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夢界交差のハルシオン~未だ彼は見知らぬ少女を追い求める~  作者: 坂木 涼夜
第二章 チーム戦
10/13

009 考察

◇◇◇◇◇◇

 

 クリエイト・オブ・ハルシオン。

 夢界と呼ばれる場所が舞台の非公式のMMOだ。

 剣に魔法、更には銃にロボット。 

 数多のフィールドに膨大なスキル構成、プレイヤースキルなどによって唯一無二のアバターが作れる。

 主に対人戦でランキング形式。

 上位にいる物にとってはその数値が誇りとなっている。

 自分の手で勝利を掴み取れる快感は何ものにも代え難いと思わせるほどだ。

 

 僕自身プレイしてみて、自分が本当にここにいると錯覚するほど圧倒的なグラフィック、強敵との死闘の果ての勝利、カッコ良い剣の豊富さ、戦闘の爽快さ。

 その他多くの事柄が僕を掴んで離さない。

 そして、それは僕に限った事では無い。

 

 その人気は凄まじく、一般公開されていないにも関わらず、プレイヤー数は10万を越えていると言われる。

 皆、あの世界に魅力されるのだ。

 あの場所なら、もう一つの世界なら現実で出来ない事が出来るから。

 無料であの精度なのだ。

 どのようにしてゲームが提供出来るのかが気になる。

 何か裏があるのでは僕には思えてしまうのだ。

 それはきっと、あの手紙の事からだろう。

 手紙と言うよりはただの紙切れに書かれた文字であったが。


『僕はお前が探している少女を知っている。真実を知りたくば夢界を疑え、上を目指せ』

 

 第一位と書いたのだから夢界のランキング一位の事だろうか。

 夢界云々の前に第一位の事も気になってしまう。

 なぜ僕が少女を探していると知っているのか、そして僕に手を貸す理由はなにか。

 そもそもが怪しい。

 鍵のかかった密室である僕の部屋にそれが置かれていたのだ。

 

 怪しい。

 怪しい......が、特にこちらが損をする事は無い。

 僕はただ、ゲームで上を目指せば良い。

 それは辰也と涼波、2人と共に目指しているチーム戦のためにも必要だからだ。

 

 

 僕は銀髪の少女を探している。

 その背景や時折垣間見る光景も見知らぬ世界だ。

 そして、僕はそこで過ごしていたのでは無いかと考えてしまう。

 理由はいくつかある。

 

 戦闘の際、僕の体がこう動くべきと自分でも驚くほどの戦闘センスを見せた事。

 思い出したかのようにふと、再生する別の世界の光景。


 そして、何よりその光景を見たときに懐かしいと思い、夢界でそれに似た何かを感じたからだ。

 僕ってば実は前世が異世界の生まれなのかもしれないと思ってしまうが、それは無しにしよう。

 なぜなら有り得ない。

 異世界なんてあるわけが無い。

 

 だからこう考えるのが自然だ。

 僕は昔、無意識のうちに夢界をプレイしていて、そこで少女に出会ったのだと。

 その少女が今もプレイしているかわからないし、どこにいるのかも全くわからない。

 

 それでも僕は夢界で探し回ると誓うのだ。

 僕は一瞬だけ見えたその少女に3年前から一目惚れをしてしまったから。

 自称第一位の連絡を待つにしても僕は自分で探さなくてはいけない。

 ランキングやチーム戦で上位に入って、名を知らせ、探索の範囲を広げる。

 そうすれば知っている人が現れるかもしれない。

 どうせ夢と同じく現実より遥かに長く夢界にいられる。

 疲れはかなり残るだろうが、構わない。


 勝って勝って名を轟かせる。

 強くなって高ランクモンスターのいるフィールドにも赴いてみせる。

 夢界が何かの陰謀を抱えていようと第一位がなんだろうと僕は少女を見つけだす。


 そのためには僕の知識は圧倒的に不足している。

 そのためにチームを組んだ辰也と涼波。

 2人からはまず、遊んで慣れろと言われている。

 だから僕は戦い続けるのだ。


 

 夢界の本来の戦いとして、ランキングを上げるためのランダムマッチが主流だ。

 そして、フィールドはシステムに任せても良いが、プレイヤーのイメージで舞台その物を上書きしても良い。

 勝利しやすくするためにフィールドを生成してもいいが感情指数を使ってしまうため判断に迷う。

 そのためチーム戦では、アタッカー、ヒーラーと同じくフィールドを精製する者、《クリエイター》の存在がが鍵になる。

 

 

 そして、現在のフィールドは文房具の部屋だった。

 大きい物はそれこそビル、小さい物は手に収まるくらい。

 そびえ立つのりが搭のように、無造作に散らばった色鉛筆たちはそれだけで壁となる。

 僕は壁に隠れながら迫るバリスタの猛攻を耐え忍ぶ。

 

「どうした、俺様のバリスタに恐れをなしたかっ!」


 相手はずらりと構えた何十もの巨大バリスタを設置。

 砲台に点火するようにそれを一斉に発射する。

 飛んでくるのはバリスタ。

 それは細く黒い。

 文房具でそれを連想させるとなると、あれしかない。


 そう、

 それはシャーペンのシンなのだ。

 それが弾丸に勝る速度で飛んで来るため、もはやバリスタとしか言えない状況となっている。

 細い矢が立て続けに壁を貫き、僕は必死に頭を伏せる。

 

「つーか、しゃーしんの弾丸ってなんだよ。夢にもほどがあんだろ。自由にも限度を設けろってッ! ランキングバトルとかこんなんばっかなのか??」


 これがフィールドを創造した側のメリット。

 この文房具フィールドは文房具自体が武器となる。

 本来なら巨大な武器など筋力的に操れはしないが、相手は遠隔操作のスキルでシャーペンのバリスタを使っている。

 鬼に金棒。

 何度も降り注ぐ様は矢では無くもはや光線。

 しかし、弾道が真っ直ぐなのは変わらない。


 僕は壁を捨て、敵プレイヤーへと走る。

 一度弾道を避けてしまえば後は当たらない。

 瞬く間にバリスタを飛び越え、ザッがり勉少年に斜め切りをお見舞いする。

 が、

 なんと、マーカーという名の槍でそれを防ぐ。


「甘い。甘いぜ10連勝ルーキー。いくらお前が期待の星でも真の夢界バトルは初めてだろい」


 技術もさることながらやはりフィールドを熟知している。

 相手の武器自体の耐久度は低いが、数でそれを補う。

 というか、


「期待の星?」


「知らないのか10連勝ルーキー。お前の実力だからどこのギルドやチームも欲しがってるってことだよ。トップ10の奴らに風穴を空ける新生現るかって話題で持ちきりだぜ? まあ俺様も欲しいがそれとこれとは別だ。こうして、戦っている以上は真剣勝負だぜい」


 そして、


「喰らえ! 超必殺、インクの垂れ流し(魔光線)ッ!!」


「うわっ、勿体ないし、ダサい」


「黙らっしゃい! 蛍光色のインクを光に見立てる俺様の想像力を舐めるなッッ!」


「......なんというか、本当にいろいろ凄い世界だ」

 

 と、僕はランキングバトルの初戦で、のりで持ってみた定規(大剣)で迎え撃ちながら何かを悟るのだった。

 

 ランキングを上げるためには勝つ事が必須だ。

 ランキングに勝てばポイントがもらえ、負ければ減る。

 格上なら勝てた分多くもらえるの。

 ランキングを上げれば報酬としてリアルマネーだろうが貰えるらしい。

 なるほど、人気なわけだ。


 着実に実力と知名度は上がっている。

 その後、何度も勝利を重ね、夢界での戦いもソロならば慣れてきている。

 見知らぬフィールドではまず、地形を確認してから戦うようにしているからだ。

 少女への道に近づけているのかは不明だが、レベルアップはしている。

 

 とにかく、今僕に出来るのは明日のチーム練習に備えて技術を磨く事であった。

 

 


◇◇◇◇◇◇

 

「と、順調に勝ち進んでおります。ランキングはやっと四桁。三桁とか道のり長すぎ、怠すぎる」


「まあそう言うものよ。あんたは疲れすぎだと思うけど」


 ぐてーと机に突っ伏す無道に呆れる涼波。

 夢界での彼はもっとアグレッシブだった気がする。

 まあ、これが無道なのだと涼波は椅子2つを近くへと持ってくる。

 今はあまり使われていないとはいえここは数ある生徒会室の一つ。

 無関係な無道がこの場にいるのは生徒会長の威光によるものなのだが、本当に密談するためだけに使って良いのだろうか。

 

 そんな涼波の疑問をバタンッと扉を開いた辰也の堂々さが打ち消してしまった。


「よし、今回はトップ10、《絶対域》と呼ばれるプレイヤーの情報のおさらいだ」


「えぇ............寝かせて」


 意識を夢に落としそうになる無道の頭部は涼波のノートによって盛大な音を出す。


「寝ないッ! 無道にとっても重要よ。特にこれからを戦うならね」


「眠し。本人の自由を尊重してほしいんだが。ここはブラック企業か何かなのかよ」


「寝ないッ!」


 とまあ最終的に無道は頬を引っ張られたまま辰也の説明を聞くことになる。

 

「まずは最近の目撃情報とチーム戦などを含めて要注意人物の数名を説明するぞ」


 ちなみに全員分説明出来ないのは誰かさんのせいである。

 その誰かさんは頬に走る痛みからか、もう口答えはしていない。

 そのまま辰也は話し始める。


・現在チーム戦、それも襲撃でしか参戦しないスナイパーの10位。

・最強の盾を持つ8位と同じチームで破壊力ならトップの6位。

・一番まともで、卓越した剣技と光魔法、プレイヤースキルで戦う《聖騎士》の5位。

・ユニークスキルだけなら最強の2位。

・全てに置いて規格外の《死神》こと1位。

 

 1位以外はどいつも有名なチームに入ってる。が、その1位も最近は目撃情報が多くなってきているため危険視だ。

 目にするなら覚えてといた方が良いぞ」


「1位も気になるけどそのまともって? それだと他の奴ら皆が異常に聞こえるんだけど」


「良いところに気づいた無道。トップ10は《絶対域》と呼ばれるほど順位の入れ替わりが無い。それはプレイヤースキル、夢界適性が高い事もそうだが、何よりユニークスキルの存在だ!」


 教師の如く黒板を叩く辰也。

 ここは乗るべきかなぁと無道は生徒役となって挙手をする。


「ユニークスキルって確か特別な条件でしか獲得出来ない的な奴だよね。1人にしか発現しないならともかく、皆が獲得出来るなら順位が変わらないような事はおきないはず。だとすると、条件が厳しすぎるとか?」


「そうだ。2位のはさっぱりだし、1位のは膨大なステータスポイントを使わなければ真価を発揮しないなど問題はいろいろ。その上ユニークスキルは扱いが難しいんだ。ちょうど俺の連接機のようにな。と、同時にめちゃくちゃな性能を誇る効果がある」


「それで異常か。なら5位はユニークスキル持ってないのか? プレイヤースキルで押し切ってるなんて言ったら相当凄いぞ」


 無道の言葉に辰也教師はニヤリと笑う。

 待ってましたと言わんばかりの表情だ。


「5位の武器は状態異常を斬る剣と夢界屈指の耐久度を誇る盾。凄いのはユニークスキルらしき物を使わず、剣技と光魔法だけで勝ち進んでいる事だ。なにせステータス的には他の二桁と変わらず、苦戦もしばしばだが最後はヒーローの如く勝つんだ。だから他のプレイヤーからの支持は凄い。そのくせいっつも仮面で素顔はわからないと格好良すぎるんだよ、全く。それから......以下略」


 長々と饒舌っぷりを遺憾なく発揮する辰也。

 バーサーカーの由来がいろいろと残念な気もするが、辰也は止まらない。

 うんざりするほど言葉が彼の口から溢れ出る。

 

「あ、うん。辰也もその人のファンだと言う事がわかったよ。(......長い。涼波、何とかならないの?)」


「(......今日は逃げよっか。そろそろ授業の準備始めないといけないし。こうなった辰也はめんどくさいし)」


「(......ラジャ)」


 辰也を残しそそくさと教室へと向かう2人。


 と、そこで嫌な光景を見てしまう。

 かつ上げだ。

 がたいの良い生徒がふた周りも小さく小太りした男子生徒を脅している。

 そして、脅している方は本人こそ覚えてはいないが無道をリンチしようとした奴。

 もう片方のいじめられている男子生徒は、数日前に自殺しようとした少年であった。


 無道は少女を探すために現実では平穏を望む。

 が、こちらも無道に退屈をさせる気はないらしい。

 


 

どうも。ここまで読んでくれてありがとう。

今回からチーム戦に入って行きます。

不定期更新になります。



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