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第八話

 私の幻覚の場合、必ず首筋にひんやりとした感覚を味わう。


 ではそれを感じた際必ず異なるものを目撃するかと言えばさにあらず、それなりに見逃し三振もあったりする。


 夜道を一人で歩いていると、ひんやり。当方とすれば、ああ、きやがるなと身構えるのだが、一向に何もこない。そんな折、たまたま道の向こうからお婆さんが歩いてきて、こんな時間に夜道を徘徊している老婆などまごうことなくそれであろうと睨んでいたら、おあいにく様、ただのお婆さんでしたという。


 私が余程ひどい睨みをきかせていたのだろう。擦れ違う時、お婆さんは私と目が合うと、ぎょっと目を丸くして足早に逃げていった。


 あの時のお婆さん、本当にごめんなさい。


 異なるものや音を体験した後で遅れてひんやりする事もある。廃屋で女を目撃した時もこのパターンだった。こちらの場合は身構える隙がない分、心臓に悪い。


 投球でいえば緩急をつけるようなものだ。いかに速い球でもそればかりであれば目も慣れ、対応が利く。チェンジアップを投じる事で次のストレートが威力を増す。連中は私を怖がらせるのが仕事なので、いかにすれば私のバットから逃れられるか、色々考えているのだ。




 翌日の放課後、木名瀬に呼び出され久慈と二人、彼女の家に行った。何の用かと思ったら数年前にあの廃屋が話題になった際の番組を収めたDVDの視聴会だった。


 「一人で観るより皆で観た方が気付く事も多いっすからね!」


 と言っていたが多分一人で観るのが怖かったんだろうと思う。案の定、視聴が始まると久慈に引っ付いて離れなかった。


 内容はテレビのありふれたホラー特集である。内容はそれなりに忘れてしまっていたが、私自身も当時視聴した記憶がある。付近住民の例の廃屋での幽霊の目撃談から。プライバシーを配慮して首から下だけを映し、音声を変えた女性の証言

が流れた時、


 「あれ、裏のコンビニのおばさんじゃないかって噂ね」


 わりとどうでもいい情報が久慈から飛んできた。


 三人の人物に取材していたが、確認された霊の姿は、皆一貫して、白いワンピースの髪の長い女。


 私の幻覚の内容と一致している。


 更にあの家が廃屋となったルーツに関して、当時を知るらしいご年配の女性の証言のシーンがあった。


 「うんと昔の話ですがねえ。あの家には三人の家族が住んでいたんですよ。ご夫婦と、娘さんが一人。ええ、旦那さんと娘さんが行方不明になってしまって。奥さん心の病気になってしまって。娘さんの好きだった人形を娘さんだと思い込んでしまうようになったそうで。公園に遊びに連れて行ったり、ご飯を食べさせようとしたり。ええ、周りも心配してたんですがねえ」


 次にテレビ局がタレントと霊能者を連れて例の廃屋を訪れた。


 廃屋の様子は当時から私達が訪れたついこの間までと、あまり変化ないように感じられた。二階の一部屋に入った時、タレントが悲鳴をあげた。そこには女の子の姿をした人形が転がっていた。ナレーションが、これが幽霊が我が子と思い込み可愛がっていたという人形だろうか、と言った。


 どこにでもあるような日本人形だ。これは、私が夢でみた人形とは見た目が異なっている。私が夢でみた奴はもっとグロテスクなほど人間に近い顔立ちだった。


 不意に霊能者が寒気を訴え、調査は打ち切られた。霊能者はのちにずっと髪の長い女性に睨まれていたと証言した。


 視聴を終え、私達はそれぞれお互いを見た。おそらく各々に思うところはあったのだろう。


 「……山下くんが壊しちゃったのって、あの人形なんすかね」


 「どうかな」


 私は言った。


 「木名瀬、山下と一緒に胆試しをしたっていう生徒について調べてるか」


 「C組の米田くんと佐川さん、D組の前田さんと三樹さん。この4人っす」


 「話は聞いたか」


 「全員、山下くんが倒れた事について心配してたっすし、怖がってたっす。でも今のところ他の4人の身の回りには何の変化もないようっすね」


 「山下が壊した人形については」


 「壊した事は間違いないようっす。腕をもいじゃったとか。テレビに出てきた人形かとか、そのあとどうしたとかは、知らないっす」


 「……」


 廃屋で床が抜けた時に触れた人形の腕については、この二人には内緒にしておこうと思った。話しても怖がらせるだけだろう。


 「どうしたの結実」


 と、久慈。見ると木名瀬の顔色が優れなかった。血の気がひき、微かに震えており、黙って部屋の一点を見詰めている。


 私はその視線の先を追った。


 暗くなったテレビのモニターに私達の顔が映し出されている。しかし取り分け異様なところはなかった。


 「羽々ちゃん……」


 木名瀬が震える声で口を開いた。


 「……トイレ一緒に行って下さいっす」


 私と久慈は顔を見合わせた。


 「一人でいきなさい」


 「嫌っすよ怖いっす!見捨てないで下さいっす!」


 久慈は溜め息をつき、木名瀬の手を引いて部屋を出ていった。

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