は無知過ぎる。
右も左も分からない初心者なのだ。
だから上級者に手伝って貰いたい。
そう思い、涼波に声をかけようとするが、
「あのさ、涼波」
「大丈夫よ無道。あのバーサーカーももう言ってこないから」
と、騒がしい教室でよそよそしく涼波に避けられた僕。
話すらさせてもらえなかった。
星野が「振られちゃったかぁドンマイ」と肩を叩くがそれくらい落胆しているよう僕は映っているらしい。
今度は辰也と呼ばれる生徒会長の所へ行くが結果は同じ。
どうやら僕を気遣っての事らしかった。
辰也にしつこく誘われ、苛立っていた僕に涼波は気を使ってくれたのだろう。
ありがたいがその優しさが少し悲しい。
その日、僕は結局2人にチームに入れての一言が言えなかった。
家に帰ると、待っていたのは静寂だ。
いつも出迎えてくれた妹がいないのは心細い。
しかし、いないなら夢界が使える。
制服からラフな服装に着替え、僕は再び電極を額に付ける。
押さえてくれる人がいない以上独学になる。
夢界は元々非公式なためにネット用語に置き換えている場合が多い。
星野たちに頼るのもありなのだが彼らはまだルーキーで知り得る情報も少なそうなのだ。
それとは別に涼波や辰也、僕を必要としてくれた2人の力になりたいと少なからず思っている自分がいる。
辰也の瞳は必死だったから。
彼はチーム戦をやると言っていた。
ならば僕が今やるべきは強化しかない。
少女の情報を集めるにしても涼波たちのチームに入れてもらうにせよ、夢界で強くなっておいて損はない。
より広い範囲に出向けるよう強くなりまくってやる。
横になり、僕はそっと瞳を閉じた。
◇◇◇◇◇◇
「よし。今日は施設の探索とモンスターなどとの戦いかな」
宿泊施設......では無く医療室で目覚めた僕は腰にあるアイアンソードを確認すると、ひとまず武器屋へと向かった。
《武器屋》
・武器や防具の売り買い、強化、進化などを行ってくれる。
武器屋はこの中央区に幾つもの存在していており、店によって値段や品質も変わる。
鍛冶屋と呼ばれる種類のプレイヤーたちが作る武器には《特殊効果》が付いている物もある。
僕が試しにかっこよさげな剣のステータスを表示させる。
『《ダークブレード+5》
<攻撃力> 125
<特殊効果> 耐久度上昇・ダメージ低下減少
<説明>
・鍛え上げられた黒色の剣。刃こぼれを防ぐ効果がある。
<価格> 60000ギル 』
名前の横にある+~とは強化した回数、その分強くなっているということだ。
攻撃力は125というと、強いのか分からないと思うが、僕のアイアンソードの20と比べれば雲泥の差がある。
<特殊効果>とは言わば武器に付与するスキル。普通のスキルより劣る事が多いが馬鹿に出来ない。
あるとないとでは戦況が変わる事もあり得るのだ。
筆箱にコンパスや定規が入っていないせいで無条件にぺけされる図形問題のように。
一見マイナスに見える物も使い方次第では強いというのがゲームの常識。
余談は置いて、僕はこの《ダークブレード》が欲しいと思ってしまった。
黒色の刀身は透明感があり、さながら黒曜石のよう。
全体的にアイアンソードのそれと同じシンプルな作りだが、僕は無駄な装飾はいらない派だから余計カッコ良く見える。
が、
「6万円、かぁ」
思わずそう呟いてしまったがその変換は間違いだ。単純計算は出来ないが10円=1ギルとなっている。
結局高い事に変わらない。
僕は自分のステータス画面に映る残高が3500となっているのを確認してため息をつく。
昨日散々戦ったが、あれは初心者が慣れるためのもの。だから無道は金集めになる事を何もしていない。
「仕方無い。外に出てモンスターを倒すか。そうすればお金も溜まるだろ」
僕はさっそく門へと向かった。
今更ながらに気づいたが、この中央区は一個のドームの中に作られている。
それがエリアの区切りなのかモンスターの侵入を防ぐのか、はたまた別の理由かは分からないが空が見えない事に嫌気を差す者もいる。
外、つまりモンスターのいるフィールドならそれが見える。
モンスター討伐以外にも景観を楽しむために外に出る者は多いのだとか。
旅行気分を味わうのも一つの手だ。
幾つものお店とプレイヤーを横切り、門を抜ける。
一瞬、あまりの眩しさ故に腕で視界を覆うが、それも次第に慣れる。
目をしたのは緑の草むらだった。
所々に花などが見え隠れするのは涼しいそよ風が吹くからだ。
現実と同じく夏の始めを思わせる風が、花や土の匂いを運び、草たちの擦過音が耳に届く。
澄み渡る青空に羽ばたく2匹の小鳥が上空を翔る。
見上げれば照りつける太陽の暑さが生々しく感じ、現実だと錯覚してしまうほど容赦なく肌を焼く。
遥か遠くにある続く木々の密集地より手前は全て同じ光景が続く。
ちらりちらりとと光が見えるのは戦いが行われているからだろう。
ここが夢の中とは誰が信じれようか。
異世界といった方が簡単に納得出来る。
草原の美しさに魅力されながらも僕はモンスターを探した。
と、数メートル先が光り、そこから僕にとって夢界初のモンスターが出現する。
この場に不釣り合いな黒に寄った灰色の毛並みを持つ狼。
得物のように鋭い牙の《フィアスファング》は、その名の通り赤い瞳がこちらを睨みつけている。
防御の薄い僕をかっこうの獲物だと思っているに違いない。
僕は表示される『戦闘方法を確認しますか?』をすぐさま消す。
「戦い方なら昨日出来たんだ。なら行けるのが道理だよね」
剣を引き抜き、敵と一定の距離を開ける。
相手が攻撃するのを待つ。
自分から攻めるのは得意では無いと感覚的にわかるからだ。
そんな僕の思考を読み取れるわけも無く狼は突っ込んで来る。
それに合わせ僕も動く。
と、違和感が生じる。。
(昨日のように動けない?!)
身体能力的には現実より少し上くらいだが、昨日の神懸かった動きは到底及ばない。
結果、認識と行動に誤差が生まれ、敵の攻撃を前転で避ける。
すぐに迫る狼に剣を当て、牙を折る事に成功。
呻いている間に態勢を整える。
「昨日のは覚醒状態であったと。でも、それが分かればいつも通り動けばいいだけだって事だよね」
幸い体を動かすのは好きだ。
ロングソードを振り回した事は無いが包丁なら一週間に数回は使っている。
それにモンスターの動きはある程度パターンが決まっている。
怒り狂う狼の噛みつきを横にステップ回避、からのすれ違い様に斬りつける。
切れにくい感覚が手を伝うも、僕の剣が相手のHPの3分の1を減らす。
「次は《ウェポンリリース》ってのの練習だ。確か剣一点に力を注ぐイメージだっけか」
足蹴で灰色の狼がわずかな時間倒れる。
スキルを取得していないためダメージは低いが、隙は出来る。
スカイブルーの光が剣を包む。
《ウェポンリリース》の発動条件として一定以上の感情指数を注ぐ必要がある。
自動的に消費されるのでは無く、剣に流し込む感覚でだ。
レベルが上がるにつれて要求される感情指数の量も上がる。
ちなみにレベルが上がる毎に光の色が濃くなってゆく。
僅かな抵抗があるものの、レベル1なら消費する感情指数も少ない。
青い弧を水平に描く鉄の剣がついでとばかりに狼をすぱりと切り裂いた。
一瞬の内に敵のHPバーは消え去り、光の粒となって霧散する。
僕はステータスに経験値とギル、それからドロップした牙が記述されているのを見て剣をしまう。
「まあ何とかなったから連戦も大丈夫だよね。問題は昨日みたいに使いすぎないようにしないと」
昨日は精神疲労によってばったりいってしまった。
モンスターの出るこの場所ではかっこうの的になってしまう。
蘇生エリアは分からないけど、もう一度歩くなんて時間が勿体ない。
死なないよう立ち回らなくては。
と、言いつつ
「ウェポンリリース!」
現れた敵を一撃で、
「ウェポンリリース!」
見つけ次第に斬りつける。
「ウェポンリリース! ウェポンリリース! ウェポンリリース! ウェポンリリース! ウェポンリリース!」
持続している間は言う必要が無い。
が、僕の場合は斬りつけるセリフみたいになってしまってるので連続して叫ぶ。
駆け回ってコボルドの集団を殲滅し、お次にイノシシをなぎ払う。
ここのモンスターは適正レベル1あればいい物ばかりなので必殺技のウェポンリリースで一撃なのだ。
草原を走り回り、疲労が見え始めたら数分休憩をとり、また駆け回る。
瞬く間にレベルが4になり、僕は効率の良い経験値稼ぎが見つかったと更に勢いを上げる。
体を動かす度に昨日の感覚が蘇ってくる。
剣と一体になっているというなんとも言えない感じ。
が、それも長くは続かなかった。
体感で2、3時間動き回っていた僕の体が力を無くし、へのへのと座り込んでしまった。
昨日みたいに精神疲労になったわけじゃない。
今日は休憩を取りながらだからそこは大丈夫。だとすれば何か。
僕は自分の体に起こる異変に戦慄を覚える。
なぜならこの感覚は本来ゲームには必要の無いはずのものだからだ。
延々と動き続け、体力にも精神にも気を使った。
が、人間それだけでは生きていけない。
そう。
「腹が......減っただと?!」
唸る腹に僕は驚きを隠せなかったのだ。
ここはゲームの中。
なのに腹が減るとはどういう事か。
崩れる僕が最後に見たのは、そんな僕の顔を覗き込む光る鎌を持った少女だった。
死神かと一瞬思ってしまったが、すぐにその考えを改める。
彼女はしゃがむと出現させたサンドイッチを持って言うのだ。
「あの、これ良かったら食べない?」
死神では無い。
天使だった。
◇◇◇◇◇◇
ちなみに僕のバットステータスは《腹減り》という歴としたもので、治す方法も簡単。飯を食べれば良い。
だが、店を横切ってフィールドへ向かった僕が食料の類を一つも持っているわけがない。
そんな間抜けな僕のお腹を満たしてくれたのは『スズハ』と呼ばれるサイドテールの少女だった。
健康的な褐色がかった肌に英国海軍の制服に似た服装。
それをマントやスカートで崩して魔法使い風とアレンジをしており、さり気ない可愛らしさを出している。
そんな可愛いと男勝りの元気を兼ね備えている少女、スズハは興味深そうに顔を近づける。
「それにしても《腹減り》で倒れる人なんて初めて見たよ」
「説明をスキップさせ過ぎた結果ですね、はい。とにかく助かったよ、ありがとうスズハ。改めまして僕はメイジ、初心者だけどよろしく」
「よろしく。それにしてもメイジってうちのクラスメートにもいるから親近感湧くんだよね。
これも何かの縁だしレベル上げ手伝おうか? 一応うち、それなりにやりこんでるし、援護系だから邪魔にはならないよ」
そう言ってスズハは機械の杖を握る。
さっき見えた鎌は実はこれである。
光の刃を展開させて、魔法の威力を上げるらしい。言うだけあってレアな武器だと一目でわかる。
強いプレイヤーと一緒ならよりレベルの高いモンスターとも戦える。
だから、
「ぜひお願いしますスズハ」
「はい、お願いされました」
こうして、僕は偶然であった高レベルプレイヤースズハとレベリングのために、少し難易度の上がった林へと向かうのだった。
ここまで読んで頂き感謝です。
まだまだ拙い文章ですが、上達出来るよう頑張りたいです。