私の婚約者は中二病です。実は私もです
「大丈夫なの?」
会った友人にエリンシャは心配される。
「ええ。何も心配いらないわ」
そう心配されるのは婚約者についてだった。
怪我もしていないのに常に右目に眼帯をして、これも怪我をしていないのに左腕には常に包帯を巻いているからだ。
理由は邪神を封印しているとのこと。
真顔でそう言う婚約者のことを、エリンシャの周りの者が心配するのは、ごく当たり前のことだった。
「あなたの婚約者は大丈夫なの?」
ある日親しくはない令嬢からそう言われて、エリンシャはまたいつものことだと聞き流す。
しかし令嬢は口元に扇子を広げて続けた。
「どうしてあなたの婚約者は大丈夫ですの?」
「え?」
よくよく聞いてみれば、最近平民の女の子が光魔法を発現して学園に通い始めたようだが、次々に婚約者がいようがお構いなしに粉をかけまくっているようで、令嬢の婚約者も粉をかけられたらしく、この間二人はデートをしたらしい。体の関係もあったようで、婚約破棄を考えているようだった。
「多くの方が粉をかけられて、体の関係もあるようなのです」
「婚約者がそんな……辛かったでしょう」
「ええ。ええ。もう婚約者には未来が見れませんの」
「もしかして王太子殿下も?」
「私がどうしたって?」
声がして振り向くと王太子がいた。
エリンシャと令嬢は頭を下げる。
「ここは学園だ。頭を下げなくていい」
頭を上げる二人に王太子愚痴をこぼす。
「私は父に言われてね。聖女になるかもしれないからと面倒を見るように言われてね。だがそれを勘違いさせたようで、決まっていないのに聖女だと名乗るし、私の婚約者を悪役令嬢だと呼んだりやりたい放題だ」
「そこまで分かっていて放っているのは何か意味があるんですか?」
「さすがウーリン公爵家の婚約者殿だ。今から膿を出そうと思ってね。多くが婚約者がいながら体の関係を持っている。嘆かわしいことだ」
王太子はクスリと笑う。
「君の婚約者、エムリムが言っていたよ。一緒に邪神を封印する呪文を考えたと」
エリンシャは顔が真っ赤になる。
令嬢は口元に扇子を広げる。驚いているのが目で分かる。
「あいつは昔からそんなことばかり言っていてな。公爵家でなければ精神疾患だと表立って言われただろう。今も陰口で言われているが」
王太子はうーんと考え、そして口に出した。
「天を統べる光の楔よ。我が命の灯火を糧に闇を貫け。常闇の王、混沌の申し子よ。数多の嘆きと共に永久の眠りへと就くが良い。白銀の鎖よ絡みつき、破界の扉を閉ざさん!」
言い終わり、王太子は笑い転げる。
エリンシャは顔を伏せる。婚約者が邪神を封印する呪文について考えていたので、一緒に考えたのだ。こうして第三者に言われると穴があったら入りたい。
「この呪文をあなたも?」
令嬢は何を思ったのか、しゅんとする。
「私だったら鼻で笑って終わりにしていたわ。一緒に考えることもしないで。そういう所が私のいけない所ね」
「あの、いら、その」
「そういえば自己紹介してなかったわね。私はルーマ・エルットよ」
エリンシャは言葉に詰まった。エルット侯爵令嬢だったのだ。
ルーマはにこりと笑う。
「最初公爵家はどうして子爵家のあなたを婚約者にしたのか意味が分からなかったけど、分かったわ。あなたのように心を広く持ちたいわ」
エリンシャは困ったように笑う。
エリンシャは前世を思い出したのだ。
なので婚約者の言動が中二病だと分かるし、エリンシャも実は中二病だった時期があったのだ。
「こんな場所にいたのか」
声がした。
右目に眼帯をし、左腕に包帯を巻いている婚約者に、エリンシャは顔を歪めた。
右腕に恐らく自称聖女が抱きついていたのだ。
「おいおい。まさかお前も?」
まさか、と顔になる王太子に婚約者は頭を下げた。
「頭上げていいよ!」
頭を上げた婚約者に王太子は右腕に抱きついている自称聖女に指を指した。
「どうしてマーロンを腕に抱いているんだ!」
「この幽霊はマーロンと言うのですか?」
「だから。私幽霊じゃないですぅ」
「話が通じない幽霊に憑かれて困っているんです。エリンシャに幽霊を成仏させる呪文を考えてもらおうと思いまして」
幽霊扱いされているにも拘わらず、マーロンは婚約者から離れようとしない。
エリンシャは目を瞑り考える。
そして目を見開いた。
「臨兵闘者皆陣烈在前!」
右手の親指以外握り、人差し指と中指を伸ばして手刀を作り、空中に横、縦、横、縦と交互に線を書き、最後に真ん中にエーイと叫びながら手刀で突き刺した。
エリンシャの迫力にマーロンは婚約者から後ろに下がると、婚約者はマーロンを振り払い、エリンシャに抱きついた。
「ありがとう。幽霊が離れていったよ!」
「でもまだいるわ。一緒に成仏する呪文を唱えましょう」
二人は呪文を唱え、マーロンに向けてエーイと叫んだ。
マーロンは顔を引きずり、逃げ出した。
「成仏はできなかったが、逃げ出したぞ!」
「これからはこうしてね」
「ああ!」
王太子は声が出せないほど笑い転げ、ルーマはそれをメモをしていた。
「私の友人に教えてみますわ。何人か扱いが分からないって腕に抱きつかれている婚約者がいるので」
王太子はそれがいいと同意する。
ルーマはエリンシャの手を掴んだ。
「私、次の婚約者にはあなたみたいに寄り添ってみせるわ」
エリンシャは笑ってごまかした。
次の日から幽霊を成仏させる呪文が学園に広がり、エリンシャは穴があったら入りたかった。
「エリンシャ。足音を鳴らしたいと思っているんだけど、どうしたらいいと思う?」
今日も婚約者は中二病について相談する。
多くの令息が婚約破棄される中で、婚約者について心配はなかった。
エリンシャはこれからも中二病について相談されるのだろうな、と思うのだった。




