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「遙さん」
目の前には、本日会いたくない人ナンバー1が立っていた。
しかもリムジン。しかも運転手付き。
スペックの高い男だとは思ったけれど、今の様子からすると本当にハイスペックのようだ。
ええ!ハイスペックには憧れますよ。でもいざそれを得ても、結局は使いこなせませんから!
例えるなら高機能パソコン?
画像編集もできる!動画編集ができる!あれもこれもできる!
結局はネットと簡単な表計算に文章作成しかしてませんから!ネットショッピングにハイスペックパソコンなんて宝の持ち腐れですよね!?
例えるならスマートフォン?
便利そうだと思って買いました。手にしてみたけど、実際そこまで使いこなせてませんから!
所詮、私にはガラケーで十分だったと言うことです!
きっと目の前の男もそうだろう。キャッキャウフフできるのは最初だけ。結局は釣り合わず、疲れてしまう。そのギャップに押しつぶされてしまう。
それに、彼としても自分が出来ることを出来ない女を相手にするのは厳しいだろう。
つまりはハイスペック品には、そのハイスペック品を使いこなせるだけの能力を持った人物でないと勤まらないと言うことだ。
「遙さん」
「人違いです」
サササとその場を通り過ぎようとした私。 彼を避けようと進むと、グイと腕を捕まれた。
デジャブ―――。
また抱きつかれたらたまらない!予測される次の行動を読んで一瞬身構えるも―――今度はそのまま車へ押し込まれた。
「ぎゃああああああ!人さらい!」
これまでは心の中で叫んでいたが、今度ばかりは黙ってはいられない!叫ぶ私には目もくれず、バタンと車の戸が閉められ、エンジン音と共に車が進みだす。
「なっ何するの!?おーろーしーてー!!!」
ギャンギャン叫んで、運転席と後部座席を仕切る扉を叩いた。
「はっ遙さん!?落ち着いて…」
そんな私の様子を見て、人さらいが焦ったような声で話しかけてくる。
これが落ち着いていられますか!
「あの!お忘れものですよ」
目の前の男は、私の鞄を差し出してきた。
どうやらマグノリア・タワーで落としてしまった私の鞄を届けてくれたようだ。
その鞄をみて、落ち着きを取り戻した私。
「あ…ありがとうございます?」
この男のせいで鞄を落としたのだから、お礼を言うのもおかしい様な気がしたが、一応感謝の言葉を向ける。
私、義理堅い。
「いいえ。どういたしまして」
「では、すみませんが降ろして下さい」
落ち着きを取り戻した私は、彼にそうお願いをする。
鞄は戻ってきた。私はもうこの男に用はない。一生関わりたくない。
「それは出来ません」
「はい?」
「これから僕のマンションへ来ていただきます」
「は?」
「あ、間違えました。今日からは僕たちのマンションですね」
「………」
どうしよう。
本当にヤバいヤツに捕まってしまった。売り飛ばされる。
「いやーぁああ!おーろーしーてー」
そしてまた、私の叫び声が社内に響いた。