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あるキャラの独白 その2

 ――いつの頃から、だっただろう。


 何となく、おかしいなって、思い始めたのは。


***


「……紗都子。お前……」

「何も言わないでよ、彰ちゃん。判ってるから」

「彰ちゃんって、言うな……」

 はあ、と盛大に溜息をついてるのは、幼馴染の近藤 彰浩。ずっと小さい頃から一緒で、一緒にいてくれるのが当たり前って感じだった。

 ちなみに、現在私は正座中。庭の松の木に登って遊んでいた所を、捕獲?されてお説教されて、罰としてお部屋で軟禁されてます。彰ちゃんは、その見張り役。いつも大変だなあって、思う。私のせいだけど。


「ねえ、彰ちゃん? 私って、やっぱり変?」

 うっと言葉に詰まったところを見ると……変なんだろう、多分。

「私もそう思うの。……なんだか、合わないなあって」

「紗都子……」

 ふう、と私も溜息をついた。

「だってね、元華族の黒木家のお姫様。小さい頃から日舞やお茶、お華をたしなみ、学業もトップクラス。ここだけ聞いてたら、本当、お嬢様みたいだけど」

「……」

「でも、私はそんな『お嬢様』じゃないんだもの」

 お父様もお母様も……お兄ちゃん(って言っちゃうけど)も、私を見ては、よく目が点、になってる。お兄ちゃんは『紗都子は元気なところが可愛いね』なんて言ってくれるけど。

『紗都子様は……もう少し落ち着かれた方が……』

 先生達も、残念な子を見る目なのよね。いつも溜息つかれてるし。


「もっと、『紗都子お嬢様』に相応しい人だったら、よかったのかなあ……」

 彰ちゃんの目が鋭くなった。

「馬鹿言うな。紗都子はお前だろう」

「……うん」

「お前は……それで良い、から」

「え?」

 私が顔を上げると……隣で一緒に正座してくれてる彰ちゃんの顔が、心なしか赤くなっていた。

「お前はお前のままでいいって、言ってるんだ。だから、そういう事、言うんじゃない」

 ぷい、と視線を逸らしたままだけど……彰ちゃんの言葉は、私の心に沁み込んで来た。

「……ありがと、彰ちゃん。……大好き」

 一気に彰ちゃんの顔が真っ赤になった。ずささささって後ずさって、私から離れてるし。

「だっ、だからっ、そういうことを口にするなって……!!」

「どうして? 小さい頃から言ってるじゃない」

「幼稚園の頃と一緒にするなっ!」

 私は首を傾げた。彰ちゃんも、最近変だよね。中等部に上がった頃から、よそよそしくなったっていうか。

「お兄ちゃんだって、大好きって言ったら、『私も好きだよ』って言ってくれるわよ?」

「~~!! ……だから一緒にするなって!!」

 なんだか変だなあ、彰ちゃん。でも、あんまり突っ込むと怒るから、この辺でやめておこう。


 ――私は笑って、その場を誤魔化した。


***


 ――ああ。この人だ。

 会った途端にわかった。この人が、前世(まえ)の『紗都子さん』だ。


 入学式の後……廊下でぶつかったショートカットの女の子。一瞬……自分とぶつかったのか、と思った。

 向こうも私を見て……一瞬固まっていた。

「うわー、私が賢く見えるー」と、思わず叫んだら、「お静かに!」とぴしゃり、と言い返された。

 『あやめちゃん』の指導?を受けながら、頑張って自分の役をこなしてみたけれど……やっぱりうまくいかない。

「……やっぱり、私じゃ……ライバルなんて大役、無理だったんじゃ……」

 と涙ぐんだら、

「だ、だめよ、紗都子さん。あなたが悪役としての務めを果たさないと、話が進まないじゃないですかっ!!」

 と慌てて、慰めてくれた。


 『あやめちゃん』も前の記憶を持ってるんだ。そう思って話してみたら……案の定、だった。

 私は『あやめちゃん』に、協力し合う事を提案し……彼女もそれにOKしてくれた。これで鬼に金棒だわ。

(『紗都子』としてわからないところは、『あやめちゃん』に聞けばいいんだものね)

 私は、図書室であやめちゃんと年表を作りながら、そんな事を考えていた。


***


「え!? 彰ちゃんが!?」

 ――あやめちゃんと同じクラスの川崎さんから、「あやめちゃんに彰ちゃんが何か言ったらしい」と言う事を聞いた。慌てて彰ちゃんに確認したら――

「ああ、忠告したぞ。あまりお前に近づくなって」

「彰ちゃん!?」

 私はびっくりして、彰ちゃんを見た。

「あやめちゃんとはお友達になりたいのに! どうして私に黙ってそんな事するの!?」

「紗都子!?」

「私、あやめちゃんに謝ってくる!」

 紗都子、と叫ぶ彰ちゃんを無視して、私はあやめちゃんの元へと急いだ。

(彰ちゃんが私の事、守ってくれようとしてくれるのは判ってたけど……!)

 でも、陰でこんな事してたなんて、知らなかった。知ってたら……


 ――そこまで考えた時――私の足が止まった。


(――前世(まえ)の紗都子さんも……そうだったの?)


 紗都子さんは、私を陥れようと影でいろいろしていたけれど……結局全部バレて、おまけに実家が借金を抱えて破産……学園を辞めざるを得なくなって……どこかへといなくなった。


 紗都子さんは、最後まで『お姫様』だった。ピンと背筋を伸ばし、顔を上げたまま……罵倒するみんなの声にも表情を変えることなく、去っていった。

 私は……紗都子さんがみんなやったことだ、って思ってたけど……。

(もしかして、紗都子さんも知らない間に……)

 周囲が勝手に紗都子さんの名で、やっていたのかもしれない。紗都子さんは知らなかったのかも。でも、誇り高い紗都子さんは……言い訳なんかできなかったのかも知れない。


 ――だって、『あやめちゃん』は、悪い人じゃ、ないんだもの。


 私を、しょうがないわねえ、みたいに見るけど、面倒見がよくて、真面目だ。勉強だって、『私』が『あやめ』だった時よりも、もっとすごい成績をとってる。

 ――彰ちゃんの事を謝ったら、『……紗都子さんの事、大切にしたいのだと思いますよ?』って言って笑った。気にしないで、と。



 ――ああ。もっと、前世(まえ)も、こんな風に話せばよかったんだ。そうしたら……あんな最後にはならなかったのかも、知れないのに。

 今世(こんかい)は、『あやめちゃん』ともっともっと、話をするんだ。もっと、彼女の事を知るんだ。私はそう思った。



 ……神様との約束。トゥルーハッピーエンド。私と『あやめちゃん』が幸せになる事。


 その時、私は突然気が付いた。


(……彰ちゃんは?)


 彰ちゃんは……『あやめちゃん』の攻略対象の一人、だ。『あやめちゃん』が……彰ちゃんを好きになる可能性もあるんだ。

 私は……思わず右手を握りしめた。


 ――今は好きな人はいないって……そう言ってたけれど。


(『あやめちゃん』が……彰ちゃんを選んだら……彰ちゃんは……)

 元々結ばれる候補の一人である彰ちゃんは……『あやめちゃん』を選ぶんじゃ……


 ――嫌、だ。


 どくん、と心臓が音を立てる。彰ちゃんが……私から、離れて行っちゃうなんて……嫌だ。


 誰かが……私の耳元で囁く。


 ――大丈夫よ? 彰ちゃんは……黒木家の家臣の出自。『紗都子』が嫌だと言えば……彼は従うわ? もし彼が逆らっても……お父様、お母様に言えば、何とかして下さるわよ?


 はっと我に返る。今、私……何を考えてたの!?

「……私……っ……」

 彰ちゃんを……家の力で、縛りつけようとしていた。これじゃ……前世(まえ)の紗都子さんを、責められないじゃない。

(もっと……酷い事、しようとしてた……っ)

 紗都子さんの気持ちが……少しだけ判った、気がした。好きな人から……離れたくなかった、だけだったんだ。きっと、そうだったんだ。

 私も……そうなんだ。自分の気持ちのために……酷い事、できるんだ。


 私は、部屋の窓を開けて、夜空を見上げた。


(自信……ない、なあ……)


 ――もし。『あやめちゃん』が。彰ちゃんを好きになったら。

 ――もし、彰ちゃんが。『あやめちゃん』を好きになったら。



 ……きっと、私は……前世よりも酷い事をしてしまう。『あやめちゃん』に。だめだって判ってても……きっと。



(……『あやめちゃん』)

 自分勝手な願いだとは判っていたけれど、私は心の中で祈った。



 お願いだから……彰ちゃんを、好きにならないで。

 私から……彰ちゃんを、盗らないで。



 ――今世(こんかい)は、二人とも幸せになるんでしょう? だから……



 ……しばらく星を見ていた私だったけれど……夜風の肌寒さ、にゆっくりと窓を閉めた。

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