生徒会に入りました
「え? 私が生徒会室に?」
教室に戻った私は目を丸くした。……というのは表向きで内面では
(来ましたわね……!!)
と、思っていたのは内緒ですわ。
「そう。会長が来て、放課後生徒会室に来てほしいって言ってたわよ?」
涼子ちゃんが、さもありなん、という笑顔を浮かべた。
「きっと、転校した書記の代わりよ! トップ入学だもんね、あやめは」
……確かに、そんな展開でしたわ……。
私は、涼子ちゃんの情報スピードに舌を巻いた。
「斎藤、生徒会入りか?」
振り向くと、ぬっと背の高い影が私を覗きこんでいた。
「晴海くん」
「入っちゃなさいよ、あやめ~! 内部生の多い生徒会に、外部生入ってくれたら有利だもの」
「涼子ちゃん……」
「それで、生徒会のネタ、集めて頂戴!」
――ガク。要するに……スパイって事ですわね!?
「川崎、お前、自分の欲満開だな……」
晴海くんが呆れたような声を出した。ほーっほっほっほ、と涼子ちゃんの高笑いが教室に響く。
「情報のためなら、何でも利用するわよっ! これぞジャーナリズム魂!!」
「涼子ちゃん、それ、何かズレてる気がしますわ……」
私は溜息をつきつつも、生徒会の事を考えていた。展開から行けば……
(ここで、『あやめ』が生徒会入りする事で、副会長の野上先輩に会って……クラブ予算会で、原くんに会う……。お兄様に会うのは……隠しイベント? だったかしら……)
まあ、でも、その通りにはいかないかも。既にいくつもイベントが崩れて来ているし。私は包帯の巻かれた右足を見下ろした。
(この怪我だって、想定外だし……)
私は松葉杖を持ち直し、次の授業の教室へと向かった。涼子ちゃんが、教科書の類を持ってくれるのがありがたかった。
***
「……え?」
私は目を丸くした。目の前には、机に座った生徒会長 。机の横には……
「だから、書記になってもらえないかという事なんだけど」
野上先輩。長谷先輩の(昔はクールだった)見た目と違って、人好きのする柔らかな笑顔。でも……
(腹黒さでは、長谷先輩よりも上ですわ……)
前回は長谷先輩も負けていなかったけれど……今回はどう見ても、この方がラスボスですわね。
「あの、私でよろしいのでしょうか。他にもなりたい方がおられるのでは……」
にっこりと野上先輩が笑う。ああ、油断のならない笑顔。
「学年トップの君を差しおいて、他に候補者などいないよ? 一年生からも生徒会メンバーが出てくれれば、いろいろ助かるしね」
きらきら輝く王子様の様な外見を完全に裏切ってますわね……性格が。言葉の裏にひしひしと脅しを感じますわっ。
「……と言う訳だから、頼むな、斎藤 あやめ」
うむ、と頷く長谷先輩に、じゃあこれから引き継ぎだね、としれっと言う野上先輩。長谷先輩の一言で、会話終了ですか!?
「何が、と言う訳だから、なんですの……」
ぶつぶつと文句を言ってはみましたが……どうやら既に決定事項だったようですわね……。
「ほら、引き継ぎするから。こっち来て座って」
ふう、と溜息をついて、私は松葉杖をつきながら、野上先輩の方へと歩いた。
***
「あやめちゃん! 書記になったんだって!? おめでとう!」
「さ、紗都子さんっ!?」
むぎゅっと抱き付かれて、私は思わずよろめいた。
「こら、紗都子! 下駄箱でなにやってる!」
紗都子さんが近藤くんに首根っこ掴まれて、めりっと引き剥がされた。
「紗都子さん~……あやめ、怪我人なんだから、ちょっとは遠慮してよね?」
呆れた様な涼子ちゃんの声に、紗都子さんがぺこり、と頭を下げた。
「ごめーん……痛かった? あやめちゃん」
「だ、大丈夫よ? ……ちょっと驚いたけれど」
情報早いわね、と私が言うと、へへへ……と紗都子さんは照れ笑いをした。
「『週刊鳳凰学園じゃーなる』を読んだの~……今日あたり、あやめちゃんが書記に就任かも!? って書いてあったから」
「……何ですの、その怪しげな雑誌は……」
ふっふっふ、と腹黒さの滲み出た笑い声が、涼子ちゃんの口から洩れた。
「この学園公式新聞、『鳳凰学園新聞』に対抗して私が立ち上げた、ゲリラ週刊誌よっ!」
「え」
表紙はカラーコピーで……結構手がかかってそうな冊子ですわね。
「……で、私が内部生代表特命特派員なの」
やたらと長い役職……。
「お前、そんな怪しげなことに手を貸してるのかっ!?」
紗都子さんに詰め寄る近藤くんを、涼子ちゃんが制した。
「あら、怪しくないわよ? 公式新聞じゃ拾えない、小さな出来事をメインにしてる、『いつもあなたに寄りそう』週刊誌、なんだから」
「そうなの~、今内部生の間でどんなおやつが流行ってるのか、とか、見てるドラマは何、とか、調査も面白いの!」
近藤くんが頭を抱えてしまいましたわ……その気持ちはよくわかりますけど。
「紗都子さん、(一応)あなたは内部生のエリートなんですから……あまり目立つ行動は控えた方が……」
「えーっ、あやめちゃんて堅いー」
いえ、多分常識範囲内ですわよ? ぶーぶー文句を言っている紗都子さんを見て、私は思った。
「ま、いいじゃなーい? 内部生の目から見た情報って貴重なのよ。ほら見てこれ!」
涼子ちゃんがばっと私の目の前に、レポート用紙を突き付けた。私は目を丸くして、レポートを読んだ。
「え……内部生に今一番人気のデザートはこれだ! スイーツ特集に紗都子特派員が切り込む……」
へえ……駅前Lina*Linaのふんわりドーナツが……って、違う!
「でも知りたいでしょ? 普段、内部生と外部生ってそんなに話したりしないから。これをきっかけに、垣根が少しでも低くなったらいいなって」
私ははっと涼子ちゃんの顔を見た。そう……内部生は外部生を下に見る傾向がある。外部生は内部生に反抗的になりがちだ。でも……
「お互い好きな物とか気になる事を知っていれば……相手の事も判るし……」
「そ。話しやすくなるでしょ?」
涼子ちゃん……。私は自分を恥じた。涼子ちゃんは自分の事じゃなく、この学園全体の事を考えてたんだ。
「……というわけで」
ぽん、と私の左肩に涼子ちゃんの右手が乗った。
「外部生の、特命特派員、頼んだわっ! 生徒会の噂、何でもいいから受け付けるわよ!」
ガク
「……さっきの私の感動を返していただけるかしら……」 大体、『特』が重なってますわよ、その役職。
ぼやく私を尻目に、涼子ちゃんと紗都子さんは『どのドーナツが一番美味しいか』で盛り上がってるし……近藤くんは複雑な表情で、紗都子さんを見守ってるし……周りの視線は痛いしで……思わず、盛大な溜息をついてしまった、私だった。
***
本日のあやめメモ:
・野上 修也先輩(=本人?)
見た目王子様仕様の、キラキラな人。ただし、腹黒いことは間違いない。
優しげな口調に惑わされてはいけない。
・生徒会に書記として入る事が決定。野上先輩が裏で手を回した?
<高校1年生。入学直後 発生済みイベント>
・生徒会で野上先輩に会う
クリア
<発生予定イベント>
・紗都子さん家に訪問? お兄様に会う? それとも、原くんに会うのが先?