あなた、そんなキャラではなかったはずでしょう!?
*転生モノを一度書いてみたくて、ノリで書いています。
ですので、おそろしく不定期更新となる予定です。
大ヒット乙女ゲーム、『あなたと二人で』。名門高校、鳳凰学園での三年間を描く。
ちょっとドジだけど、素直で真っ直ぐなヒロイン、斎藤 あやめ。
彼女を巡って争うイケメンの男子生徒達。
そんなヒロインを温かく見守る、大人な先生。
――そして
ヒロインを目の敵にする、ラスボス級のライバル、黒木 紗都子。旧華族出自の彼女は、正に『貴族』と言っても過言ではない気品を兼ね備えたお嬢様、だった。
真っ直ぐな漆黒の髪、アーモンド形の瞳、薔薇色の唇。品行方正、成績優秀、何をさせても、一流の女の子。
だからこそ、彼女のプライドを傷つけたヒロインが許せなかった。何の努力もしていないのに、いつの間にか、逆ハーレム状態になっていた、あやめが。
紗都子は、影から手を回し、あやめと恋人の仲を裂こうとする。(ここでいう恋人とは、一番好感度の高かった男子)
――でも、結局、皆にばれてしまった上、実家は破産、お嬢様の仮面をはがされた紗都子は、学園を追われることになってしまったのだった……。
***
『……で、君は、どうしたい? 元紗都子サン?』
私は目の前の御方を見た。金色に輝く……多分、神様か天使様、なのでしょうか。
『君は前世で、ゲームの世界で生きていた。俗に言うパラレルワールドってやつだね』
ほーそうですか……。
『で、バッドエンドになってしまって、今魂がここにいるってわけ。あ、君だけじゃないよ? 他のメンバーも来てて、同じ質問をされてるはずさ』
……。
『世界がバッドエンドになっちゃったからね~……ちょっと配役がミスったんじゃないかって、天界でももめたんだよ~』
配役ミスで世界が滅ぶって……大げさな気がしますが。
『君だって、旧華族のお姫様、の割には庶民的だったしね』
うぐ。返す言葉もございません……。
『でね、今回は、前回とは違う役に転生させることにしたってわけ』
「は!?」
私は目を見張った。違う役……って……
「あの、もしかして、男性への転生も可能でしょうか?』
『ああ、望むならね? どう、長谷 遼一とかは? 君お気に入りだっただろ?』
長谷 遼一は、生徒会長で一年先輩。沈着冷静だが、眼鏡の奥に隠された熱い思いに、胸がどきどきしたっけ。
「……でも、先輩になると、自分でイメージ壊しそうで、嫌です』
『ふうん』
金の光が面白そうに煌めいた。
『じゃ、どうする?』
「……そんなの、決まってるじゃないですか」
悪役の密かな憧れ。嫉妬して意地悪もした。でも、それは、そうなりたかったから。
「――ヒロインの、斎藤 あやめ、でお願いします」
元悪役は、神様?に深々と頭を下げた。
***
「……あやめさんたら、ええと、こんなこともお判りにならないの……?」
「……あのですね、そこは疑問形ではなく、叩きつけるような言い方でないと」
「そ、そうよね! お判りにならないのかしらっ、ほーほっほっほ」
「……その脱力する笑い方、何とかなりませんの……」
主人公あやめが高校に入学してすぐ、中等部からの持ちあがりで、お姫様として名高い紗都子と廊下でぶつかり、行儀の悪さを指摘されるシーン。これで紗都子が、あやめを憎らしく思うきっかけになる、重要なイベント……の、はず。
「……せっかく、恥を忍んで、廊下を走って転んだ、というのに……」
はあ、と私――斎藤 あやめは溜息をついて立ち上がり、ぱたぱたと制服のスカートをはたいた。目の前に立つ、ストレートヘアの美少女に目を向ける。
(うーん、私こんな感じに見えていたのかしら……?)
黙って立っていれば、本当陶器のお人形みたいな美しさ、なのだけれど……。
「……やっぱり、私じゃ……ライバルなんて大役、無理だったんじゃ……」
アーモンド形の瞳がうるうるしていて、頬も少し赤い。
(な、なに、この可愛らしさ……っ!!)
凛としてどちらかと言えば冷たい印象の姫君が……萌になってる!! 思わずすりすりしたくなる、子ウサギのような。
「だ、だめよ、紗都子さん。あなたが悪役としての務めを果たさないと、話が進まないじゃないですかっ!!」
「でもぉ~」
あああ、完璧萌キャラになってる~!! 元自分が、こうなると、恥ずかしいと言うかこそばゆいと言うかっ!!
――そう。悪の華、黒木 紗都子の中身は……前世での『斎藤 あやめ』。どうやら、紗都子のきりりとしたところに、憧れていたらしい。
私が、ほんわかしたヒロインに憧れていたように……
(人って、自分にないモノを求める生き物なのですね……)
出会ってすぐ、彼女も私だと気付いたらしい。
『うわー、私が賢く見えるー』と言って、はしゃいだので、『お静かに!』と思わず叱りつけてしまった。
……なんだか、姿形だけ変わって、中身がそのまま、のような気がするのは、気のせいでしょうか……。
『――ちゃんと、ハッピーエンドにしてよね、ヒロインさん?』
神様との約束。転生してもう一度人生をやり直すのと引き換えに……ちゃんとハッピーエンドで終わらせる事。
『でないと……今度は魂ごと消えちゃうよ?』
などと、怖ろしい事をしれっと告げられた。
(何が何でも、攻略キャラのお一人と結ばれなくてはっ!!)
それがヒロインの役目。で、ラスボスキャラの紗都子も幸せに、というトゥルーハッピーエンドを目指すのよっ!!
(でも……)
ふと過ぎる不安。紗都子やあやめがこの有様、ということは……
他のキャラも、全員性格が入れ替わってるかもってことよね!?
(それは、困りましたわ……)
紗都子までいかなくても、おそろしく性格が変わってしまっていたら……ハッピーエンドに至るまでの道のりだって、変わるはず。
元の知識があまり役に立たないんじゃ……と思っていたら、後ろから声を掛けられた。
「廊下の真ん中で、何じゃれてんだよ、新入生」
「げ」
振り向いた瞬間、思わず声が洩れた。すらっと高い背。眼鏡がきらり、と光った。腕まくりした両手が日焼けしてる。
「は、長谷先輩……ですよ、ね……?」
少なくとも、顔は。
「おう、ちょうど生徒会終わったところ。真ん中は邪魔だからさ、端に寄れよ」
ちょ、ちょっと~っ!! 私が憧れていた、クールで物静かな先輩はどこ行ったのよーっ!……と思いつつ、私は廊下の端に寄った。
「あ、長谷先輩、腕凄いですねー筋肉」
紗都子さんが惚れ惚れしたような視線を長谷先輩の腕に投げた。ふふん、と長谷先輩が鼻息を荒くした。
「鍛えてるからな~俺。やっぱ身体動かすよっていいよな~」
ち、違うでしょ! アナタ、そんなキャラじゃないって!! 視線で語るのが長谷先輩なのよっ!!
(あ、でも……)
神様が言ってた。全員が前世での記憶を持ってるわけじゃないって。
『中には生まれ変わった時に忘れちゃう人もいるからね。どの程度覚えているかは、その人次第だよ』
私みたいに、がっつり覚えてる人もいれば、なんとなく、の人もいて……全く忘れちゃった、という人もいるわけで……。
(こ、これが今世の長谷先輩っ!?)
「いいだろ~」とか言いながら、筋肉決めポーズをとる冷徹キャラ(のはず)の先輩に、「凄いですね~」と目を輝かせる悪役(のはずなのよ、あなた!)の紗都子さん。
……す、すごい光景なんですけど。
(見たくないかも……)
呆然ときゃっきゃしている二人を見守る私の背後から、冷静な声が聞こえてきた。
「……おい、長谷。何遊んでる。まだ仕事片付いてないぞ」
長谷先輩が、うげ、と呻いた。
「いい加減にしろよな、人に仕事押し付けるのも」
「いいじゃねーか、田宮」
田宮先輩!? 私は思わず振り返った。そこにいたのは……淡い色彩の、天使のような外見の男子生徒。地毛だという茶色の天パに、白い肌。ブラウンのブレザー姿がよく似合ってる。お母さんがフランス人、とかで、影で『天使様』と呼ばれていた。
「こっちが困るんだよ。生徒会の仕事が終わらないと、絵が描けないだろ」
絵! それは一緒なんだ! 田宮先輩は美術部の部長で、大きなコンクールにも何度か入賞してた。身体が弱くて、儚い感じ……の……?
(……どう見ても、儚さなんてものが感じられないのですが……)
眼光鋭いし。意志強そうだし。絵で留学するかどうか悩んで、ヒロインに励まされる……なんて、必要なさげ、よね。田宮先輩ルートが一つ、消えるのが見えた。
田宮先輩が、長谷先輩に向かって鋭い言葉の刃を投げた。
「とにかく、早く生徒会室に戻れ。会長のお前がいないと話が進まない」
「へいへい……」
長谷先輩が頭を描きながら、じゃあな、と右手を上げて生徒会室の方へと向かった。田宮先輩が少し青色がかった瞳で私を見た。
「……お前、斎藤 あやめ、か」
「は? はい、そうですが……」
あれ? ちゃんとお話したのは初めてですよね?
「今年のトップ入学者、だろ。期待してるから」
「は、はい! ありがとうございます!」
ぺこり、とお辞儀をすると、うむ、みたいな感じで田宮先輩は軽く頷き、その場を立ち去った。儚げな天使が……重厚なイメージになってる……。
「……ねえ、あやめちゃん?」
「……紗都子さん?」
いつの間にか、ちゃん付けだけど、まあ良しとしましょう。
「協力しない? 私達」
「はい?」
紗都子さんの瞳がきらり、と光った。
「あなたも、覚えてる方でしょ? カミサマとの約束」
「……」
「だったら、協力した方が、話が早く進むと思うの。だって、こんなに状況が変わったんじゃ、ハッピーエンド目指したくても難しいじゃない?」
「そうですわね……」
あの憧れの長谷先輩が、あのザマでは……他のメンバーは推して知るべしですわね。
(なら、事情を判ってる方と組んだ方が、有利……)
「……わかりましたわ」
私は紗都子さんを見つめた。
「私、斎藤 あやめは、あなたに協力します、黒木 紗都子さん」
「うん! よろしくね!」
むぎゅっと紗都子さんに抱き締められた私は、首絞められてもう少しで昇天するところでした……。
***
「えーっと……確か、この後『あやめ』が気分悪くなって、同級生の晴海くんに保健室に連れて行ってもらう……と」
「あら、『紗都子』が手下に使っていた、近藤くんと話をするのも、この辺りではなかったかしら?」
二人でイベントを書き起こしてみると……結構あるのね、パターンが……。
人気のない夕方の図書室で、私と紗都子さんはうんうんと唸っていた。
はあ、と紗都子さんが溜息をつく。
「あやめちゃん?」
「何かしら?」
「要は……あやめちゃんと私、が幸せになればいいのよね? それがトゥルーエンドの条件でしょう?」
「多分……そうね」
トゥルーエンドは経験してないから、と私が言うと、私も~という言葉が返って来た。そうよね、ものすごく難しかったはずなのよね。
(だから、条件がわからないわねえ……)
「……あやめちゃんは、誰が好きなの?」
紗都子さんに唐突に聞かれて、一瞬息が詰まった。
「誰……って、言われても……」
前は、長谷先輩が好きだった、けれど……。
(結局、悪事がバレて、軽蔑されてしまったし……)
……おまけに、今はアレだし、長谷先輩。
うーん、と紗都子さんが腕を組んだ。
「とりあえず、前世の事はおいといて……今、誰を好きになるか、よね?」
「そうよね……こうしてここに、生きているんだもの」
与えられた環境で、ベストを尽くす。それが一番よね……。
「まあ、参考として、前の記憶を書き留めておきましょう? もしかしたら、似たような事が起きるかもしれませんし」
「そうだよね~」
あまり、前の事にこだわるのも良くないけれど……できれば、バッドエンドなイベントは避けたいところ。私と紗都子さんは、先生に追い出されるまで、図書室でうんうんと唸りながら、『あなたと二人で』の時系列イベント一覧を作成した。
***
「おはよーっ、あやめ!」
下駄箱の前で、ショートカットの女の子が、手を振りながら駆け寄って来た。
「あ、おはようございます、涼子さ……」
ばん、と背中を思いきり叩かれる。
「またまた~他人行儀すぎるよ、あやめったら! 普通に喋ってくれたらいいからさ~」
「そ、そうね……おはよう、涼子ちゃん」
うむ! と川崎 涼子ちゃんが頷いた。私と同じく、高等部からの外部生だ。入学試験の時に前後の席になったことで、声を掛けられた。明るくて姉御肌、ヒロインの良きサポート役、だったよね……。
「そうだ、あやめって、黒木さんと親しいの?」
上履きに履き替えながら、涼子ちゃんが言った。
「え、その……」
親しい……と言っちゃうと、きっとまずいのよね……紗都子さんの立場ってものもあるし。
「入学テストの席次を見て、声を掛けてくれたけど……」
「そうなんだ~」
廊下を歩きながら、1年B組を目指す私達に、おはよう、という声があちらこちらから掛けられる。
「あやめったら、有名人よね~」
「え?」
私は目を丸くした。別に目立った行動はとってない……はず……。
「だって、この学校始まって以来の好成績で入学よ? ものすごい才女がキターッて学校中大騒ぎだったって」
「ええええ!?」
そ、そんな設定なかったと……思う。確かに『あやめ』は勉強はできたけれど。
(す、すでにいろいろ崩れてるのね……)
あああ、もう、前世の知識はあてにならないかも。そう思いながら、教室に入った私に、「おはよう」と声をかけてきた男子生徒がいた。
「お、はよう、晴海くん」
身長159cmの私より20cmは背が高い晴海 明くん。陸上部の特待生として入学したと聞いた。
「すごいな、斎藤。トップ入学だけでなく、あの『紗都子姫』と仲良くなったって、噂だぜ」
「ええええっ!?」
「図書室で、二人仲良く勉強してたんだろ? 図書委員が触れまわってた」
見られてたか~……私は頭を抱えた。
「その、あまり大袈裟にすると、紗都子さんに迷惑がかかる、から……」
判ってるって、と晴海くんが頷いた。
「まあ、良かったよな。紗都子姫は内部進学生の中でもエリート中のエリートだ。俺たちみたいな外部生を差別する内部生も多いからさ」
ばん、と晴海くんが背中を叩いた。地味に、痛い……
「紗都子姫がついてくれれば、誰も文句言えないし。いい味方を手に入れたな」
晴海くんは、自己完結してそのまま自席へと歩いて行った。
「晴海くんも人気あるわよね~、背が高くてスポーツ万能。女の子にも優しいし」
「涼子ちゃん、詳しいのね……」
「そりゃあ、次期新聞部部長を狙ってますから?」
えへん、と胸を張る涼子ちゃんの、情報収集能力はすごいものがある。入学式ですでに、内部生の人間関係を把握していたし。
(涼子ちゃんは……立場的に変わらないみたい……)
そのまま、お助けキャラ、なのかしら? まあ、とりあえず、そういう認識にしておこうっと。
私は席につき、授業の準備を始めた。
***
本日のあやめメモ:
・長谷先輩(=?)
外見は同じだが、中身は著しく違う。スポーツ系の誰か、の転生と考えられる。明るくて行動的。
・田宮先輩(=?)
儚げな美少年、ではなくなっている。頭は切れそう。意志が強い感じ。
・晴海くん(=同じ?)
元の性格とあまり変わっていない様子。本人かも?
・涼子ちゃん(=同じ?)
こちらも元の立ち位置と同じ感じ。性格も変わっていない。
・紗都子さん(=斎藤 あやめ)
悪役なのに、ヒロインそのもの。ドジっ子属性は健在のよう。今日も男子生徒が「紗都子姫萌え~」と言って悶えていた。
「あなたと二人で」イベント年表
<高校1年生。入学直後 発生済みイベント>
・あやめ、紗都子さんに目をつけられる。 微妙
・あやめと川崎 涼子ちゃんが仲良くなる。 ALL クリア
・あやめ、晴海くんと同級生になる。 ALL クリア
・紗都子さんは内部生エリートで、お金持ちグループの姫君として君臨。 微妙
・あやめが長谷先輩、田宮先輩と出会う。 ALL クリア
<発生予定イベント>
・保健室イベント(あやめ×晴海くん)の発生は、G.W.明け
・保健室担当医の春木先生が転入してくるのは夏休み前
・1-Aの近藤くんがあやめに話しかけるのは、近々発生?
・あやめが生徒会から声を掛けられるのは、中間テスト終了後




