出会い
傷つくこともあるけど、きっと回復できるはず。
そんな気持ちのこもったお話です。
坂道の通路の落ち葉を掃く手を止めて、空を見上げた。白っぽい煙がまっすぐに登っている。
あれはサンソなのかな、スイソなのかな、と私は少し考えた。そしてすぐにいつものように思う。
「わからない」
私は勉強が得意ではない。昔も、今も。
世の中には私にはわからないことが多すぎる。考えても考える前と何も変わらない私がいる。そして私は考えることをすぐあきらめる。
あの煙は大事にしなくちゃいけない気がする。でも煙を大事にするってどういうことだろう。ずっと見てるってことかな。でも私が見ていなくても煙は登っていく。
私はまた下を向いて、落ち葉を掃き続ける。掃除なら、私にも、できる。山の斜面にあるこの敷地にはいろんな種類の樹木が多く植えられているし、風に吹かれて山から落ち葉が次から次から舞い落ちる。私は何も考えずに広い敷地内を掃き続けることができる。掃除には終わりがない。そこがいい。
山の雑木林から突然大きなものが動く音がした。
私はこれまで、この敷地内に野生のキジやタヌキがうろついているのを見たことがある。でも、その音はもっとずっと大きなものが移動している音だった。地面の枯れ木を踏み折り、雑木の枝をたわませ、小枝を折りながら動いていた。
私の数メートル先に勢いよく飛び出したそれは、人だった。マウンテンバイクに乗って自転車用ヘルメットをかぶった若い男の人。金髪の外国人。私は固まった。
「こんにちは」と彼はきれいな日本語で話しかけてきた。
「こ、こんにちはああ」と私は間抜けな日本語で返した。私は人と会話するのが得意ではない。突発的な出来事に対応する能力も低い。
竹ぼうきを握りしめたまま、彼を凝視していたと思う。
「ここはどこですか?」微笑みながら彼が尋ねた。
「H動物霊園です」びくっとして幼稚園児のように答える私。
「H市の、動物の、何ですか?」彼はゆっくり質問した。
「霊園。お墓です。お参りするところ」言いながら私は両手を合わせ頭を下げるジェスチャーをした。
彼はにっこりわらった。それを見て私もやっと笑顔を作れた。
これが私と彼との、クラウスとの出会い。
お読みいただきありがとうございました。