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「詳しい話は追々として。諦めて僕と結婚して下さい」
ギュッと後ろから両腕ごと抱き締められる格好となり、耳元で囁かれる。
見目麗しい男性に“結婚”と言われ、言い寄られるのはそうそう悪い気はしないだろう。でもそれは相手のことを知っていて、勿論相手に好意を抱いている場合!
諦めて結婚しろだぁ?
美青年なら何を言ってもやっても許されると思ってるんじゃないでしょうね!?
私は両足を少し開いて、重心を下げ肘から上をグッとあげた。そして少し空いた左のスペースから瞬時に体を潜らせ、彼の腕から抜け出す。そして抜け出したと同時に、彼の片足を思い切り踏んだ。
ドゴッ
踏んだ瞬間、ウッと美青年がうめき声をあげた。
足を踏みつけたことにより、彼は床へと崩れ落ちる。まさかこんな時に護身術が役立つとは―――彼が崩れ落ちた瞬間、私は脱兎の如く駆け出す。
フフン!せめてピンヒールでなかったことに感謝するのね!
「まっ…遙さ―――」
後ろから私を呼ぶ声が聞こえたが、勿論立ち止まるつもりはない。
薄情?
ええ!薄情な女で結構ですとも!
そのままドアノブへ手をかけ、壊れるのではないかと言う勢いで戸を開け放ち、そのままの長い廊下を駆け出した。
*** *** ***
私は駆け出しだ直後―――部屋残された美青年は呻いているわけでも、ただ痛みを堪えているだけでもなく、部屋の内線を手に取っていた。
「―――僕です。入り口で彼女をお止めして下さい」
勿論、必死で部屋から逃げ出した私は、そのような手回しがされているなど知りようもなかったわけだが―――。
短いですが、キリがよいので・・・