「『今日』から始める人間観察記。」
「『今日』から始める人間観察記。」まとめです。
(一部内容を修正しています。)
「人間観察を始めようと思います!」
高校三年生の春後半、ティアナ・ライムはそう言った。
「…なんでこの時期に、そんなことするんだよ。」
同じく三年でライムのクラスメイト、グレー・アンカーがそう返事をする。
「だって、面白いから。」
ライムは、少し微笑んでそういった。
「このノートにみんなのことを書き混んでいくんだ。ああ、ワクワクするなぁ。」
「…へえ…そうかい、なら、はじめに誰を観察するんだ?」
グレーは呆れながらそう呟いた。
「例えば、あそこの人達とか。」
ライムはグレーの数メートル先のクラスメイトの集まりを指差す。
あの辺りには、レッド・テッド、オランジ・サンシャイン、ピンキー・カリッシュその他諸々がいる。
「あいつら、いつもはしゃいでる奴らだよな。で、一体彼らの何を監察するんだ?」
グレーはライムに尋ねる。
「まずは、彼らの喋り方でしょ。」
ライムは言う。
「彼らは明るいから、奇抜な言葉をよく使ってる。ほら、「マジ⁉︎」とか「ヤバ〜」とかよく使ってるでしょ。」
「確かにそうだな。」
グレーは言った。
「次に髪型。彼らは目立ちたいから、人の注目を集める髪型をしている。レッドは四方に棘が生えたような髪型、オランジはリーゼント、ピンキーは短めのサイドテール。どれも個性全開だ。」
「ふーん。」
「あとは身につけているものでしょ〜それから〜・・・・・」
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グレーは、夢中になって彼らのことをノートに書き留めるライムを見ながら
『こいつはこんなちっぽけなことに楽しさを感じるんだな』と思った。
グレーはここ最近、勉強ばっかりで誰かと話したり、遊んだりしたことがあまりなかった
もちろん、スマホやゲームにも一歳手をつけていなかった。
それ故に、日常がつまらなく見えた。
黒でも白でもない灰色の日常。
授業の合間にクラスメイトと話していても、話題に何の興味も湧かなかった。
この、たった1人の話し相手のライムと話す時を除いて。
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グレーとは、3年生になって初めて一緒になったクラスの子だ。
最初は、自分が屋上で現代文の朗読をしている時に彼女の方からやってきて
「ねえねえ、さっきの朗読声がすごく良かった!もっと聞かせてよっ!」…と急に詰め寄ってきたところから始まった。
それ以来、俺が屋上に来ると彼女は自分から話をして来たり、最近になっては教室にいる時にまで話しかけてくるようになった。
初めは、「なんなんだこいつ。」と思いながら、わざわざ彼女の話を聞いていたが、彼女の話す話題は他のクラスメイトが話す話題よりも興味深いもので、気づいたらいつの間にか彼女の話を聞くことが楽しくなった。
誰よりも、面白くておかしいやつ。
そんなライムにグレーは少し思いを寄せていた。
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その日の放課後、学校の屋上にて。
ライムはグレーと一緒に夕焼けを眺めていた。
「…夕焼けって、赤くて綺麗だよな…」
グレーはおもむろにつぶやく。
「そうだね。太陽の光で空の色が変わる、実に魅力的だよ。」
ライムはまた目をかがやせて言う。
グレーは少し引きながら、彼女を見つめた。
そして、数分後、グレーは口を開いた。
「なあ、ライム。」
「?、どうしたの、グレー。」
「お前、今みんなの観察してるだろ…?」
「。そうだけど。」
「俺、お前の観察してもいい?」
グレーは言った。
「⁉︎」
ライムは少し驚いた。
「わたしの観察?でも、どうして…?」
ライムは少し間を置いてそう言った。
「じ、自分の観察は、自分じゃできないだろ…あとは…」
グレーは続けて言った
「お前に、興味があるから…」
グレーの顔は真っ赤だ。
(「…だああああっ!なんて事言ってしまったんだあああ!これ絶対変に思われるやつうぅぅ…」)
心の中で、グレーは叫んでいた。
ライムは少し呆然として、そして顔を少し埋めた。
グレーは(「やべ…本当にそう思われてしまったかも…」)と感じた。
しかし、数秒後。
「ふふっ、」
「……?」
「あははっ!」
「…!?」
突然、ライムが笑い出した。
「あ〜面白っ…、何を言い出すんだと思ったら、そういうことか〜。確かに、私の観察は私自身じゃできないもんねぇ〜。しかも、理由の一つに私に興味があるからかぁ〜。」
グレーは少し戸惑った。
「わ、悪かった!突然こんなお願いを言ってしまって…本当は他の親しい人に観察してほしいよな!?」
「…いや、いいよ。私に興味を持ってくれただけで、嬉しいよ。」
ライムは笑って出てきた涙を手で払ってそう言った。
グレーは以前として心配と申し訳なさで混乱している。
そんなグレーにライムは「ある物」を手渡した。
「…?これは『B5ノート』…?どうして、俺に…?」
「どうしてって、君がやりたいんでしょっ。『私の観察』。」
「⁉︎」
「君が私のことをまとめると、どうなるのか少し興味が湧いてね。実験してみることにしたの!」
ライムは満面の笑顔で言う。
「…」
グレーは少し心が熱くなった。
「さあ、明日からよろしくね、グレー君。私のことちゃんとまとめてよっ!」
ライムは言う。
「…うん。」
グレーは彼女を見てそう言った。
「…あ、一応だけど、今日のグレーくんのこと、観察記に書いておくからね〜。『グレー君は私に興味があって、人間観察をしたいって言ってきた』と。よーし、また一つ人間観察の項目が増えたぞ〜っ! 」
(「!…しまった…」)
グレーは心の中でそう感じた。
でもまあ、それはそれでいいか。
グレーはシャーペンでノートに書く。
『ライムはちょっとよくわからない人だが、話す内容はいつも奥が深い。あと…
彼女はいつも明るくて、話を聞いていると元気になれる』
屋上の広場で夕焼けの橙色に笑顔で「人間観察記」をかざすライムを、グレーもまた笑顔で見ていた。
二人の「人間観察記」はまさに『今日』始まったばかりだ。




