第4話~友達が残念で何が悪いっ!~
翌日、修は朝、体をベッドから起こすと全身に嫌な汗をかいていた。特に悪い夢を見たわけでもないのに何でだろうと思いつつも、シャワーを浴びる事にして部屋のチェストから着替えを取り出し、風呂場へと向かった。
「あら、修こんな時間に起きるなんて珍しいじゃない」
ちょうど風呂場へ向かう途中、キッチンの方から出てきた女性に声を掛けられた。
彼女は、神谷楓。修の母親である。いつもニコニコした表情に髪は後ろで綺麗に纏められている。温和そうな雰囲気を醸し出しているが修曰わく、キレると七海よりも怖くて怒らせてはいけない人ランキング第一位らしい。(ちなみに七海は第二位)
朝食の用意をしていたのか、いつものエプロン姿だ。
「ああ母さん、それより汗かいたからシャワー浴びてくる。」
「ふぅん。悪い夢でも見たの?」
「……まぁそんなとこかな」
とりあえず適当に答えておいた。
「分かったわ。時間無いんだからさっさと浴びてきなさい」
「はいはい」
修は軽く返事をすると寝癖の立った頭をポリポリとかきながら再び風呂場へ向かった。
数十分後、修はシャワーを浴びて風呂場から戻ってきた。今は制服に着替えて食卓の席についている。
テーブルにはトーストとスクランブルエッグ、サラダが並べられている。どれも出来立てで、おいしそうな匂いを漂わせている。
いただきます、と手を合わせた後、修はスクランブルエッグとサラダを即行で平らげ、残ったトーストを牛乳で胃に流し込んだ。それを見ていた楓は呆れた顔をしていた。
シャワーを浴びていた事もあって、朝食の後はすぐに家を出る事になった。出る直前、制服のズボンに入れてある携帯を見てみると、メールが一件着ていた。
相手は修の親友の内の一人である、坂口勇輝からだった。
メール内容は、『今日いつもの待ち合わせ場所でな。遅れるなよっ!』との事だった。
修は了解と返信をして、いつものように家を出て行った。出たときに、七海とも一緒に行こうかと思ったが、昨日の事を思い出して誘うのをやめた。
修が駅前まで来るといつも見慣れた三人の友人の姿があった。すると修に気付いたのか、一人がこちらに向かって手を上げた。
「おはよう修。遅いぞ!」
そう言ってメガネに手をかけたのは、先程のメールの主である坂口 勇輝だ。
すると後の二人も修とあいさつを交わした。
「そうだぜ修。遅れたらどうすんだよ」
「まぁ揃った事だし行こう」
二人は柊 拓人と須藤 龍斗。修の親友だ。
この三人とは高校に入ってから知り合って親しくなった仲だ。しかし、修とはまったく違うタイプの人間だ。
まず、坂口 勇輝。彼は成績優秀、運動神経抜群の文武両道で、しかも生徒会の会長もこなしている。もちろんクラスメートや教師からの信頼も厚い。まさに完璧人間。修からすれば「良い」の方に傾いた人間だ。
次に柊 拓人。彼を一言で表すならイケメンだ。学校でたぶん一番モテていると思われる。勇輝とはまた別の意味で「良い」方に傾いている人間である。
最後に須藤 龍斗。彼は修の目から見ても特に目立ったところがなく、唯一「普通」な人間。勇輝や拓人とは違い、修と似たような感じである。
普通を目指している修にとって彼らとの出会いは想定外だった。しかし、特には自分の普通に支障も出ず、今はそんな事も気にせず普通にしゃべったり遊んだりしているので、結果オーライと言えるだろう。
ただ、勇輝、拓人、龍斗の三人は致命的に残念すぎるところがある。
それは修にとっても悩ましい事で、度々…… いや、毎日ため息が出る。
残念なところをまとめるとこうだ。
勇輝は二次元オタク。それもディープな正真正銘のオタク。
拓人はイケメンでモテるが妹LOVEのシスコンで、何かと妹の話をする残念な奴だ。
龍斗は…… アホすぎる。あと口調も独特な言葉を使うおかしな奴だ。
まぁこんなところだ。修はそんな事を思いながら三人を見ていると無性にため息をつきたくなった。そして、昨日の事の収拾と今日一日のことを考えると、なお一層深いため息が出そうになった。
(俺の普通を守る為だ…… 昨日の事は何としても収拾をつける!)
こうして今日も一日普通を目指すため、カオスで残念な一日が始るのだった。