表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

近藤くんに、出会いました

「あふ……」

 ――あら、登校途中ではしたない。私は口元に右手を当てた。通学は徒歩。駅から15分ぐらい歩く。


 昨日イベント一覧や登場人物一覧をまとめていたから……少し寝不足ですわね……。


(『あなたと二人で』の攻略キャラは……)


生徒会長の長谷先輩、副会長の野上先輩、美術部部長の田宮先輩、同学年の晴海くん、近藤くん、原くん、あと校務医の春木先生に……隠れキャラの黒木 直斗さん(紗都子さんのお兄様)だったと思うのだけれど……。


(……何かが思い出せませんわ)


 学園を追われた紗都子がどうなったのか、まるで思い出せない。気がついたら、神様のところにいた。

(まだ、誰かいたような気がするけれど……)

 ……多分、嫌な思いをしたので、思い出せなくなっているのだろう。と、私は納得する事にした。


(まだ、出会っていない方とはいつ出会うのかしら……イベント通り? それとも……)

 校門を通った私は、「おはようー」との同級生の声に、考えるのをストップして、挨拶を交わした。


***


 ……そう思ってはいたけれど……


「おい、聞いてるのか、斎藤」

(こんなすぐに、出会うとは思っていませんでしたわ……)


 私の目の前にいるのは……くせのない黒髪が特徴的な、男子生徒。眼光鋭く、私を睨みつけている。

 人気のない渡り廊下横に呼び出すとは、なかなかやるわね……と感心していたら、いらいらしたような声が飛んだ。

「さっきから、何心あらずな態度してるんだ。やっぱりそういう奴なのか?」

「『やっぱりそういう奴』がどんな奴なのかは、存じ上げませんけれど……」

 私は、『近藤くん』を見上げた。

「何がおっしゃりたいのかしら? 紗都子さんに近づくな、とでも?」

 彼の頬がやや引きつった気がした。

「……わかってるなら、話が早い。紗都子さんは、お前みたいな育ちの人間が近づいていい人じゃない」

 ……そんなこともなかったと思うけど。と言いますか……

彰浩(あきひろ)さん、こんな事を影で言ってたのかしら……)

 ものすごく、恥ずかしいのですが。そんな大層な生まれ育ちでもなかったのに。

「……紗都子さんとは、同学年のお友達、それだけですわ」

 ふん、と彰浩さんが鼻を鳴らした。

「もう噂になってるくせにか? 『紗都子姫が外部生トップの子と仲良しになった』と」

「仲良しになりたいとは、思っていますけれど……」

「だから、恐れ多いといってるだろうが! 紗都子さんは、元華族の、世が世なら本物の姫君だぞ!? 一般庶民のお前とは違うだろうが!」

「……紗都子さんは、何ておっしゃっておられますの?」

 ぐっ……と彰浩さんが言葉に詰まった。

「紗都子さんが仲良くして下さるなら……私に異論はございませんわ」

「斎藤!」

 ……私はしみじみと彰浩さんを見上げた。こんなに……影で守ろうとしてくれていたなんて……

(単なる幼馴染としてしか、思っていなかったのに……悪い事をしましたわね……)

 ふふっと私は微笑んだ。

「……彰……いえ、近藤くんは、紗都子さんが大切ですのね?」

「なっ!!」

 あら。真っ赤。

「なっ、なにを言ってる、お前はっ!!」

 心なしか、うろたえてるような気がしますが……。

「お、俺の家は、代々黒木家に仕える家臣筋だぞ!? そんな、事っ……!!」

「今のこの世の中で、家臣も主もへったくれもないですわよ?」

 私は冷静に指摘した。

「お好きなら、好きだと言えばよろしいでしょう。そうでなければ……」

 きっと、あなたの想いに気がつかないままになる。……かつての私がそうだったように。

「なっ、何も知らないくせに、生意気言うなっ!」

 いえ、知ってるからこその、助言なんですけれど。

「まあ、告白するかどうかは、ご本人次第ですから」

「だから、そういうことではないと、言ってるだろーがっ!!」

「……お話がそれだけでしたら、失礼致しますわね。次の授業の準備がありますので」

 ぺこり、とお辞儀をして、私は『近藤くん』から離れた。背中にびしばし視線は感じますが、するっと無視、いたしました。


***


「ねえ、あやめちゃん? 彰ちゃんが迷惑かけたって……ごめんなさい」

「紗都子さん?」

 会うなりいきなり頭をさげられて、私はびっくりした。周りの視線が身体に突き刺さるようです……。

「お話しただけで……別に迷惑など……」

 紗都子さんは顔を上げた。

「その……彰浩、近藤くん……私の事、守らなきゃって思い込んでるの。だから、私が声をかけた相手にすぐ……」

「……紗都子さんの事、大切にしたいのだと思いますよ?」

 あら? 紗都子さんも真っ赤に。これは前にはなかった傾向ですわね……。

「とにかく、私は気にしていませんから。紗都子さんもお気になさらず」

「……ありがとう、あやめちゃん」

 にっこりと紗都子さんが笑った。うわ。破壊力のある笑顔ですわね……。

(これでは、近藤くんがああだこうだ言っても……責められませんね……)

 前世の私、はここまで素直に感情を表に出せなかった。だから、『氷の姫君』なんて嬉しくないあだ名をつけられる羽目に。


 ――でも、今世の『紗都子さん』は、違う。

 悪いと思ったら、素直に頭を下げる。感情を表に出す。……それだけで、人形みたいなイメージが崩れて、『愛らしい極上美少女』になっていた。


(『腐っても鯛』……『悪役でもヒロイン』って感じなのかしら……?)

 近藤くんも気が気じゃないでしょうね。『紗都子さん』は誰にでも、フレンドリーな態度だし。守らなきゃって必死なのですね。


「あ! 彰ちゃんが何と言おうと、私、あやめちゃんとは友達でいたいから!」

「ふふ……私も、ですわ。偶然ですわね?」

 私と紗都子さんは目を合わせ……お互いに共犯者の笑みを浮かべた。


***

 本日のあやめメモ:

・近藤 彰浩くん(=本人?)

 前世と性格は同じよう。紗都子さんが好きなのに、告白できていない様子。紗都子さんもまんざらではなかったので、ひょっとするとひょっとしたりする?


 <高校1年生。入学直後 発生済みイベント>

・あやめ、近藤くんに話しかけられる   ALLクリア


 <発生予定イベント>

・来週ぐらいに生徒会から声を掛けられる?

・今日、今の校務医の先生が、退職されると発表があった。春木先生の登場?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ