011 初めてのチーム戦1
◇◇◇◇◇◇
今わかっている夢界の情報の一つ。
それは誰かと共有出来る空間であると言う事だ。
幽体離脱?でどこかの空間に魂が入り込む形になるらしい。
そして入った空間は何も無い。
描かれていない白いキャンパスなのだ。
だから空間の地形を作るために創造者が活躍する。
「「クリエイト」」
涼波と別の誰かの声が重なり、途端世界に色が栄える。
2人の想像する世界がぶつかり、そして勝負が決する。
塗り替えられた世界はまず夜明けの空を映し出した。
まだかすかに肌寒い感覚も日に当たる体が徐々に暖かくなるのもまたリアル。
次にビルの群集が出現した。
現れる太陽に呼応するように。
揺れる地面に食らいつきながらも僕は更なる光景に息をのむ。
それらが朝日を反射しながら遠くまで続き、数十秒の間に世界は都市を形成していたのだ。
「これがクリエイトなんだね。なんというか天地創造みたい。でもこれ涼波のじゃないよね」
「ああ、数的に不利だからせめて感情指数は温存ってな。ルールは大丈夫か無道?」
聞きながらも辰也は2本の剣を早々と引き抜く。
なんというか慣れている。
「まあ大丈夫、だと思う。で、試合の開始はいつだっけ?」
「言ったそばから尋ねるとは......試合はもう始まってる。早く所定の位置にー」
言葉の途中で辰也が連接剣を振るった。
生き物のような体に火花が散り、剣がはたき落としたのは1つの銃弾。
どこからか狙撃があったのだ。
「とりあえず建物の中に入るぞ」
「ああ、って危ねぇっ」
ビルに入るとようやく銃声が止み、辺りは静寂へと帰る。
ひとまずHPが減っていない事を確認する。
銃弾1つ当たるとどれくらいのダメージなのか気になるとこだが想像したくは無いので残りの雑念ごと排出。
聞こえる涼波の指令に耳を傾ける。
『聞こえる2人共? そっちに敵3人が接近中。爆弾でも置いてとっとと敵陣地向かって。方向は簡単なマップ作ったからそれ参照。頑張れ野郎ども!』
「なんというアバウトな。指揮官的なのならもうちょい詳しくやろうよ」
「気にするな、涼波はああだが、マップを見ればおおよそわかるだろ。俺は敵陣地に真っ向から走る。無道は涼波の指示でスナイパーを倒せば良い」
「まあ了解。そんじゃ任務開始って事で」
僕は建物の上に、辰也は建物の外へとそれぞれ向かう。
すぐに聞こえてくる銃撃音。
そこに混じる人の声。
辰也の引きつけが始まったらしい。
建物の破壊音が爆撃の如く鳴り響くのは敵をおびき寄せるためであり、性格の都合上とは考えたく無い。
無駄にうるさく鳴り響くそれを無視し、三階辺りまで駆け上がると下から知らない声が数名。
涼波によると、2人両名が近接武器だそうだ。
「とりあえずで手榴弾二個っと」
これまで剣、魔法のファンタジー路線を貫いてきた自分だが勝つためならそんな定理いらぬわ!
階段に投げ捨て、自分はとっとと屋上から別の建物に離脱。
すぐ後に起きる爆発音と共に先ほどまでいたビルが倒壊していった。
がらがらと崩れ落ちる建物だった物。
ビルの上を危なげに飛び越えながら手榴弾の威力に今更ながらびびってしまう。
「中にいた人ってもう死んでたりすんのかね。だとしたら手榴弾最強なんじゃね」
『そのかわりむちゃくちゃ高いけどね! ほら、二名ロスト。四個先のビルの上にスナイパー確認。あんた狙われてるわよ』
「なんで! この服ステルス性能あるんじゃ無かったの?」
『あんたがあれだけ大きな爆発起こしてくれたからね。あれで気づけないとかどこの馬鹿よッ!』
「ごめんなさい。だけど倒せば問題無いんでしょ」
『それは今から来るロケランを生き延びてから言ってよね」
あきれ気味に言う涼波。
ん、ロケラン??
それってなかなかにやばくないだろうか?
空にキラリと見えるのがそうだろうか?
方角は............うん、迷う事無くこっちに向かって来てやがる。
僕は建物に飛び乗るのを止め、後退した。
直後、僕が通過していたかもしれない場所をロケット弾が見事なまでに粉砕し、爆発が起こり粉塵と衝撃が辺りにまき散らしていった。
幸いにも外傷は無く済んだがあのまま別の建物に飛び移ろうとしていたら顔面ミンチになっていたかもしれない。
「つっぶねぇぇ。涼波の奴悪魔だ。後少し反応遅かったら......考えたく無い」
『ほら、早く前進! 行くのだよ暗殺者。敵の装填は普通よりも遅い。多分ロケランは素人。だから撃たれる前に敵を打てッ!』
「な、なんて我が儘なお姫様なんだうちのは。最初はカッコ良く出された指令に『イエス、マイマスター』言いたかったさ! 冷静沈着に敵を切り倒したいたいさ! でも指令本人の言葉が情けなくちゃ雰囲気出ないよッ!」
再びビルからビルへ飛び移りつつ、涼波に愚痴る。
司令官つったら冷酷非情に「二番、そちらに敵が言った。F07で対応しろ」くらいは欲しい。
せっかくリアルで出来ない事が可能な世界なのだからそれくらいやってみたい。
『あんたいつものクール野郎っぷりはどうしたのよ? 大声だしてみっともない』
「それはいくらなんでも理不尽だと思うよ! 誰だってロケランぶっ放されれば落ち着き無くなると思うんだけどッ!」
「大丈夫、それだけ元気があればなんくるないさ」
「それフォローのつもりなのかよ」
とはいえ喋りまくったおかげでだいぶ落ち着いてきた。
これが涼波の魔法ならば崇めたい。
いや、比喩だけどさ。
「とにかく忠誠を誓った涼波姫の威光の下敵を倒しまくってやるから後ろは頼んだよ」
「えっ遠まわしのプロポーズか何かなの? うち的にはもう少し経験積んでからが嬉しいかな。まあ戦闘中になに言ってるんだかってのが素直な感想なんだけど」
「おい、冗談ってわかってるなら前半の信じてるモード止めてくれ心臓に悪い。あー今ので冷静になった。じゃ、行ってくる」
心を落ち着かせるのは比較的簡単だ。
自分の中の殺し屋とかそういうのになりきればいいのだから。
ビルを跳ねる、兎のように。
構えられた銃口から体を逸らし銃弾をかわす、落ちる木葉みたく。
そして、剣を抜き武器のスキルである《形状変化》で短剣に。
音をたてること無くスナイパーと同じビルに着地、そこから三十歩の距離をわずか二歩で潰す。
出来る限りの最速でスナイパーの心臓を貫き、体にひねりを加えて引き抜く。
現実ではこれで終わりだがゲームではそうはいかない。
弱点ではあっても致命傷にはなりえない。
だから僕は体の回転を止めない。
短剣を大剣に、変化させた武器を遠心力に任せハンドガンを構える敵を斬り伏せた。
敵の苦悶の表情がわずかに見える。
いきなり剣の間合いが変わったのだから無理も無いけど。
「1人撃破。次の指令どうぞ涼波」
『おうけいいい調子だよ。辰也に張り付いてるのが1名、向かってくるのが1名、うちにが2名。残りはシンボルを守ってる。
無道は辰也の通り道を作って』
「おう。ってお前1人で大丈夫? 助けに行く?」
「司令官に口答えしない。2人くらい足止めは容易なんだから。ほら、行くのだよ勝利のために」
「了解。死ぬなよ涼波」
「あいよ」
女の子の返事じゃねえよなそれ。
しかしその元気さが不思議とこちらの指揮を上げる。
うん、魔法だな。
またもや屋上から屋上へと渡ると下で走る奴を見つける。
「あれだな」
柵を剣で切り裂き、長さ一メートル前後の武器にする。
これは【棍棒】に分類されるらしいが持ち前のスキルがあるので扱いには問題ない。
それをそのまま下に投げつける。
だけに止まらず僕自身がビルから飛び降りた。
無謀だが、最短。
【氷魔法】でビルに突起物のような足場が出来る。
それを何段階か設置することで落下の勢いを殺す。
ここまでの時間、相手は不意打ちで現れた鉄棒を弾いてる。
今ここで攻撃しても防げはしない。
そう判断したので現在落下中の僕はビルの壁を蹴り、その勢いで敵との距離を消した。
ウェポンリリースの光を剣に宿し、そのまま相手の首を切り取る。
これで残るは6名。
順調だ、と呑気に着地を決めた僕は敵の体からポトンと落ちる嫌な物を見る。
「えっ、」
それは黒く先ほど無道がビルを破壊するために使った物と似ている。
それが、ゴロゴロと。
ジャンプしたら盗んだお金が落ちてきましたとばかりに爆弾がわんさかと。
つまるとこ今僕が倒した敵は必ず1人を落とすよう自滅覚悟だったようだ。
それが向こうの司令官の指示かは分からない。
分かるのは1つ。
僕はまんまと罠に引っかかってしまったようだ。
「あ、やばっ」
武器を即座に大剣に変化させ、防御面積を広げるが果たしてそれで防げるのか?
必死に距離を稼ごうとする僕を無慈悲な爆風が包み込むのだった。
◇◇◇◇◇◇
夢界における大半のフィールドの戦闘はリアルタイムで中央区の空に映し出される。
いつにも増して中継を目にするプレイヤーが多いのは今回、とある一戦が注目されているからだ。
プレイヤー3人が10人と戦っている試合だ。
三倍さでありながらも善戦出来ているそれは見ていて面白いだろう。
ただしそれだけが理由では無い。
見ている何割かはチームかギルドの者。
3人チームの中に最近の噂の中心、《期待の10連勝ルーキー》がいるからだ。
その他者を寄せ付けぬ動きと剣戟、桁外れの量の感情指数。
それは未だ不動のトップ10の座を揺るがすほどと言われている。
そんな彼のチーム戦としての初陣。
気にならないわけが無い。
彼は言わば原石なのだ。
だから行く末を見る。
勧誘する人も応援する者も等しく。
そんな中1人の騎士は彼の戦い方を見ていた。
赤いマントに銀の鎧。
一目で名剣とわかるそれに今は見えない盾が武器の聖騎士とという呼び名がふさわしきプレイヤー。
兜で顔は見えないが立ち姿はまさに見本のようで騎士の真面目さを伺えさせる。
周りの者が騎士を羨望の眼差しで見るのは知名度の高さ故だ。
そんな騎士は上空に映し出される1人の少年を見て思い出したかのように呟く。
「僕も、頑張らないとな」
夜の都市フィールド、1人の少年がライフルを構える。
ただいま敵プレイヤーにヘッドショットを食らわせたばかりだった。
まだ十代後半に差し掛かっていないその姿では考えられないほど銃弾は冷酷無比にプレイヤーをまた1人とキルする。
その見事な射撃は夢界でも屈指の腕前を誇る。
が、少年が表だたないのは彼らがPKか雇われかでしか戦わない殺し屋と呼ばれる者たちだからだ。
そんな少年の耳にもある話題が風のように運ばれてくる。
《10連勝ルーキーの戦い》
3人ながら10人の相手に善戦していると。
少年は驚きこそしないが軽く舌打ちはする。
「彼らが失敗した場合の処理はこちらで。心配無い、与えられた任務は完遂する。イエス、マイマスター」
少年の瞳はただ闇夜に煌めく野獣のように、あるいは命令遵守の殺し屋のよう冷酷で獰猛だ。
そして、慣れた手つきで引き金に再び引くのだった。
ある黒を基調とした男は路地裏で、赤い瞳を空に向ける。
無道を巻き込む形で起きた爆発が大量の煙となり、瞬く間に画面を遮る。
それを見て男は瞳を下げる。
興味を無くしてしまったらしい。
男に残るのはただただ強烈な力。
それが流れ出ていた。
男の存在は多くのプレイヤーに知られている、がそれだけ。
男の情報は封鎖でもされているように一定のラインから先へは踏み込めない。
わかるのは男が夢界が一番強い事とその存在が謎、そして戦ったら必ず殺される。
死神と呼ばれる男はその肩書きと似合わぬ言葉で頭をかいた。
「だーまさかとは思うがあれくらいで死んで無いよな。死んでたらいろいろと残念なんだが。忘れていたとしても戦闘までは覚えてる。そう思ってたんだがな」
ぶつくさと言い、死神は再び上を見上げ不適に笑った。
「やっぱまだ動けんじゃん。安心したよアナザー。お前には役にたってもらわなきゃ困るからな。安心ついでにさて、こっちもそろそろ動いてやるか。第2の異世界は物騒だかんな」
第一位と呼ばれる死神は路地裏へと消える。
彼は画面の中で行われる戦いの行方にもう興味を起こすことも無かった。
◇◇◇◇◇◇
離れたビルからでもはっきりと見える無道を襲った爆発。
それは幾つものビルを飲み込み、余波が数十メートルの差を塗り潰すよう涼波の髪を撫でる。
涼波は現在迫ってきたプレイヤー二名をお得意の魔法で拘束していた。
が、その顔に安堵の文字は無い。
「無道が、死んだの......」
煙が邪魔をして涼波に把握をさせない。
そもそもあの爆発で生きていられる可能性があるとは思えない。
「あの爆弾の威力、普通のじゃ無い。改良型、それもバカでかい費用を食う奴じゃない。そんなお金どこに隠し持ってたのよ! あんなの1つでHPが消し飛ぶ代物なのにそれを何個もって............現実にも影響の残るくらいの激痛をおうじゃない」
夢界でHPバーが設けられているのは精神に多大な負荷をかけないよう上限としての役割があるからだ。
しかし一度にあの衝撃を受ければその上限の意味も少なくなる。
更に無道は夢界適性SS。
もし痛覚が強化されていた場合はただでは済まないだろう。
「うちがあいつのおかしさに気付いていれば。あんなに大量の爆弾を隠してたはずなのに」
涼波に突っかかってきた三年生はこう言ったはずだ。
無道を潰すと。
以前一度だけ大量の爆弾を食らった男の事件が噂として流れた。
なんでもその者は痛みによる恐怖から夢界を去り、現実でも怯えるようになってしまったと言う。
無道にもそんな事が起こり得る。
そして、三年生の男はこれを狙っていたのだ。
チーム戦初心者の無道なら爆弾を抱えた奴の不自然さが分からない。
だから罠にかかると。
わざわざ大金を叩いて、だ。
無道が二度も夢界に来たくなくなるように。
「ごめん、無道。うちのせいで......」
『......涼波聞こえる? 僕は無事だからさ』
ふと、死んだはずの無道の声が聞こえてくる。
「ああ、空耳が聞こえてるよ。そうだね無道のためにも勝たなくちゃね」
涼波は杖を握り直す。
倒された者の無念も晴らすために。
そう、決意する彼女だが世の中はそうドラマチックにはいかない。
『何勝手に殺してくれちゃってんの! 生きてるからッ! HP半減してるし、めっちゃ痛いけどまだ残ってるからね』
「へっ? えっ嘘、なんで??」
『爆風と同じくらいの勢いで流れに逆らわずとんだらなんとかなった。後は誰かさんのプレゼントのおかげ。それより速く次の指令を涼波』
まだ状況が掴めない、それが涼波の本音だ。
死んだと思ってた無道が生きていたから。
無事だとわかった今、涼波のやることは1つだ。
涼波は光の刃の栄えた杖で拘束していた二名のプレイヤーを切り倒すと仲間に宣言する。
「残りの敵はわずか三名。攻めるわようちの兵士共」
一週間に一回は必ず投稿してみせます。




