第2話~助けて何が悪いっ~
「なぁいいだろちょっとくらいさ」
女の子を囲んでいる三人の男の内、金髪の男がそう言った。女の子はしつこく言い寄ってくる男たちを最初は無視していたが、さすがに困り果てていた。
女の子がその場を離れようと鞄を持って立ち上がると長身の男とロングヘアーの男が女の子の前に立ち、取り囲むようにした。
「俺達とちょっくら付き合ってくれるだけでいいから」
「そうそう俺らと楽しもうぜ~」
そう言ってニヤニヤと下品な笑いを浮かべながら女の子の方に顔を近づけた。
「もういい加減にして! !」
とうとう女の子が怒って大声を出したが男たちはヘラヘラしながら女の子を誘い続けた。
「つれないこと言うなって。 ちょっとぐらい付き合えよ」
金髪の男は女の子の腕を強引につかんだ。
それを見ている周りの人達は見て見ぬふりをしている。ひそひそとこちらの様子を見ている者もいるが、女の子を助けようとする者はいなかった。
「ちょ、ちょっと放して!」
パンッ
女の子は強引につかまれた腕を振り回したのだが、偶然にも手が男の顔面に当たり金髪の男の頬が赤くなっていた。
その瞬間を見ていた周りの人達は目を丸くし、はっと息を呑んだ。もちろん本人はそんなつもりは無かった。大体この男が悪い、が男は完全に頭に来たらしくいきなり口調が荒々しくなった。
「この女・・・っよくも俺様の顔殴ってくれたな! もう許さねぇ!」
男は拳を振り上げ、女の子を殴る体勢に入っている。
女の子は目を瞑り、スッと顔を背けた。男が躊躇無く殴ろうとした瞬間、
ガシッ
「おいおい、女の子に手を上げるなんて普通じゃないだろ」
誰かが金髪男の手をつかんでいた。女の子はどうしたんだろう、といった感じで恐る恐る目を開けてみると、そこには自分と同じ制服を着た少年がいた。胸の紋章を見る限り自分と同じ二年生だ。
そう、先程まで隣の席で様子を見ていた神谷 修だ。
「あーケガはない?」
修が聞くと女の子は無言でこくこくと頷いた。
「おい、てめぇ何者だ・・・・・・っつか腕放しやがれっ」
「こいつ、この女と同じ制服着てやがるぜ」
「じゃあ知り合いか?」
修はパッと金髪男の腕を放した。
「はいはい。それより人に名前を聞くときは自分から名乗るものじゃないのか?」
「てめぇ!なめてんのか!」
金髪男の後ろにいたロングヘアーの男がいきなり叫んだ。どうやら修のふざけた発言(この男にとって)に腹が立ったようだ。しかし、当の本人はなぜ相手が切れたのかまったく分かってない。彼は彼で呑気なものだ。
「もうさ~ コイツ殴っちまおうぜ」
「ああそうだな。俺も男なら遠慮なしに殴れるぜ」
金髪男と長身の男は修の方を睨み続けながら、手をパキポキとならし始めた。
お前はさっき女の子を殴ろうとしていただろ、と言いそうになったが今発言するとまたややこしい事になりそうなので脳内でツッコミを入れた。
「まぁここは平和的に行きましょうよ。俺はケンカとか好きじゃないし」
だって普通じゃないから。
「ハッ!今さら命乞いか?」
「コイツびびってやがるぜ!」
ゲラゲラと男三人はまた笑い始めた。彼の後ろにいる女の子はそんなやり取りを見ていて、この男の子は大丈夫だろうか、と内心不安でいっぱいだった。せっかく助けてくれるのはいいが、そのせいでこの男の子が怪我をするのはあまり気分のいい事ではない。ましてや同じ学校で同じ学年の人ならなおさらだ。
周りで様子を見ている人達も不安そうな顔で修達を見ていた。
「はぁ・・・・・・とりあえずあんたら三人」
男達の笑いを不快に感じながらも修は三人に対して言った。
「この女の子に悪いことをしたんだ。ちゃんと男らしく謝れ。」
それを聞いた三人は忽ち不機嫌になり、女の子は目を丸くして驚いた。もちろんそれを聞いていた周りの人達もだ。
いくら困っている人を助けるのが普通とは言え、不良三人に一人で立ち向かうのは女の子や周りの人達からすれば勇気があると思える行動だろう。
「てめぇ・・・!さっきから何様のつもりだっ」
金髪男が修にむかって叫ぶとその勢いで胸倉をつかんだ。修は特に動じることはなく、
「いやだからこの女の子が困ってたから助けただけだ。それに悪いことをしたなら謝るのが普通だ」
「てめぇ!!」
これは真っ当な正論だ。すると長身の男とロングヘアーの男が同時に修に殴りかかろうとした。その瞬間、女の子は見ていられず目を瞑った。しかし修はニヤッと笑みを浮かべると、
「俺は今殴られようとしている。反撃しても正当防衛になるよな」
まるで自分に言い聞かせるようにして、二人の拳を受け流した。
「「な!?」」
二人はそのままから修の後ろにバランスを崩した。そして振り返った途端に修の拳がロングヘアーの男の頬にめり込んだ。
「ぐはっ!」
(まずは一人っと)
「ひぃ!」
ロングヘアーの男はそのまま地面に叩きつけられた。吹っ飛ばすことも可能だったが、他人に迷惑をかけたくなかったのでそのまま殴り倒したのだ。
「ふっ!」
今度は殴った反動を利用してそのまま長身の男の鳩尾に回し蹴りを喰らわした。男は膝から崩れ落ちて腹を押さえるようにしてうずくまった。
女の子が目を開けるとそこには男が二人倒れていた。修に殴りかかっていた男二人だ。女の子は目の前にいる少年を見つめた。彼がやったのだろうか、いや彼以外の人達は驚いた表情で固まったまま・・・・・・・やったのは彼しかいない。気付けば女の子は少年を見つめていた。
修が金髪男に近づくと、途端に男はすみません、すみませんと謝りだしすっかり丸くなった。
「俺に謝るんじゃないだろ。この女の子に謝れ」
すると素直に男は女の子に何度も頭を下げて謝った。それから猛ダッシュで逃げていった。女の子の方は結構戸惑っていたが、事が収まってホッとしている。周りはまだ唖然としていたが・・・・・・。
「あの~・・・」
女の子が話かけようとした時、修はやっと周りの視線に気がついて額に手をあてた。
そしてこの時実感した。やりすぎたと。
「さっきは助けてくれてありがとう。私、姫河百合菜っていいます。あの・・・同じ学年の方ですよね?」
「ああ」
百合奈は修に向かってぺこりと頭を下げて、修を見つめながら問いかけた。それに対して頭を抱えていた修はハッとして彼女の方を見る。
修は百合奈のことを知っていた。同じ学校で同じ学年だからではない、もっと他の理由でだ。
それは百合奈が学校でとても有名だからだ。モデルのような整った顔立ちに少し茶色がかったセミロングの髪をカールさせている。美しいプロポーションに見事なまでの脚線美。見れば、そこらへんのモデルなら裸足で逃げ出していくだろう笑顔。
彼女は容姿端麗、スタイル抜群という言わば美少女に分類される生徒で、その中でも「超」が付くほど美少女だ。
修も入学当初から色々な噂を聞いたり、廊下ですれ違った事ぐらいはあったがこうして話すのは初めてだった。
百合奈はずっと自分のことを見ている修に対して少し顔を赤くした。修はその様子をみて、やっぱり可愛いな、これならナンパもしたくなるわけだ、と納得した。
このとき修は周りの視線から逃れたいという気持ちで一杯だった。現にこうしている間にでも帰りたいと心から思っている。暫し悩んだ末、修はこの場から離脱することを選択した。
そのためなら多少強引でも構わない、とりあえず逃げれば勝ちなどと思い鞄を持った修はもう一度百合奈の方を向いた。
「じゃ、とりあえず俺はこれで! じゃあな!」
「え・・・ちょっと」
修はそのままショッピングモールの出口まで全速力で逃亡|(?)した。百合奈の呼び止める声が聞こえたが、ここは視線から逃れる為と自分に言い聞かせそのまま帰路についた。
ただ、修は重大なミスを犯してしまった。
「あ、チーズバーガー持って帰るの忘れてた」
修は電車の中でチーズバーガーを買ったが食べていないことに今頃気付き、長椅子に座りながら
「お・・・俺のチーズバーガー・・・・・・」と項垂れ、その事だけが心残りとなった。
最近寝不足が半端ないですw