第3話~考え事をして何が悪いっ!~
百合奈は帰りの電車の中で考え事をしていた。もちろん先程自分のことを助けてくれた少年についてだ。
今まで自分に言い寄ってきた男は学校にもたくさんいた。ただ、自分がガラの悪い男達に絡まれて困っているときに助けてはくれなかった。さすがに数人の不良を相手に百合奈を助けるのは容易ではない。
しかしさっきの少年は違った。
危険を犯してまで自分のことを、しかもたった一人で相手の不良達をやっつけてしまった。
その時の事を思い返すと一つ分からない事があった。それは何故、自分の事を助けたか・・・・・・。
あの時は彼女自身も正直困っていて、それを助けたのは普通かもしれない。しかし、それならなぜ、あんな強引で危険な助け方をしたのだろう。
もっと別の方法があったかもしれないのにと百合奈は思っていた。
それにさっきの少年は同じ学校の、それも同じ学年の男子だった。少年との面識は一年の頃も二年になってからもなく、今日初めてあの場で言葉を交わした。とは言ってもすぐに帰ってしまったが・・・・・・。
百合奈も名前を聞こうと思っていたのだが、修が「周りの視線が痛いから」という理由で逃げてしまった為、クラスも聞けなかった。
しかし、助けてもらった事には変わりないので、心から感謝はしている。
百合奈は電車の窓から外を眺めると、もやもやした気持ちを感じた。決して嫌な気持ちではないのだが、何かが引っかかるようなそんな気分だった。
(明日にでも会えたらちゃんとお礼するべきよね……)
そうこう考えているうちに目的の駅に着いて、もやもやした気持ちを抑えながら街灯の光を浴びて帰路についた。
夕飯をとった後、百合奈は親に少し聞いてみる事にした。
「ねぇ、お母さん」
「ん? どうしたの」
そう言って食器洗いをしている手を止め、振り返ったのは百合奈の母だ。
百合奈と同様、スタイル抜群でモデル顔負けのプロポーションだ。二十代といわれても納得できるのが怖い。
「実は今日ね、同じ学校の男の子に助けてもらったの」
「へぇ~ なんで?」
「今日ショッピングモールに寄って帰ったときに、男の人達に囲まれちゃってさそこで私が困ってたときにその子が助けてくれたの!」
最後はやや、嬉しそうに言い張った百合奈だったが、その様子を見ていた百合奈の母がニヤニヤしていた。
「それでその男の子、名前なんていうの?」
「それが、名前を聞こうと思ったんだけど、すぐに帰っちゃったし・・・・・・ それに何で私のこと助けたんだろう・・・・・・」
「ふふっ何それ? その子面白いわね。」
その後、百合奈は少年が強かったとか、助けてくれた一部始終を母に話した。
この日の夜はなぜだか、ずっと少年の事が気になって、眠る前までずっと少年のことを考えていた。
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修は現在駅から自宅へと帰っている所だ。そんな修は今考えていた。
もちろん、さっき助けた姫河 百合菜の事と助ける為に支払った代償についてだ。
助ける為に支払った代償と言うのはチーズバーガーの事だ。
(はぁ・・・・・・ ちょっとやりすぎたな。なにより、俺逃げてきたし・・・・・・)
それもそうだ。不良三人を秒殺した後、周りの視線が痛かったせいで百合奈を放置し逃げたのだ。修はこれも俺の普通を守る為の戦略的撤退、と考えて自分を納得させた。
それよりも気になるのは、彼女が変な噂をしないかだ。まぁそういう性格ではなさそうだし、なにより学校のアイドル的存在なのでそういう事はないだろうとは思っているものの、どうしても不安は残ってしまう。
それに顔もばれているので、学校で会ったときには何か言われかねない。幸い名前を名乗っていなかったのが唯一の救いだ。
(まぁあいつのクラスに近寄らなければいいか・・・・・・)
百合奈のクラスは4組。修のクラスは2組なので極力4組の方に近寄らないようにするか、休み時間は教室でおとなしくしてるか・・・・・・ といっても元々休み時間は教室で寝ているか、友人としゃべっているかなので心配なのは登下校のときぐらいだ。
修も会った時は会った時で、何とかしようと考えていた。別にそこまでしなくても、会って話しかけられたら普通に話せばいいのだと思うのだが修の思考回路というのは案外普通じゃないのかもしれない。
そうして修が色々悩んでいる間に家の前まで着いた。修は、もう着いたのか とため息混じりに家の門に手をかけた時、
「修!」
隣の家の方からそんな声が聞こえた。修はあいつかともう一度大きなため息をつくと振り返った。
そこにはよく見知った女の子がいた。名前は夏川 七海。
修とは幼馴染というよりも腐れ縁と言った方がしっくりくる。小柄な体系だが、スタイルは良くて、ブラウン色の髪はボブヘアーにしていて顔もなかなかの可愛さである。修によれば、性格がよければいい奴らしい。彼女は運動神経抜群で、体育系の女の子だ。そのせいかやんちゃな部分もあり、修に突っかかっては暴力を振るうという行為に至っている。
「なんか用かー?」
やる気のない声で答える。
「修がこんな時間に帰宅なんて珍しいじゃない」
「ああ、今日は色々と面倒事があったんだよ」
「ふん、どうせ自分から厄介ごとに首突っ込んだんでしょ」
強ち間違っていないのが怖い。修はツッコミたくなる衝動を抑えながら、早く帰りたいと思っていた。もはや家の門に手をかけて入ろうとしているところだ。
「で、何があったの?」
すっと首をこちらに近づけながら七海が聞いてきた。正直これ以上面倒な事はごめんだと思った修はその場から逃げようとして門からドアへ手をかけたが、もう一方の腕を七海にがっちりとホールドされてしまった。
「黙秘権を行使します」
ピキッ
その瞬間、修の腕から鳴ってはいけないような音がした。七海の力は本物だ。下手に行動、発言すれば修の腕は意識もろとも簡単に逝ってしまうだろう。
「で、何があったの?」
「いや、あの・・・・・・」
「・・・・・・何があったの?」
「ギブ! ギブ! これ以上はホントにやばいって!」
「な・に・が・あ・っ・た・の?」
グキッ
「ぎゃあああああぁぁぁぁ!!」
とうとう修の腕から本当にやばい音が聞こえてきた。身の危険を察知した修は、何とか七海の腕を振り解き、目にも止まらぬ速さで家に入った。ドアの鍵を閉めてその場にしゃがみこむ修。
ドアの向こうからは七海がドンドンと扉を叩きながら、何があったか教えなさいよ! というのが聞こえてきたが、今の修は何事もなかったかのように無視するしかなかった。
額から流れる冷や汗を拭いながら、修はドアの向こうから聞こえてくる七海の声を聞こえないふりをした。そうしてリビングへ向かおうとしたとき、
『まさか、修・・・・・・女絡みなんじゃないんでしょうね!?』
「んなっ!?」
七海の突拍子のない発言に、修は間の抜けた声を上げた。こいつには読心能力でもあるんじゃないのか、と修は驚きと自分がおかしな声を上げて反応してしまった事に頭を抱えた。そして地雷を踏んだのを悟った。
『その反応・・・・・・やっぱりそうなのねっ? 修どういうことか説明しなさい!』
「やめろ! お前は俺の家のドアを壊す気か!?」
ドアを壊す勢いで叩いている七海。このとき、修には七海がどんな表情でドアを叩いているか想像できた。
『じゃあ説明しろぉ!』
いきなり口調が強くなった。(さっきまでも強かったが)ここまでくるとさすがにまずいので、修は簡単に説明する事にした。
「困っている人がいたから普通に助けて普通に帰ってきたら普通に遅くなった」
そう言って修はリビングへ向かった。いくらなんでも簡潔にしすぎである。もちろんそんな適当な説明に七海は怒る。
『し・・・修っ』
修がリビングに入ると丁度夕飯の用意がしてあって、すぐに食卓についた。
チーズバーガーを食べ損ねていた事もあり、修はあっという間に自分の皿に乗っていたものを平らげてしまった。
夕飯の後は特に何をする事もなく、今日の事をどうするか考えた後風呂に入ってすぐに眠りについてしまった。
明日、大変な事になるのを知らずに・・・・・・。
次から修の残念な友人達が登場します笑