終章 二十年後
桜花は二十年前にドイツに渡って以来、一度も日本に帰国していません。
二十年ぶりに日本に帰国して、最初に訪れるのはおばあちゃんと暮らした家だと決めていた。
結局不動産は売ってしまったので、今は誰が住んでいるのか、そもそも家はまだあるのかもわからなかった。村に入ると今でも田舎で、景色はあまり変わっていなかった。嬉しい事におばあちゃんの家もまだあった。庭にウッドデッキやブランコがあって、自転車が何台も見えたので、若い家族が田舎生活を楽しんでいるように思えた。築約二百年の古民家は現役で頑張っていた。嬉しかった。畑もまだ畑として機能していた。畝の作り方や植えられた野菜は、やっぱりおばあちゃんがやってたのとは違って、ちょっとよそよそしい気がしたが、土は変わらずそのままでほっとした。ここが私の故郷なんだな、と思った。
次に訪れたのはH動物霊園だった。正確に言えば、H動物霊園だった場所。ロープが張られた入口からは事務所、火葬場、納骨堂の屋根らしいものがかろうじて見えたけれども、敷地のほとんどが山の雑木林の中に埋もれてしまっていた。地面もアスファルトの駐車場や通路さえ見えず、泥や岩で厚く覆われさらにその上につる性の植物がはびこって、歩いて立ち入ることさえできなくなっていた。いったい何年間放置されて、この暴力的な植物の侵略を許してしまったのだろう。よくよく目を凝らしてみると、敷地奥の山の斜面の形が変わっていた。私の想像で順番はわからないが、動物霊園の倒産と大雨による大規模な土砂崩れが起こり、そのままもう何年も手つかずのままずっと放置されているようだ。この地で永遠の安息を約束されたあの動物たちのお骨や魂は救い出されたのだろうか。わからない。あの子たちはすでに山の一部となっている、と思うより他ない。私は手を合わせて頭を垂れた。
私は十代のころに読んだ『虹の橋』の詩を思い出した。ペット達はきっとここではなくて虹の橋のたもとの緑の楽園で楽しく暮らしている。飼い主がそこを訪れた時、きっとペットの瞳はきらきら輝き、喜びを全身で表しながら走って駆け寄るだろう。お互いが再会の喜びに浸った後は、一緒に虹の橋を渡っていくだろう。
完
桜花とクラウスは結婚したの?
クラウスの病気は治ったの?
二人はどんな仕事をしたの?
子供は生まれたの?
今でも愛し合ってるの?
クラウス生きてるの?
いろんな疑問がわくかもしれませんが、ここで終わらせていただきます。
長い物語をお読みいただきまして、本当にありがとうございました。
投稿させていただいて、とても楽しい経験をいたしました。
感謝します。




