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コンコンッ

息を吐き終わると同時に、扉をノックする音が聞こえてきた。


先程のメートル・ドテール(レストランマネジャー)が去ってから、3分も経っていないように思うけれど、何だろう?


「失礼いたします」と言う声が聞こえ、個室の扉が開く。

私はそちらに視線を向け、次の瞬間驚愕することになった。


えぇえー!

…そこにはモデルが立っていた。いや正確に言うなれば、雑誌に載っているモデルと見間違ってもおかしくはないルックスの男が。


同年代女性の全国平均身長よりも10センチは背が高く、ヒールのある靴を履くとその辺の男の人と同じくらいの背丈になってしまう私からみても、背が高いと思う。

だからと言って威圧感があるわけではなく、スラリとしていて、まさにモデル体型を言うヤツ。黒髪に銀縁の眼鏡が良く似合い、羨ましいくらいに整った顔立ち。身なりも良い。

まさに世に言う美青年イケメン


「お待たせして申し訳ございません」


視線がぶつかるとその美青年イケメンはニコリと微笑み、まずはお詫びの言葉をかけてくる。

思わず見とれていた私はその声でハッとし、返答する。


「お約束の時間にはまだですし。私が早く着いてしまっただけです」

「いえ。それでもお待たせしてしまったことは事実ですから。申し訳ございませんでした」


申し訳なさそうな表情で、美青年イケメンは再度お詫びの言葉を述べながらこちらへ近づいてくる。そして私がこの部屋に着た時と同じように、彼を案内してきたであろうメートル・ドテールが椅子を引き着席を促す。すると彼は「失礼します」と私に一声掛けた上で、席の着き、スッと手をあげメートル・ドテールを退室させた。


おぉ。

こう言った場所に慣れている雰囲気を感じ、私は思わず感心してしまう。


彼が着席したことにより、テーブルを挟んで向かい合うこととなり、その整ったお顔がより傍に。

…離れていても十二分に輝いて見えていましたが、近くだと、もうその倍はキラッキラッしています!


しかし、いざ向かい合ってみて、緊張。

これは私から声をかけた方がいいのだろうか。そう考えていたら彼の方から切り出してくれた。


「改めてご挨拶を。はじめまして。小田切蓮おだぎりれんです。いつも父がお世話になっております」


渡辺遙わたなべはるかです。こちらこそ、父がお世話になっております」


そう言うと「お世話されているのは僕の父ですよ」と美青年イケメンもとい、小田切さんは感じ良く微笑む。

う~ん。なかなか感じの良い人じゃない?


「遙さんは本日お逢いすることとなった経緯は聞いていらっしゃいますか?」


そして苗字ではなく名前呼びですか。

流石、美青年イケメン。慣れていらっしゃる。


「はい。軽くではありますが」

「ではお話が早いですね」


またもにっこりと微笑む美青年イケメン

私、その笑顔が眩し過ぎて直視出来ません!


「では式はいつにしますか?」

「はい?」


し…式?

この美青年イケメン、いきなり何を言っているの?


一瞬ぽかんとしてしまった私ではあったが、事前に与えられていたもう一つの情報を思い出し、ピンと閃いた。―――この人は最近大切な方を亡くしたんだった。


と、なると。

葬式か!


「それは私ではなく、ご親族の方々含め、ご相談された方が宜しいのではないでしょうか」


「家族には僕たちの好きなようにと言われていますので、僕としては遙さんに合わせたいと思うのですが」


ん?

まだ始まったばかりの会話だが、私は早速、会話に違和感を覚える。


彼は僕“たち”と言ったけれど、それは誰のことを指しているのだろうか。好きなようにと“言われている”と言うのだから、そう言った人のことだろうか?


それにいくら気落ちしているからと言って、初めて会った人にいきなり葬式の話をするのも如何なものか。世間一般的に、そう言ったことは本当に親しい間柄の―――そう、やはり家族などで話し合うべきなのでは?

先程のメートル・ドテールとのやり取りでは、とても洗練されていた動作をしていたけれど、実はあまり常識のない、所謂“残念な男”なのだろうか。


先程までの緊張と美青年イケメンへの憧れは何処へやら。

私は冷めた気持ちで答申する。


「小田切さん。繰り返す様で恐縮なのですが、やはりそう言ったことは私のような初対面の人の判断を仰ぐのではなく、その方を良く知る方々へご相談された方が宜しいと思います」


「そうですか…。でも僕ら男性より、やはり女性の方がメインになるイベントですから、やはり遙さんの意見が重要ではありませんか?ではせめてお好きな色をお教え戴けませんか?それに沿ってコーディネートを依頼しておきましょう」


「好きな色ですか…?」


女性がメインのイベント…?やはり話が噛み合っていない気がする。

亡くなった方は女性なのだろうか。だからと言って、いくら故人が女性と言えど、お葬式と言えば黒だろう。何故色を選ぶ必要があるのだろうか。


「…やはり黒でないでしょうか」

「え?黒ですか?」


痛く常識的な回答をしたはずの私だったが、その私の答えを聞き、彼は驚いている。私としては驚かれる理由がまったく分からない。


「何かおかしいでしょうか?」

「いえ…てっきり白と言われると思いましたが…そうですね、黒もありだと思います」


そ、葬式に白!?

古来の日本や、世界のどこかの国では、確かに白を用いているかもしれない。でも現代日本の常識として、それはどうなの!?


「あ、あのっ!式は日本で、ですよね?」

「はい。僕としては日本を考えていましたが、遙さんは国外の方がよろしいですか?」


「こっ国外!?いえいえ、流石にそれは日本でいいのではないでしょうかっ!?」


ご遺体はそう簡単に国外へは持ち出せないでしょう!この人、大丈夫!?


やはり違和感が拭えない。

そもそものトピックスがずれているような気がしてならず、私は改めてそれ確認をすることにした。


「すみません。確認ですが、式と言うのはお葬式ですよね?」

「お葬式…ですか?どなたかお亡くなりになったんですか?」


は?

的外れは答えを返され、一瞬固まってしまう私。


「いえ。身近な方が亡くなられたのは小田切さんの方がでは?それで意気消沈していらっしゃるので、その気晴らしにと本日の席が設けられることになったと聞いておりますが…」


「僕の身近な…?亡くなる…?ああ!」


一瞬考え込んでいたようだが、どうやら美青年イケメン、思い出したようだ。


きっと悲しみのあまり、心の角に追いやっていたのね。

うん。そう思うことにしよう。


「はい。実は先日、15年ばかり飼っていた愛犬が亡くなりました。それの事でしょうか?」


「犬!?」


「ええ。飼い始めたのは小学校高学年くらいからでしょうか。本当に長い時間を一緒に過ごしました。大切な僕の家族でした」


い…犬?


父さんからは大切な「ひと」と聞いていたから、動物とは思っていなかった。てっきり人のことだとばかり…。でもペットと言え、これまでの人生を共にした大切な家族の一員。きっと彼はこれまでを労わる気持ちも含め、葬儀を執り行うのだろう。


私も小さい頃に飼っていた犬が亡くなった時は意気阻喪し、しばらく食事も喉に通らない日が続いたから、その気持ちは想像ができる。


「それは辛かったでしょう。遅ればせならお悔やみ申し上げます」


「ありがとうございます。でも何故その事をご存知で?」


「父から伝え聞いておりました。とても落ち込んでいらっしゃったとか。ですからこの席が設けられたのでは?式と言うのも、その子の為のお葬式ですよね?」


「お葬式…ですか?」


「はい、お葬式」


「いえいえ。既にあの子は火葬し、ペット墓地へ埋葬しています」


「え?では式とは?」


「結婚式です」


“結婚式”。

その単語を耳にして、ようやくこれまでの会話の噛み合わなさに納得した。

世の中の大抵の花嫁は純白のウェディングドレスに憧れているはずだ。お色直しのカクテルドレスならまだしも、それを真逆の黒と言われたら考え込んでしまっても仕方ない。


将来の奥さまの為にサプライズの為とか、美青年イケメンには美青年イケメンなりの悩みがあったりするのかもしれない。でも結婚式なんて基本、一生に一度の催し。

私だったら、見ず知らずの女が決めたドレスをその晴れ舞台には着たくはない。


やっぱ、ドレスの色はまずは主役である新婦の意見を基に、これからの人生を歩む二人で決めた方がいいでしょ!


「ご結婚されるのですね」

「はい」


良く知らない相手とは言え、これから幸せになる人を見るのは悪い気はしない。私は心から、「おめでとうございます」と祝いの言葉をかけた。

すると美青年イケメンは「あ、はい。ありがとうございます。遙さんからその様な言葉をかけられるのには、少し違和感がありますね」と返してきた。


うーん。

良く知らない間柄とは言え、そこは素直に受け取ってもくれてもいいのでは?


「だって遙さんも結婚するのですから」


んん?空耳だろうか。

マイ・ライフスケジュールから最も遠いイベント名が聞こえてきた。


「え?」


思わず感嘆符で返すと、美青年イケメンも同様に「え?」と返してきた。


「あの?誰が?」

「あなたが」


「誰と?」

「僕と」


「何を?」

「結婚を」


私が結婚するような話が聞こえた様な気がしますが、私にはそんな予定はありませんから、やはり空耳ですね!


「とりあえず、僕と結婚して下さい」

「はい?」



*** *** ***


と、ここまでが美青年イケメンこと小田切蓮との、冒頭へと続く、出逢いの始まりだった。



長いの区切ろうかと思ったのですが、そのまま投稿しました。

前話の2倍の長さになってしまいました…。

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