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第八話『タナトス』

「――死にたい…………」

 学校の屋上で、もう人生で何度目になるかも判らない独り言を呟く。

 四月十六日。

休日明けの月曜日。

今日もカナコは教室には行かず、一人で黄昏(たそがれ)ていた。

昨日のミズキとのショッピングの別れ(ぎわ)の会話を思い出す。


『明日は学校、来る?』

 思いついたようにミズキは話を切り出した。

『……行かないわ。行きたくないもの』

 そんなカナコの答えを予想はしていたのだろう、ミズキは落胆した様子はない。

『じゃあさ、授業には出なくていいから、屋上で一緒にご飯食べよう?』

『どうして? 放課後に〈タカマガハラ〉で逢えるじゃない』

『あたしは学校でカナコと逢いたいの! だから――ね?』

 ミズキが上目遣いでお願いしてくる。小動物を思わせる彼女の瞳に見つめられると、嫌とは言いがたい。

 悩んだ末、仕方なくカナコは折れる事にした。

『……判ったわよ』

『本当に!? ありがとう、カナコ! じゃあ、明日ね!』


 回想を終え、カナコはフェンスにもたれかかってグラウンドを何気なく見下ろした。

 校門が見える。朝、ミズキはそこでカナコを待っていた。カナコの姿を見つけると、嬉しそうに駆け寄ってきた。

おはよう、と言葉を交わし、教室の前で別れた。

 ミズキはカナコを引き止めなかった。それが彼女の優しさなのだと気付いた。

 またあとでね、と言い、教室の中に消えるミズキの姿に寂しさを感じた。

 教室と廊下を隔てる扉の向こう側にミズキが消えてしまう……。

 しかし、彼女を追って教室に入る気にはなれなかった。

 そこは自分の居場所ではないから。

それから、続々と登校してくる生徒達の視線を避けるように屋上に上がり、悶々とした気持ちで今に至る。

今頃、ミズキは授業中だろう。教室では誰と、どんな言葉を交わして、どう過ごしているのだろう。

知らない誰かと、ミズキが楽しそうにしている光景をイメージして、カナコは嫌な気分になった。

これは嫉妬(しっと)だ。

そんな自分が、たまらなく(みにく)い生き物に思えた。

「…………ミズキ――」

 思わず呟いてしまう。だが、構わない。屋上にいるのはカナコだけだ。

 そのはずなのに――

「――呼んだ?」

 声が聴こえた。今、一番聴きたい人の声。

幻聴だろうかと振り返ってみると――いた。

 ミズキだ。

「……どうして?」

「え? だって、もうお昼休みだよ」

 気が付かなかった。いつの間にか午前中の授業終了の鐘は鳴っていたようだ。

 途端(とたん)に恥ずかしくなった。独り言のつもりで名前を呼んだのに、その当人に聴かれてしまった。

「カ~ナ~コ、そんなにあたしに逢いたかったの?」

「う……」

 違う、とは言えなかった。ずっとミズキの事を考えていたのは事実だ。

 だから――

「…………うん」

 と、素直に口にした。

「そっか。ごめんね、一人にして。さ、ご飯にしよう?」

 ミズキはそう言うと手にしていた包みを開き、弁当箱を取り出した。これ以上、言及するつもりはないらしい。それがカナコにはありがたかった。


          †  †  †


 名前を呼ばれた。呼んでくれた。

それが、たまらなくミズキは嬉しかった。

ベンチに座って、祖母が作ってくれたお弁当を食べながら、にやけてしまうのが止められない。

 ふと、隣にい座るカナコを見ると、黙々と食事をしている。彼女は食べながら話すタイプではないのだ。

 静々と、器用に(はし)を使ってお弁当を口に運ぶカナコの姿には、ある種の美しさがあった。

 思わず見入ってしまっていると、カナコと目が合った。

「……なに? ぼーっとして」

「あ、ちょっと見惚れてただけ。綺麗だなって」

 あはは、と笑ってごまかす。

「そう」

 この手のやり取りにも、もう慣れてしまったのだろう。カナコの反応は薄い。

 お弁当の残りを平らげ、ミズキはお茶で(のど)を潤す。

「ごちそうさまでした」

 そう言うと、ミズキは弁当箱を包みに戻し、軽く伸びをした。

 もう四月も半ばだ。日差しが温かく、過ごしやすい気候になってきた。

「う~ん……このまま昼寝したい気分だね」

 すでに食後の片付けを終えていたカナコに同意を求める。

「そうすれば?」

 そっけなく言うカナコ。いつの間に片付けたのか、彼女の弁当箱はすでにない。

 なのでミズキは、カナコの空いた(ひざ)の上に頭を乗せて寝転がった。いわゆる『膝枕』状態だ。

「ミ、ミズキ……?」

「えへへ。柔らか~い」

 さすがのカナコも、これには驚いたのだろう。(ほお)がわずかに朱に染まっている。そんな彼女の様子が可愛くて、普段とのギャップがおかしくて、ミズキは笑った。

「……重いわ」

「ひどいにゃ~」

 カナコからのクレームも気にせず、ミズキは猫なで声で応じる。すると、観念したのか、カナコはそっとミズキの髪に触れてきた。少し癖のある、ふわふわのショートヘア。それを優しくなでてくれる。

 しばしの沈黙が降りる。息苦しいものではなく、心地の良い静寂。

 時間が停止した世界で、二人だけが取り残されたような錯覚を覚える。

 二人だけの、他に誰もいない世界。

そこは――楽園だ。

「――このまま、ずっとこうしてたいね」

 カナコの膝に後頭部を載せ、彼女の顔を見上げる。

「……そうね。でも――」

 こちらを見下ろすカナコの表情は、何故か(はかな)い。

「でも――ずっとこのままではいられない。永遠なんてないから」

 カナコの目は、ミズキの目を通して、どこか遠くを見ている気がする。

「…………」

「……ごめんなさい。私、こんな事が言いたい訳じゃないのに」

 そういって視線を逸らすカナコ。

 その表情は悲しみに暮れていて、行く当てのない迷子のようだった。

 そんな顔をしないでほしい。

「そうだね。永遠なんてないかもしれない。いつかは変わってしまう。でも、それって悪い事ばかりじゃないと思うんだ」

 笑っていてほしい。

「良い事だってたくさんあるよ。良い方に変えていこう?」

 あたしがいるから。

「一緒に変わっていこう? 二人でなら、きっと大丈夫」

 隣にいるから。

 ずっと近くにいるから。

 だから――

「楽しい事を見つけていこう?」


          †  †  †


 やがて昼休みの終了の鐘が鳴り、ミズキは屋上を去っていった。まだ彼女の体温が膝の上に残っている気がする。

「…………」

 ミズキの言葉が、何度も繰り返される。凍りついた心を、優しく溶かしてくれる。

 カナコは心地良い気持ちで満たされていた。

 永遠なんてない。すべて変わっていく。

 それでも――

「ミズキとなら……」


(――変わっていける?)


「!?」

 声が聴こえた。心に直接呼びかけてくるような声だ。

「…………」

 周囲には誰もいない。しかし。

(――ねえ、教えて?)

 声が聴こえる。

(――あなたの心のすべてを)

 こえがきこえる。

(――あなたの気持ちのすべてを)

 こえが……。


          †  †  †


「カナコの居場所を見失ったそうね?」

〈タカマガハラ〉の発令所に入るなり、鳴海カヤはオペレーターの一人に(たず)ねた。その口調に焦りはない。

「はい。一四(ヒトヨン)〇〇(マルマル)時ちょうどに、彼女の携帯電話の発信機からの電波が途切れました」

「カナコの警護(ガード)についてる特務部からの報告は?」

「それが、『消えた』としか……」

 戸惑うオペレーターに「そう」と返し、カヤは巫女服を捜す――いた。長い白髪と赤い瞳の娘だ。常と変わらぬ緊張感のない雰囲気で、ぼんやりと正面モニターを眺めている。

飯綱(いづな)メイ。

 一応の肩書きは情報分析官である。彼女にはタタリガミの出現を感知出来るという特性がある。

「メイ?」

「アラミタマ反応があったよ。場所はカナコのいた学校の屋上。今は消えてるけどね」

「どういう事?」

「時が来た――って事かな」

 ちょうど六十六体目だし、とメイは意味深に言った。

「『接触(せっしょく)型』――『神隠し』の類かもね」

「……カナコはどうなったの?」

「おそらく、現実とは位相の異なる場所にいるだろうね。帰ってこられるかは彼女次第だ」


          †  †  †


 カナコがいなくなった。

 放課後、屋上に行った時には、すでに彼女の姿はなく、携帯電話にも出ない。

 胸騒ぎのようなものを感じ、〈タカマガハラ〉本部に行き、カヤに状況を訊ねた。

「『神隠し』――ですか?」

 カヤに代わって説明をしてくれたのはメイという女性だった。年齢は二十代前半くらいだろう。長い白髪と赤い瞳が印象的だ。

「そう。まあ、ものの例えだけどね」

 緊張感のないメイの雰囲気に当てられたのか、ミズキは非常事態にもかかわらず、取り乱さずに済んだ。

 冷静に、今、何をすべきなのか考える――が、何も思い浮かばない。

「カナコ……」

 思わず携帯電話を握りしめる。電波が届かなくても、せめて、想いだけでも届けとばかりに。

 すると、

「そのストラップ、オニキスだね」

 と、メイがミズキの携帯電話に付けられたストラップの天然石を見て言った。

「もしかして、それと同じものをカナコも持っていたりする?」

「え……あ、はい。おそろいで買ったものですけど」

 メイの問いに、ミズキは焦る自分を押さえつけながら答えた。

「なるほどね。わずかだけど、そのオニキスからカナコの気が感じられる」

「どういう事?」

 沈黙を守っていたカヤが訊ねた。

「どういった理由からかは判らないけど、カナコの持っているオニキスと、ミズキのそれが空間を越えて『繋がってる』んだよ」

「つまり……どういう事なんでしょうか?」

 メイの言わんとする事が判らず、首を傾げるミズキ。しかし、カヤの方は理解出来たらしい。少しだけ考える素振りを見せて言う。

「つまり、及川さんのオニキスをたどれば、カナコの居場所が判るって事よ。けど……」

「そう。居場所が判っても、そこに行く(すべ)がない訳だ。現実とは位相の異なる世界――異相世界とでも言おうか。そこに行く方法がない」

 悲壮感のかけらもないメイの言葉で、発令所が沈黙に包まれた。


          †  †  †


黒い――見渡す限りに黒い世界。

 何もない。広いのか狭いのかすら判らない、曖昧な空間。

そこにカナコはいた。

地に足が着いていない。水中に浮かぶようにぼんやりと、彼女の身体は(ただよ)っていた。

だが、意識ははっきりしている。記憶も同じくだ。

突然の『声』――そして、気付けばこの不可思議な世界にいた。

 恐らくはタタリガミの仕業だ。今までにないケースだが、新手の攻撃手段だろうか。

「――――」

 見られている――カナコはそう感じた。

 すると――

『初めまして、機神の操主(そうしゅ)

 声が聴こえた。あの声だ。

 不思議と聴き覚えのある優しい声。

 声の主を探すが、こちらからは何も見えない。ただ黒い空間が見えるだけだ。

『なるほど、姿が見えねば話しにくいか。そういう事であれば――』

 次の瞬間、カナコの目の前に現れたのは、彼女がよく知る少女だった。

「……ミズキ?」

 幻覚だろうか。今、一番逢いたい。側にいて欲しいと願った相手がそこにいた。

「そうだよ――カナコ」

 そう言って、ミズキの顔をした何かは、にんまりと微笑んだ。


          †  †  †


 重たい沈黙が横たわる〈タカマガハラ〉の発令所。

 そこに格納庫からの呼び出しがあると、オペレーターの一人がカヤに伝えた。

「こちらに回して」

 通話機を耳に当て、「発令所の鳴海です」と答えるカヤ。

 通話の相手は整備主任の野口だ。カナコからはセクハラ親父だと言われているが、なぜかカヤは被害に遭った事はない。

「どうしました? 騒がしいようですが――」

『どうしたもこうしたもない! 〈スサノオ〉が勝手に起動を始めやがった!』

「なんですって!?」


          †  †  †


「――不愉快だわ」

 異相世界――そこは何もない。ただ、ひたすら黒い空間。

 そこに現れた『ミズキの姿をした何か』に対して、カナコはひどく苛立った口調で言った。

「不愉快? 何が?」

『ミズキの姿をした何か』が、不思議そうに小首を傾げる。それが余計にカナコの神経を逆撫(さかな)でする。

「ミズキはそんな風には笑わない」

 カナコの言葉を受け、『ミズキの姿をした何か』が、浮かべていた笑みを消す。

「……そうか。『君の中の彼女』を忠実に再現したつもりだったのだが、気に障ったのなら謝ろう」

「悪いと思っているなら、その顔で、その声で、そんな話し方をしないで――不愉快よ」

「了解した――と言いたいが、君と話をするのに適した姿をワタシは持たない。故に、この姿を使わせてもらう無礼を許してほしい」

 口調を改め――しかし声はミズキのまま――『ミズキの姿をした何か』が言った。

「……あなた、何なの?」

「君達がタタリガミと呼ぶものだ。個体識別名称は〈テング〉という。そう呼ぶといい」

〈テング〉とは天狗の事だろうか。なるほど、神隠しをするにはお馴染みの存在だ。

「それで、私に何の用?」

「ワタシは君を知りたい」

「…………」

「君はこれまでに、六十五体の同胞を倒してきた。何故だ? 君には、世界を護りたいなどという想いも使命感もない――いや、なかったと言うべきか」

「何が言いたいの?」

「君は世界を嫌悪していた。生きる事に絶望していた。その想いが道標(みちしるべ)となり、ワタシ達を呼び寄せていた」

「え……?」

「ふむ、気付いていなかったか。ワタシ達を君の世界に導いていたのは――君なのだよ」

「……どういう事?」

「言った通りだ。君達がタタリガミと呼ぶ存在は、君の負の感情がある一定の量を超えた時に開かれる『門』を通って顕現(けんげん)するのだよ」

『ミズキの姿をした何か』――〈テング〉と名乗ったそれが語る事が事実だとすれば……。

「私が……タタリガミを呼んでいた――?」

「そうだ。君の、世界を壊してしまいたいという想いがね。しかし、君達の世界に顕現した同胞を、君は機神の力を使って滅してきた」

『機神』というのは〈スサノオ〉の事だろう。

タタリガミを滅するべく与えられた神の力。

しかし、〈テング〉の言葉が事実であれば、カナコのやっている事は何だ?

世界の守護者――〈スサノオ〉。

災厄を呼ぶもの――タタリガミ。

倒すものと倒されるもの。

その図式はカナコの独り相撲(ずもう)もいいところだ。

「世界が消えてしまえばいい。そう願ってワタシ達を呼んだのは君だ。なのに、なぜ君は機神の力を使い、ワタシ達を滅する? 理解不能だ」

「…………そんな――」

 頭が真っ白になる。

世界を護るために戦ってきたつもりだった。それが、わずかに残ったカナコの存在意義だった。

しかし、やっていた事は自分の尻拭いだった。

 愕然とした。

 今まで心の拠り所としていたものが、足元から崩れ落ちていく。


          †  †  †


〈タカマガハラ〉の格納庫。起動を終えた〈スサノオ〉のコクピットに、ミズキは座っていた。

制服姿のまま、手にはオニキスのストラップの付いた携帯電話を握っている。

「カナコの奴が言うには、〈スサノオ〉は操縦する必要はないそうだ。『動け』と念じれば、〈スサノオ〉はそれに応える」

 整備主任の野口はそうミズキに語った。

「判りました。及川ミズキ――〈スサノオ〉、行きます!」

「……あのなあ、ミズキちゃん」

「こんな時に不謹慎ですよね。でも、一度言ってみたかったんです。えへへ」

 あきれる野口に、ミズキは冗談めかして言った。伊達や酔狂でロボットアニメ好きは名乗れない。

「しかし、鳴海さんも無茶だよな。素人を〈スサノオ〉に乗せて救援に向かわせようなんてよ」

 それがカヤが発案した作戦だった。いや、作戦とも呼べない――それは賭けだ。カナコの持つオニキスを目標座標の目印(マーカー)とし、ミズキのオニキスを通じて〈スサノオ〉に探索させる。

 問題は〈スサノオ〉がミズキの搭乗を受け入れるかだった。〈スサノオ〉はカナコしか受け入れなかった。だから年端もいかぬ少女に、戦う運命を課した。

 だが――

「さあ――行くよ、〈スサノオ〉。カナコを探しに」


――ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!


〈スサノオ〉は重低音の咆哮を轟かせ、ミズキの呼びかけに応えた。

「〈スサノオ〉が……応えた?」

 驚きを通り越して、唖然(あぜん)とする野口。そんな彼のヘッドセットから通信が入る。

『――野口さん、〈スサノオ〉は……及川さんは行けそうですか?』

 発令所のカヤからだ。その声音からは焦りや不安の類は感じない。しかし、内心ではいくつもの葛藤があるのを野口は知っている。

「あ、ああ……」

『野口さん? やはり問題が?』

「いや、すまねえ。ちょっと予想外の状況に驚いてただけだ。ミズキちゃんは行けそうだぜ」

『そうですか。及川さんに代わってください』

 野口はヘッドセットを外し、ミズキに手渡す。

「カヤさん、〈スサノオ〉は行けそうです。必ずカナコを連れて帰ります」

『及川さん……』

「だから、安心して待っていてください」

『…………判ったわ。カナコをお願い』

「――はい!」

 通話を終えると、ミズキはヘッドセットを野口に返し、コクピットのハッチを閉じた。

 途端にコクピット内に静寂が満ちる。

 光を放っているのは操作卓(コンソール)の淡い光だけで、外の状況は判らない。

「……〈スサノオ〉?」

 ミズキが不安そうな声を上げる。

すると――

『――初めまして、ミス・ミズキ。私は〈スサノオ〉のナビゲーション・システム〈ヤサカニノマガタマ〉と申します。お気軽に〈ヤサカ〉とお呼びください』

「え、あ……はい!」

 男声を思わせる低い機械音声(マシン・ヴォイス)に告げられ、一瞬だが慌ててしまう。

『緊張する必要はありません。仮初(かりそめ)なれど、今は貴女(あなた)が私の主です。ご命令をどうぞ』

「判った……よろしくね、〈ヤサカ〉」

『こちらこそ。まずはカナコをロストした地点に跳びます。よろしいですか?』

「跳ぶ?」

『いわゆる空間転送です。通常、〈スサノオ〉はこれによってカナコの元に送られます』

「そうなんだ。じゃあ、お願い――あたしをカナコの所まで連れて行って!」

『了解、ミズキ(イエス・マム)』


          †  †  †


「〈スサノオ〉が格納庫から転送されました。転送先は高千穂高校方面!」

〈タカマガハラ〉の発令所に、オペレーターの声が響く。

「避難勧告を発令。付近一帯の封鎖、急いで」

 カヤが告げると、オペレーターが「了解」と声を上げた。

(頼んだわよ、及川さん――)

 ただ祈る事しか出来ない我が身を呪いながら、カヤは心中で呟いた。


          †  †  †


「世界の終わりを望みながら、世界を護り戦う――矛盾に満ちている君の行動理念をワタシは知りたい」

「…………」

「なぜ、戦ってきた?」

「…………」

「なぜ、護ってきた?」

「…………」

 判らない。カナコには判らない。

 なぜ、戦ってきた?

 それはきっと、嬉しかったから。自分に出来る事がある。それが、ただ嬉しかったから。

 なぜ、護ってきた?

 それはきっと、いつか報われる日が来ると思っていたから。どうしようもなく世界を嫌いながら、だけど、絶望しきれなかったから。

 しかし、自分がやってきたのは独り相撲だった。世界を護っているつもりが、災厄を呼んでいたのはカナコ自身だった。

 最初から期待などしていなかった。報われる日が来るなんて思っていなかった。

 だったら、なぜ今日まで生きてきた……?

「なぜ、君は生きている?」

「…………私は――」

 心が折れてしまいそうになる。もう、このまま消えてしまいたい。

「自ら敵を用意して、それを倒してみせる。ワタシには自作自演の独り芝居に思えるが」

(やめて……)

 心の中でカナコが悲鳴を上げる。

 しかし、声は止まらない。

「それで安易な優越感にでも浸っているのか?」

(もう、やめて……!)

「だとすれば、それは愚かな行為だ。自己満足のためにワタシの同胞を滅し、君の世界にも災厄を引き入れていたのだから」

(お願い――それ以上、言わないで…………!)

 カナコは目を閉じ、耳をふさぐ。

 しかし、声は続ける。

「――君の存在は許されない」

 もう、限界だった。

「いや……いやぁ…………いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――ッ!?」

 カナコは叫んだ。

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